『斉木楠雄のサイ難』麻生周一 | すっぴんマスター

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麻生周一『斉木楠雄のΨ難』の1巻が出た。連載が決まる前の読みきりやその他短編を集めた0巻というのもあるのだけど、しっかり連載されてからのものはこちらに収録されている。


麻生周一というのは『ぼくのわたしの勇者学』のひとで、なんというのかな、うまくいえないのだが、だから見当違いのことをいってしまう可能性もあるが、「くだらないギャグ漫画が好きなひとが書いたくだらないギャグ漫画」という感じで、笑いに対して非常に自覚的な漫画であって、僕はかなり好きだったのだけど、しかし、特にジャンプのギャグ漫画作家の宿命といっていいとおもうけど、「うすた京介フォロワー」という感じは否めなかった。それじたいは、しかたのないことというか、あれほど偉大な漫画家だと、いまわたしたちが思考するときにふつうにつかっている概念のようなものまで構築してしまうので、それをつかって漫画を描くと、やっぱりそのフォロワーになってしまう。うすた京介が登場する前とあとでは、世界がぜんぜんちがうわけです。少なくともギャグ漫画という点において。だから、作家のみならず、わたしたち読者においても、もはやうすた京介が存在していない世界を想像することは困難・・・というか実質不可能なんじゃないかとおもいます。平成生まれの子が、ネットの概念そのものがない時代をうまく思い描けないみたいに。その思い描くという作業じたいのなかに、すでに、たとえば「インターネット」が含まれてしまっているわけです。鳥山明の「ドラゴンボール」を知る我々にとっては、格闘系、バトル系の漫画を読む際に、人物の戦闘力を算出して強さ議論をしてみたい欲求に逆らうことがすごくたいへんなのと同じことです。偉大な作品というのは、好むと好まざるとにかかわらず、文字通りわたしたちの世界を変えてしまうのだ。

で、そういう不可避の影響を透明に受け止めたのが勇者学だったとおもうのですけど、くりかえすように僕はあれも好きでしたが、斉木楠男では、これはちょっと乗り越えたかなという感じがする。えらそうですけど。


僕はお笑いにくわしいわけでもないし、ひとよりギャグ漫画をたくさん読んでいるというタイプでもないので、分析することはかないませんが、ひとついえることは、まず形式からして、うすた京介の影響から抜け出そうという作者の自覚と努力の痕跡が感じられるということです。浮世離れした超人的なボケの人物と、その人物の世間との乖離具合を指摘する凡人としてのつっこみという漫才の関係はもう鉄板ですけれど、たぶんそれは今回はやらない、というふうに企画の段階ではなしをすすめたのではないでしょうか。といっても、うすた的、つまり現状王道的な笑いを離れたわけではなくて、まずその形式を放棄してみて、そこからはじめてみようとしている感じがするのです。


漫才の関係が、超人、あるいは奇人変人とわたしたちとの距離をつっこみによって明らかにし、それと同時に、わたしたちにとっての平凡な日常を縁取ることで笑いを生みものだとすれば、本作においては、まず斉木くんが超人ということになる。が、彼の超人ぐあいにふりまわされて呼吸を乱すのはそばにいる凡人ではなくて、彼自身なのだ。斉木くんは、超能力者だが、それがまわりにばれないよう最善の注意を払って生活している。にもかかわらず、毎度毎度能力をつかうハメになり、しかも周囲のものはぜんぜんまったくそれに気づかない。不思議なことに、通常、わたしたちの感情の置き場として機能する凡人たちが、斉木くんにとっての超人、あるいは変人として機能することで、笑いが生まれてくる漫画なのだ。あえてうすた作品と比較すると、要するに斉木くんのなかにはジャガーとピヨ彦が同時に住んでいる。ピヨ彦はジャガーさんがからむと恋愛も成就しないからおもてに出したくないが、どうしてもそううまくいかない。そして、周囲のひとは、ピヨ彦のその葛藤をぜんぜん理解してくれない・・・ってわかりにくいな。


うすた作品でもそうだけど、勇者学においても、「市井の変人たち」みたいな感じの造形が、このひとはかなりうまい。それが、アイデアとして創出されるものではなく、斉木くんのライフスタイルがもたらす必然として、ある意味では凡人を変人に仕立ててしまうというところが、すばらしい達成なんではないかとおもう。同じように「市井の変人」であっても、以前とは生まれ方がちがうのです。いってみれば、キャラクターに関して、勇者学が、粘土で新たにつくりあげたものをぺたぺた足していく膨張形式だったのに対し、こちらは物語先行で、一回的な感じがするのですね。まだまだ展開していくおはなしだとおもいます。これからが楽しみ。






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