今週の範馬刃牙/第302話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第302話/壁画が表すもの・・・




数時間にもおよんだ最強親子喧嘩もまとめにはいった。

「父」のあるべき姿を鎧のように装着することで、勇次郎の防御力が急にあがり、バキの攻撃がぜんぜんきかなくなる。そうして、広げた手でバキの顔を両方から叩き、鼓膜を破る。バキの脳裏には、反射的に母の最期が思い浮かぶ。母もまた、おなじように鼓膜を破壊されたのだ。


ちょっとわかりづらいが、たぶん、勇次郎は、いちどバキの耳を打ち、弾くようにして手をはなしてから、ふたたびバキの顔面、頬のあたりを両側からむんずとはさみこむ。バキの顔がゆがんでドルゴスみたいになる。


そこで、この前に描写されたのはだいぶ前になるが、ピラミッドの内部で異様な壁画を発見したクルーに場面がうつる。教授はまだなかからもどってこない。というのは、そこからさらに、新しい壁画を発見していたからである。これがちょっとすごい迫力の壁画だ。壁画というか、漫画の概念をもっているひとが彫刻でそれを表現しようとしたような感じだ。


描かれているものは、さきほど背中を見せていた悪魔(デビル)と、それと向かい合う、息子らしいミニデビル、さらに、デビルの背後に無数の群集。

教授が壁画を分析する。群衆は、おびただしい数のひとの群れということだが、ひとりひとりのにんげんが描き分けられている。つまり、「多くのひとびと」を表現しようとして群衆になっているわけではないということだ。人種、性別、年齢を超えた、「多くの」というよりは「あらゆる」ひとびとが、デビルを、あるいはこの角度だとデビルの背中に宿るものを、讃えているのだ。


親子喧嘩の現場にはいまさらながら花山と千春が到着している。だけど、あんまりひとがおおすぎてぜんぜん近づけない。千春が道をつくろうとするが、花山はここでいいという・・・。花山はでかいからふつうに見えてそうだけど、そういう意味ではないだろう。その位置から、いま親子喧嘩がどのような局面にあるのかを読み取り、近づきすぎることの無粋を考えたのかもしれない。


バキは勇次郎に顔をはさまれて宙に浮いている。親指で顔をこねこねしながら、勇次郎は息子に語りかける。といっても、バキは鼓膜が破れているので、聞こえはしない。まあ、聞こえたところで、なにいってんのかわかんないかもしれないけど。



「勇次郎と刃牙


今から成すこと


これまでの継続(つづ)きではない


ましてや


開始(はじ)まりでもない


これをもって〆とする


これを以て終了(おわ)りとする」



地面におろされたバキはびっくり顔でぼんやりしている。その彼の右手首を、勇次郎の左手が捕る。といっても、技をかけるのではない。優しくとりあげたバキの開いた手を、小指から順番に、ことばをかけながら握らせていったのである。



つづく。



なんというか、こんなにおしまいが近い感じが充溢していながら、いまだに次の展開がまったく読めないというのは、ちょっとすごい。


あれでおわりかとおもっていたが、教授のピラミッド探索はまだ続いていた。

僕の考えの立場は、ピラミッドを庭のように知り尽くした教授が「発見」をするような壁画は、未来にどこかの物好きがそこを訪れてもたやすくは見つからないよう、隠されていたとするものである。

つまり、それがこれまで見つからなかったことには、なんらかの意志があったのである。

それはもしかすると、勇次郎という存在を世間に知らせてはならないと考えた政治家たちと同様の理路かもしれない。

それは、なきものとして目をそらすことができなかった。かといって、そのままに放置をしていては、世の秩序というものを崩してしまいかねない。そこで、当代の彫刻の技術を駆使してそれを再現し、それとして存在させながら、しかしひとびとが自覚することはないものとして、王の墓という不可侵の場所の、さらに奥深くに、ある意味では封印したのである。あるいは、封印という身振りをとることで、この世界のシステムのなかに沈んでいるなにかおそるべきものを抑制しようと、呪術的に努めたのである。

では、当時の政治家たちがなにをおそれていたのか。壁画にはまず、背中にデビルを宿した禍々しい男、そこに無数の兵器を向けた図、そして、その悪魔が、世界中の生きとし生けるものの賛嘆を背に息子と対峙する姿、いまのところはこの三つだ。教授の解釈では、これは「絵物語」ということになっている。これらの壁画がすべて隣り合ってあるものなのかどうかはよくわからないが、最初に登場したあの廊下はまだ広いようだったし、たぶん並んでいるんだろう。そうであるなら、たしかに、一枚の絵を見て解釈をしてもしかたがない。

そこにはまず、悪魔的な存在が描かれる。そしてその存在が、世界中のありとあらゆる暴力を全投入してやっと均衡を保つようなものであることが明らかにされる。ここまでなら、たんじゅんにその悪魔的な存在を抑える呪能をもった装置なのだと考えることもできる。だがこれには続きがある。この悪魔的存在、「世界」の暴力とわたりあう巨大な存在、これは、その存在を知った群集に讃えられ、息子と攻撃的に向き合うのである。

あるいはこの壁画にはまだつづきがあるかもしれない。が、ここまでのところは、範馬親子の喧嘩そのものなのであり、これが封印されているものなのだとすると、いま、ひとびとのおそれていたことが現実になってしまっていることになる。げんに、範馬の存在が世間に知られることをおそれていながら、首相や大臣はぜんぜん情報統制がとれていないのだ。たぶん、漫画のなかでは、テレビといわずネットといわず、祭りだろう。

しかし、その結果としてどのようなおそろしいことが起こるのかというと、ここまできてみるとうまく想像できない。青少年への影響といっても、この親子喧嘩はすでに神話的な雰囲気を帯び始めており、それを見守るすべての人の子、人の親は、それをじぶんの物語として、感情移入しながら見ているのである。

この壁画で重要なのは、群集が、ふたりの喧嘩を囲って見守っているのではなく、父親の側にのみ集まってこれを見ているということだ。そこが、おそらく分かれ道なのだ。

おそらく、父に挑む小さな子供、という構図じたいは、すべての世代に生きていた構造だろう。だがそのよくある対立が、「世界」の暴力に比肩するものの衝突であったとしたらどうだろうか。ここに描かれていることはそのまま、政治家たちがおそれていた青少年への影響ということと同じなのだ。ひとびとは、腕力で、単独ですべてを可能にする存在に熱狂し、秩序に疑念を抱き、社会を乱し始め、世界は普遍闘争の時代に突入する。あるいは、突入しかねない。この壁画で彼らが見ているのは、ある特定の親と子のたたかいではなく、暴力と暴力のぶつかりあいなのかもしれない。

だとするなら、ここに描かれていることは、悪魔を背中に宿した魔人とその危険性ではなく、それを通して勃興しかねない、暴力礼賛の風潮なのだ。

この壁画が、当時じっさいに存在していた範馬的なもののたたかいを描いた、写実的なものなのか、それとも、つねに起こっている父と子の対立に強大な暴力が宿るという事態を想像的に彫りぬいたものなのか、それはわからない。しかし、範馬の「最強」の根拠は、少なくとも勇次郎と勇一郎の関係においては、じぶんは父親とはちがうという語形で、みずからを対極におくことで満たされてきた。だとするなら、帰納的に、この親子喧嘩が太古のむかしから続いていた可能性もあるのだ。


この喧嘩が、壁画をつくったものや、いまの政治家たちが危惧したようにはいまのところなっていないのは、どうしてなのだろうか。バキや勇次郎の個性、といってしまえばそれまでだが、あまりに勇次郎が強すぎた、ということは大きいだろう。勇次郎の強さは、喧嘩を語る枠組み、つまり観衆を要請した。勇次郎に自覚はないだろうが、観衆は彼のもとめた親子喧嘩のテンプレートをかたちづくる役割なのだ。そうでなければそもそもまともな親子喧嘩は成立しなかった。さらに、あまりの強さで、彼らは都市伝説となって見る前から群集の強さへの期待を煽っていた。おかげで観衆は「観衆」に徹し、プロレスでも見る気分で無責任に、他人事として現場に向かったのである。そして、親子のほうはシナリオ的に嬉々として親子を演じることになった。そのことで「枠組み」は、くりかえし、これが最強者の殺し合いであるばかりでなくなにより親子喧嘩であるということを認識したのである。誰も予想しなかったことだろうが、悪魔のほうがあまりに強力であったために、むしろ観衆はこれを親子喧嘩として眺めるのだ。


さて、勇次郎はなにをするつもりなのか。バキは耳が聞こえていない。にも関わらず、勇次郎は語りかける。これを、観衆に向けていっているととることもできるだろうけれど、これは僕にはやはり一種の「セリフ」なのではないかとおもえる。終わりを宣言する父親の役割なのだ。勇次郎の考える終わりの仕方がどのようなものであるかは、これだけではわからない。「これまでのつづきではない」というのは晦渋な言い回しである。べつものになるのかとおもえば、「はじまりでもない」というのだ。ぜんぜんわかりません。





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