- 拝啓、旧人類様。1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)/野田 宏
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月刊スピリッツでこっそり連載されているもので、うちの相方が愛読していた作品なのだが、なんとなく字が多いといったらあれだけど、おもしろそうではあるがまああとで読もうくらいにおもっていて、今回コミックが出たので読んでみたのだが、これが実にすばらしかった。ギャグ漫画といえばそうなのだけど、なにか、子どもとか天然っぽいひととかがする、世間のしがらみとか思い込みや偏見が除かれた、透明な指摘がもたらすシャープな滑稽さであり、読めば読むほど味わい深いというおもしろさである。
時代設定は新暦426年の地球。20××年、のちに「残念なお正月(スーパーノヴァ)」と呼ばれる原因不明の天災により、旧人類、つまりわたしたちやそれが生み出してきた文明は一夜にして灰燼に帰した。やがて、新人類(ニューメン)と呼ばれる人類が誕生し、新らしい文明を築いていこうと努めていくわけである。新暦426年であるから、いちおう新人類にも数百年の歴史はあることになる。
そんななかで、旧人類のものとおもわれる化石がいくつも発見されていく事態が続いた。新人類は化石を蘇生させる技術を開発し、発見される旧人類を復活させて貴重な過去の遺産を手に入れようとする。
そのうち化石が多く手に入り、重要とおもえる旧人類がたくさん蘇生されるようになって、これらを蘇生させるかどうか仕分けする組織が形成される。その組織・方舟評議会の議論の場所が、本作で描かれている基本的なところである・・・。というような設定は、複雑に見えるかもしれないが、てきとうに読んでいてもわりとすっとあたまに入ってくる。要するに、旧人類の重要度にも、不可欠なものとそうでもないものとがある、それを化石の段階で議論して、見定めようとするわけである。ちなみに処分の際には、「なにもそこまでしなくても」というくらい、化石は完全に粉砕される。
主人公は峰博士という、熱狂的な旧人類の信奉者で、基本的に、評議会のすべてが処分票を投票するなかひとり蘇生票を投じる役割にある。また、大学で旧人類の文化を研究するゼミももっていて、評議会よりはもう少し、旧人類への期待をもつ若者を相手に議論をくりかえしている。
新人類の旧人類観はわたしたちからすればとんちんかんなもので、峰博士の助手であるわかば助手だけがつっこみ的な位置、つまり目線としてはひとつ高いところにありそうな感じがするのみ。
さまざまな旧人類が発掘されるが、まず、それらを新人類は、「~種」というふうに分類してしまう。「ギャル種」「モンスターペアレント種」「カメラ小僧種、カメラ女子種」「ラーメン屋種」など。基本的に新人類は旧人類のありかたをじぶんたちより貴いものであるにちがいないと考えているので、これらについても最初はポジティブに考えられる。彼らは、古い文献とかからのみ、これらの化石がどんな人格であったか想像するしかないので、「ことば」のなかにその性質を分類するしかない。たとえば、「シェフ種」は、研究により、「旧暦平成において頻繁にバラエティー番組等に出演し、微笑みを芸とした種族。そのスマイルの効果は絶大であり、主に中高年女性を魅了した」ということになっている。おどろくべきことに、「シェフ」の仕事は料理ではないのである・・・。ふつう、たとえばギャルにもいろいろあるし、シェフにも微笑まないものや微笑んでなおかつ料理もするものもいる。「~種」とデジタルに分類することじたいに、わたしたちからしてみればむりがある。
こんな硬質な考えは作品の雰囲気を壊してしまうとおもうのだが、ここには2種類の発見がある。ひとつには、現代のわたしたちの古代の研究においても、こうしたデジタルな分類は現実の古代人たちのアナログな関係性を損なっているのかもしれないということだ。文献や化石の科学的分析で、古代の生活を想像するとしても、そこにことばをあてはめたとき、どうしても分類が起こるのであり、繊細な、そのひと固有の要素は捨象されてしまうのだ。そしてもうひとつは、逆に言えば、おおざっぱに、デジタルに、わたしたちじしんの生活を分類して、それを未来の目、子どもの純粋な目で見たとき、どれほどそれが滑稽であるのかということだ・・・。
新人類は旧人類に対したとき子どもの透明な目線でいるので、こちらとしては耳が痛いというか、無邪気な残酷さがあって、もちろん、ネタにされる「種」は現時点でもちょっとアレなものたちばかりなわけだが、それでもそこには、デジタルな分類がもたらすなにか暴露のようなものがあるのだ・・・。
すでに、評議会だけでなく、ゼミで若者とクリスマスだとか流行語について大真面目に分析したり蘇生したシェフ種やカリスマ種ともめたりという展開も見られるし、次巻予告なんかを見てもまだまだ変化を見せるようでもある。じつに先が楽しみな作品です。