『ミタライ 探偵御手洗潔の事件記録①』 | すっぴんマスター

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名探偵・御手洗潔の漫画というと、『ちっぱーみたらいくん』のような、同人誌的な作品が浮かぶが、もしかするともともとの作品を底本としたコミカライズとなると、今回が初ということになるのだろうか。


原点火さんというかたがどのような作家さんかわからないが、これまで漫画化された御手洗潔同様、とにかくイケメンであり、どうしてこうなるのかと考えてみたが、冷静に思い返してみるとべつにそれは妄想の産物ではなくて、じっさいに、原作では御手洗はパーフェクトなイケメンなのである。さらにいえば、御手洗潔の世界観はBL的な空想を広げるのに適した、というか最適な環境にあるのである。というのは、これはホームズとワトソンの関係を継承したものだが、彼は探偵としてもっとも油ののっていた若い時期、石岡和己という、物語の語り手となる男性と同居しているのである。石岡君のビジュアルはよくわからないのだが、だいぶあとになって里美という女子高生に迫られる()くらいだし、やはり、BL的な視点でいえば想像力を刺激するものがあるのは否定できないだろう(島田荘司じしんが、そういう同人誌のかたの質問に応えて、石岡君も美形にちがいないと、『島田荘司読本』でいっていた気がする)。原点火さんが男性なのか女性なのか不明だが、しかしこのようにしてキャラクターの造形じたいにどことなく中性的なもの、少なくともそういう空想引き出しうるよすがのようなものがあるのであり、絵柄的に、顎のラインや髪の毛、まつげの感じにどことなく中性的な繊細さがあらわれてくるのも、なにか必然のようにおもえてくる。

といっても、本書のふたりの関係にBL的なものがあるわけではない。まっとうな、そして上質なコミカライズである。空想するのは自由だが。(しかし、本書の話題とは関係ないわけだが、ホームズ‐ワトソンのあたりから広がるBL論なら読んでみたい。BLのなんたるかがつかめるかもしれない。コミック担当の書店員として)


本書ではそれぞれ光文社『毒を売る女』、講談社『UFO大通り』に収録されている、「糸ノコとジグザグ」「傘を折る女」が漫画にされている。僕は「傘」のほうは未読であったので、本書でわくわく読ませてもらったが、糸ノコのほうなどは、ツイッターやスマホなども登場してかなり現代風にアレンジされており、御手洗のかかわった奇想天外な事件、また彼の思考のしくみというものは、どの時代においても同様に通用する強度なのだなと、なんだか納得してしまった。


次の巻では「山高帽のイカロス」が掲載されるようだが、こう思い返してみると、御手洗シリーズの事件はどれもビジュアル的なイメージが非常に鮮明であり、絵にすると映えるんじゃないかとおもえるものが多い。イカロスもそうだし、大長編ではあるが、「暗闇坂の人喰いの木」や「水晶のピラミッド」なんか、実にマンガ向きという感じがする。まあそこまでいかなくても、今回糸ノコのマスター、糸井さんが出てきたことだし、たしか彼も登場した「疾走する死者」あたりは、特に原点火さんの繊細な絵であれば、見ごたえのあるものになりそう。





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