『地雷を踏む勇気』小田嶋隆 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

『地雷を踏む勇気 人生のとるにたらない警句』小田嶋隆 技術評論社



地雷を踏む勇気 ~人生のとるにたらない警句 (生きる技術!叢書)/小田嶋 隆
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「言論の地雷除去作業、ただいま続行中!

たかがコラムと侮るなかれ。わずか数千字の短い原稿のなかに、
危機的な状況下でしたたかに生きる知恵、タフであるための流儀がぎっしり詰め込まれているのだから。
東電も保安院も復興会議もネトウヨもナデ斬り! 3.11大震災以降「なにもそこまで!」の地雷を踏み続け、
大喝采を浴びたコラムニスト・小田嶋隆の、ポスト3.11を生きる金言コラム集。
日経ビジネスオンラインの超人気連載「ア・ピース・オブ・警句」が一冊に。
ただちに人生に影響を与えるものではありません!





このひとのことはツイッターで知ったのだけど、こんなにわくわく本を読んだのは久しぶりかもしれない。

まえがきにはこのように書いてある。



「コラムニストにとって、時事ネタは時に地雷になる。時間軸に沿ってその意味を変える主題は原稿の賞味期限を短くするものだし、政治的な話題を扱うためには、文章上の技巧を云々する以前に、結果を顧みない思慮の浅さみたいなものが必要だからだ」



本書は、「日経ビジネスオンライン」というウェブマガジンに連載されているコラムをまとめたもので、ということはビジネスマンが楽しんで読むもので、ほんらいなら話題はもっとずっと広いのかもしれないけど、あるいは刊行じたいにそういう意味もあるのかもしれない、東日本大震災以降の記事が大半(ぜんぶかもしれない)なので、そこにつながっていくはなしがほとんどである。というより、本書でも触れられていることだけど、わたしたち日本人にとってあの震災は、原発問題を含めていまだに現在進行形であるということを除いても、大きな物語の終焉というような呼び方をしてもよい、巨大な影響、ということばではたりない、なにか遺伝子的なレベルで言説を規定する基準みたいなものになってしまっているとおもう。多くのひとが震災について語り、原発について語り、語らないものは「震災について語らない」というしかたで確認されるようになる。そういう厄災だった。僕にしても、なにがなんだかわからず、なにを信じればよいのかもわからず、「わからない」とくちにすることすら憚られる、そういう心理状態に、いまも少なからずいるのである。

そんななかで、このコラムという形式では、それ以上のさまざまな要請、あるいは束縛がある。おもえばコラムというものは、じつはその定義についてはよく知らないので、本書にかぎったはなしになるかもしれないが、ちょうど漫画の週刊連載が、作品の構造にまで身体化された即興性を抱えているように、ある種の即断が必要とされるのである。多くのひとのように、しっかり勉強して、これでまちがいないとじぶんなりの結論を出し、反論にもそなえて意見を公表するのでもなく、よくわからないから黙っておこうと無視を決め込むこともできない。いや、やってできないことはないのかもしれないが、原理としてたぶんそういうことはできない。くりかえすように、わたしたちの公表されるどのようなことばも、いまでは「震災」や「原発」を含んでいる。それについて口を極めて論ずることはもちろん、「くちにしない」こともまた、ひとつの宣明になりうる、そういう時勢なのである。


そういうなかで、筆者は、コラム的に間髪入れずことばを発しなければならない。それが文章を書くもののスキルだといえばそうかもしれないし、たぶん書いている本人もそうおもっている。それが、要するに、前書きでいわれている「賞味期限」を設け、ばあいによっては地雷を踏ませる。

だけれど、本書を読んだ感想として、僕にはぜんぜんそんなふうにおもえない。まさしくその「即断」(的なもの)を導くための思考の原理が、鮮やかであり、痛快であり、ヒントを示し、知的興奮を誘うのである。こういう文章に賞味期限があるとは僕にはおもえない。もちろん、何年かたてば、本書で話題になっているいくつかの点(クールビズとかホワイトデーとか)では、なんのことやらと不分明な表情で首をかしげる読者も出てくるだろうけれど、その枠組み、ことのとらえかた、深夜にひとりで読んでいると笑いがとまらなくなるといった種類の絶妙な比喩、そうしたものは、たぶんそのときも息づいているにちがいないとおもうのである。ましてや、大半は震災に関するはなしなのであり、そんなことはマーケティングの問題であって、内容には関係のないことだといえばそうかもしれないが、少なくとも僕では、本書がいちど読んでそれでおしまいという種類のものにはならないだろう。



このひとの筆歴についてはよく知らないけれど、少なくとも本書を見ていえることは、こうしたコラム的文体・・・といっていいとおもう、「歯に衣着せぬ」とはまた異なる、ツイッター的文体、要するに、身体に直結したようなソウルフルな文体というのは特異なものであり、特にこうした時勢では非常に有効かもしれないということである。リスクはあるかもしれないけど。おもいつきではなく、そこには原理に対する深い洞察が感じられる。おもいちがいや予測を違えたりということは、たぶん頻繁にある。しかし、だからといってその指摘の価値がさがるということは微塵もないだろう。

震災を境に、わたしたちは新しい「大きな物語」を生きている。それがどのような物語であるのかを現在の時点で指摘することは難しい。明治維新や第二次大戦を境にして多くの優れた文学者が誕生していることは、逆にそのことを示しうるとおもう。だから、わたしたちにできるたぶん最初のことは、それまでの物語がいったいなんであったのか、さまざまなしかたで、語っていくことなのかもしれない。



とにかくおもしろかった。おすすめです。





その「正義」があぶない。/小田嶋隆
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