今週の闇金ウシジマくん/第306話 | すっぴんマスター

すっぴんマスター

(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第306話/洗脳くん34






ものすごいチームワークで、みゆきを追ってやってきたヤクザ・柏木を葬った上原一家。重則の死ももちろんたいへんな事件だが、ヤクザに手をかけてしまったのはかなり大きい。


しかし神堂の興味はもはや上原一家にはない。知ったことではない。じぶんたちで処理せよと命じて、デートに出かける。といっても、柏木の件が警察なりヤクザなりにばれたら、どれだけ周到にストーリーを用意していたとしても、連鎖的に神堂だって面倒から逃げられなくなるはずなので、そんなほっといてもいいのかなという気はするが、だとしたらなおさら、逃亡するためにも、彼はいま金が必要なのかもしれない。


前回彼は莉子という女性とメールしていて、夜景を見ながらデートしていたが、今回登場するメガネの女性がその莉子なのだろうか。正体をあらわす前の神堂は、いや、あらわしたあとでも基本的にはそうなのだが、なんというか、ふつう恥ずかしくてくちにできないような、お芝居のセリフみたいなことばを滔滔とくちにする。だから、客観的にはどことなくうそくさいのだが、通してそんな口調ではなされれば、いずれ慣れてきて、むしろ相手はそこに真実を見てしまうのかもしれない。そして、相手のほうでも、なにか気取った空気になるというか、じぶんもその、一種の高みにある相手と同等のものと考えて、似たような口調になっていく。ウシジマ作品では、撥音を小さいカタカナの「ン」で表現しているが、これはたいてい、じっさいにそのことばをくちにするときの便宜上変化したものだ。しかし、神堂のしゃべりかたは、そういう活用のしかたをしない。だから、なにか、書かれたものを読み上げたような感じがする(じっさいわたしたちは「書かれたもの」を読んでいるので、このはなしにあまり意味はないかもしれないが)。「書かれたものを読み上げているような感じがする」とき、ひとは、そのなかに「準備」を感じ取るだろう。相手の発話に対して反射的に、その場で語られることばなのではなく、先手をとられているような感じを覚えるのだ。しかし、この「先手をとられる」感覚というのをむしろ好む、そういう女性を、神堂は選んでいるはずである。莉子もそうなのかわからないが、まゆみや可奈子は勅使川原の占いの客だった。世界を、いまふつうに流通している価値観外のもので説明しようとする理論体系。勅使川原の客には、少なくともそういうものを求める「傾向」はある。そしてたぶん、とりわけてそういう傾向が強い女性を、勅使川原は選んでくる。神堂は、彼女たちにとってのその新しい価値観を、「先手」をとった、手際のよい紳士として、包容力に翻訳して表現するのである。


神堂は莉子()に信仰について語る。ひとは光を、信仰を必要とする。あなたは希望そのものである。たほうで、あなたにも希望は必要であるはずで、優れた夫と子をもつことが女性の成功であるなら、愛が必要なはず。あなたのために世界を失ってもいいが、世界のためにあなたを失いたくない。そうして、神堂は指輪をプレゼントし、プロポーズするのであった。


そのころまゆみは、たぶん団子を捨てて歩いているようなのだが、左右で目のかたちがちがう。これは、ちょっと前にみゆきについてもあった描写である。たんなる絵の問題だろうか、それとも、せめぎあうなにものかが顔の左右にあらわれているのか。


さて、久しぶりのカウカウファイナンス。マサルと丑嶋が金子のところにきている。客の女の子に仕事を紹介してやってくれということだが、金子は無理だという。ちょっと前までは景気がよかったのだが、一番人気のみゆきはこないわ柏木はツケを払わないわで、最近は調子が悪いらしい。黙ってマサルと金子のやり取りを聞いている丑嶋に、金子は、取り分を半分にわけるということで、最近見ない柏木から取り立ててくれないかという。柏木のはなしをしても、丑嶋の様子はあまり変化がない。まだ柏木が消えてからそれほど日がたっていないのだろうか。しかし金子が気にするくらいだから、ヤクザの仲間もそろそろ気づいてもおかしくないとおもうけど。あるいは、じっさいに丑嶋が柏木をまゆみたちのところに連れて行った描写はないので、丑嶋はなにも知らないのかもしれない。しかし柏木と別れたあの手下は、必ず、柏木と最後に会ったのが丑嶋であると証言するだろう。まだそこまでいっていないということだろうか。


そして、ヤクザ、闇金に加え、警察も神堂を追っている。こちらは関西のほうで、まだ神堂が天見となのっていたころの、おそらく最初のころの犯罪をおっている延川と辻下という二人組の刑事である。ベテランっぽい延川のところには、おもいがけない連絡が入っていた。彼は、天見と社長が暮らしていたアパートで不気味な粉ミルクの缶と大量のペットボトルを発見した。たぶん刑事の勘というところだろう、知り合いにその手の不審物があったら教えてくれと伝えてあったのだ。そして、和子がみゆきから奪って放置したもの、それが、発見されたのである。なかには重則を含んだ団子がたくさん入っている。なぜかわからないがすでに骨まで確認されているらしい。いまは鑑識が分析中ということでわからないが、すぐにそれが人間のものだということはわかるだろう。


延川たちは粉ミルクの缶に刻まれている製造番号から、販売された場所を特定する。ドラッグストアの店員によれば、粉ミルクを大量買いするひというのはわりとふつうにいるようである。しかたないのでふたりは、十数店舗ぶんの監視カメラの映像90日分をじっくり見ることにする。ちょっと絶望的な気分にある作業である。ふたりは雑談の調子で事件についてはなしをすすめる。天見には女がいた。麻生川弥生(あさがわ やよい)という占い師である。写真の麻生川はちょっと笑っているし、写真そのものも歪んでいるみたいなので微妙なのだが、まず勅使川原ということでまちがいない。彼女は、天見時代からの神堂の女だったのだ。

延川の口調ではそれがいつのはなしなのか不明だが、その麻生川の家族三人の遺体がドラム缶から見つかったらしい。さらに、神堂が「元詐欺師」に口止め料を払えと電話したこともつきとめている。電話番号は麻生川弥生の父親名義だったそうである。とんでもないヤマを掘り当てちまったと、延川はいう。いったい何人の人間が死んでいるのか。


どういう状況かさっぱりわからないが、松田明日香らしき女性を組み伏せてセックスしようとしている神堂を、勅使川原が正座して見ている。なんだこの状況は。勅使川原は黙っているが、神堂はまたいつものように、ひとりでべらべら、自分勝手な女性論、恋愛論をくちにしている。



「新しい金脈が見つかったので

厄介な上原家は、


本格椅子取りゲーム強化月間です。


家族間の問題は家族内で解決してもらいましょう」



もと松田家に住む上原一家の生き残り4人は、すごい状態である。まず、きちんと服を着ているものがひとりもいない。全員下着姿である。いまはまゆみがクリップをつけられて、みゆきや和子に尋問されている。お題は「誰が和子に火をつけたか」である。みゆきはしらばっくれて(あるいは本心でそう信じているのかも)、じぶんに濡れ衣を着せるなという。まゆみは、カズヤが見ていたはずだという。だが、カズヤはもはやあてにならない。自己防衛のための陽狂という可能性もないではないが、ここまで徹底してやっていては、ほんとうに狂ってしまっても不思議ではない。ダンボールハウスから無垢な犬みたいな視線をまゆみたちに向けていたかとおもうと、いきなり引っ込んで、神堂によれば自慰をはじめるのだ。見ていたとしても、これでははなしにならない。


狂える和子は最初から通電すると決めている。アソコにクリップをつけて電気を流すようみゆきに命令する。しかし、最近はぜんぜん見せたことのなかった真剣な表情で、やめてくれと懇願する。赤ちゃんが死んでしまう。しかし、それこそが、顔を奪われた和子の目的なのである。ほんとうに顔を焼いたものから大切なものを奪いたいのなら、もっと真剣に犯人探しをしたほうがいいとおもうのだが、神堂のことばは神のことばである。もうそれ以外にこたえはありえない。


そこでいったん神堂は、「アツくなりすぎ」としてみんなを諌める。そして、和子たちがいなくなったところで、床に包丁をおき、神堂はまゆみにささやくのである。



「大丈夫ですかまゆみさん。

このままでは和子に我々の子供が殺されてしまいます。


早々に手を打たないといけませんよ?」



つづく。



まゆみは子供を宿すことで第三者の目線を獲得した。少なくとも、赤ちゃんのことを考えているかぎりで、まゆみの思考は神堂の設定したものからはずれていくことになった。

だが神堂はそれさえも取り込み、「本格椅子取りゲーム」に利用しようとするのである。

まゆみにとって、赤ちゃんは守らなければいけない存在である。その、赤ちゃんそのものと、また「赤ちゃんを守りつつあるわたし」という新しいイメージが、硬化していたこの狭い関係性を崩し、どれだけそれが異様なものであるかをまゆみにつきつけた。

たんじゅんに図式化すれば、これまでわが身を守るためにそれ以外のものたちと対立し、また対立することで一種の秩序を保ってきたものが、わが身以外の守るべきものを手に入れて、それがいかに歪んだ関係性であったのかを俯瞰する。わたしたちは世界が三角のかたちをしていてもそれを自覚することはできないが、それを外から眺めて三角形であると指摘する他者の視座が想定できれば、少なくとも想像することはできるようになる。わたしたちは時間がいまこの瞬間停止しても気づくことができないが、ディオのような男が時間を停止させてひとり特権的に動いていた、あるいはそうでなくては説明できないようなことをなしとげたとき、はじめて時間がとまったのかもしれないということに気が回る、という説明はなにかちがう気もするが、図式化するという点でいえば近いかもしれない。「赤ちゃんとわたし」の物語があるかぎり、歪んだ家族の関係性は相対化され、まゆみは今回見せたような強い表情を見せることもできるようになる。ところが、神堂はその物語をもこれまでの文脈のなかに回収しようとする。既存の関係のなにが歪んでいるか。なにがとひとことでいえる次元ではもはやないが、原因としては、まさしくその、それを相対化する他者(的なもの)がなかったということだろう。神堂としては、もう上原家に用はない。それを維持させることにもう興味はない。だから彼は、芽生えたまゆみの他者性を利用して、現状関係を支配している和子を始末しようとするのである。


しかしまゆみはどうするだろうか。獲得された他者性は、たしかに、この歪んだ関係から赤ちゃんを守らなければと告げている。しかしその目的のために包丁を手に取れば、彼女とその赤ちゃんはふたたびその歪んだ対立関係にとりこまれることになる。しかも今回は保持よりも崩壊を目標として。つい最近、淡いものではありながら、目覚めに近い感覚を味わったばかりのまゆみである。ここは慎重になるんではないだろうか。


しかし、味方のいっさいいないまゆみの孤独と不安は、想像を絶するものがある。たぶん、ささやく神堂にも、彼女は引き続き恐怖を覚えているはずだ。しかし、それにすがるしかない・・・。そうなると、やはり彼女はそこにもどっていくことになるだろうか。丑嶋・・・。







闇金ウシジマくん 27 (ビッグ コミックス)/小学館
¥550
Amazon.co.jp

闇金ウシジマくん 26 (ビッグ コミックス)/小学館
¥590
Amazon.co.jp

闇金ウシジマくん 1 (ビッグコミックス)/小学館
¥530
Amazon.co.jp

映画 闇金ウシジマくん [DVD]/SDP
¥3,990
Amazon.co.jp