今週の闇金ウシジマくん/第252話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第252話/元ホストくん⑫


逃走していた隼人をおさえ、3億をとりかえしたカウカウファイナンス。

といっても、隼人はブラックやレッドに分け前を与えていたはずだから、ぴったり3億というわけではないだろうけれど。

ホストくんの最初のほうに登場した、一聖という、インテリ風のホストにはまっていたハルコは、いろいろなオシゴトのせいか、クスリですっかり壊れてしまっている。子どもたちがゴミ溜めのなかでカビたパンをかじる。

しかし、高田は案外冷たい。子どもは実家に送り、金は回収したから問題ない、ハルコのことは知りませんと、そういう態度だ。丑嶋もそのドライさを問うのだが、高田は、隼人との件で吹っ切れたという。ある程度相手のことを真剣に考えつつ、最終的にはドライにいこうと。

それを見て丑嶋は、あるものを手渡す。驚くべきことに、死んだ愛華の日記と、例のコルクでつくった人形である。愛華は死ぬ直前、カウカウの世話になっている。丑嶋は死ぬ前に渡すようたのまれたらしい。そうなると、高田の入社はたまたまなのか、丑嶋なりの考えがあって見つけ出されたものなのか・・・。



高田のなかにはまだ愛華が住み着いている。すっかり骸骨になってしまったが、骨にはウジムシがいっぱいついていて、腐敗が進行中だということがわかる。つまり、この愛華には時間が流れているのであって、「忘れないでね」ということばを延々とくりかえしながら、「更新されることのない生者」として、高田にとりついているのである。

しかし高田の表情はこれまでのものとちがう。吹っ切れたという高田は、愛華の生々しい日記も読むことができるのである。なかなか、あの結果をおもうと、読んでいて苦しくなるような内容だ。



そこにモモカから電話がかかってくる。丑嶋をパパと呼んで、5000万も利息を払い続けている女だ。いま屋上にいるという。

手すりに両足をのせて落ちそうなモモカを、高田は愛華とかぶせて見る。というか、日記を読んだせいか、高田には愛華にしか見えていないようである。

愛華は、死んでしまった。つまり、もう語りかけることが出来ない存在になってしまった。愛華は一方的に「忘れないで」とささやき続ける存在となった。そうしたことが、高田に、モモカを経由した、これまでなされなかった愛華への語りかけをさせるのだ。

高田も愛華も、けっきょくのところ「誰か」に必要とされたかっただけだ。高田においては、一番になることで、じぶんのことを真実必要にしてくれるひとがあらわれると信じていた。だから必死に、ナンバー1を目指してホストをがんばっていた。

しかしそれは間違いだったと高田はいう。

愛華は、最初から、高田だけを必要としていた。高田のナンバーを望んでいたわけではないのだ。



「愛華・・・・

なんで死んだ?

一方的過ぎてずりーよ!!

こっちはなにも言えないンだぞ、愛華ぁ~~!!」



高田は愛華の日記と人形を彼女の実家に送ったらしい。この家族の心理に関しては、これまでまったく読み取ることができなかった。特に母親と姉は、まな板のような無神経さであり、想像力のかけらも感じられない。今回も、悲しそうな顔をしているような気もしないでもない・・・そんな気がするが、よくわからない。

しかし、わけても鉄面皮だった父親は、なにかおもうところがあったらしい。

父親は子どものころの愛華の写真を見ている。幼い愛華はセーラームーン的な変身セットを装着している。父は、愛華が必死で駄々をこねるから仕方なく買ったが、なんでそんなものをほしがるのかまったく理解できなかった。しかし、「理解できるもの」というのはけっきょくのところじぶんの投影でしかない。わたしたちは「理解できないもの」をこそ真に愛し、美しいと感じるのである。

この家族においては、成長した愛華は他人であった。「理解できないもの」をそのままにうけいれる家族の器など、まったく存在しなかった。しかし父は、日記を読んだのか、これから読もうとしているのか、わからないが、幼い愛華の写真を見て涙をするのだった。



愛華の誕生日に高田はケーキをもって墓を訪れる。そこには、高田が実家に送った人形が、修復されて置かれている。それは、高田に対する赦しだろうか。父は、「理解できないもの」としての愛華を家族としてそのままに受け入れ、その記憶を司る高田も、そのぶぶんとして、容れたのである。



丑嶋と高田、それに柄崎が歌舞伎町を歩いている。柄崎は3億も入ったんだからいい肉食いましょうとすごいうるさい。

柄崎は、もう関係の修復はできないんじゃないかというくらい、反抗的な態度をとっていたけど、なんか大丈夫そうだ。そういう危うさも含めて、アウトローの絆っていうことなのかもしれない。


という感じで元ホストくん編完結。


今回は高田を通して、丑嶋ではくりかえし語られてきた「ひとに必要とされる」ということがいったいどういう意味なのか、粘り強く描かれたようにおもう。

表層的な面でいうと、不明な点はかなり残っている。最大のものは慶次である。栄華をきわめたナンバー1ホストが、どのようにしてボッタクリ店を経営するようになったのか。鼓舞羅のような危険な男との関係はどうして始まったのか。あの袋をかぶっていた拷問体は彼だったのか。彼だとしたら、いまは無事なのか・・・。

まあ、慶次というのは、高田の所属する世界の象徴のようなものなのだから、人物としての意味はそれほどなかったのかもしれない。彼はいちいち、箴言的な響きのことばを残して、高田を刺激していた。彼のことばには、少なくとも高田には、「正しさ」があるように感じられた。しかし、正しさを含むことばは、硬直している。要するに慶次は、ホストとしては完成していたのである。だから、慶次がその場所からどこかに動くことがあるとすれば、それはその「正しさ」がゆらぐときである。慶次の凋落は、それじたいで、ホストの「正しさ」の変化を示していたのである。

そして、あれだけの騒ぎのなかでいっこうに姿が見えないことを考えると、中途で描かれていた鼓舞羅とのビーフも含め、拷問されていたのはやはり慶次本人だったということになるだろうか。慶次は、堕落したのちに、どのような経緯かは不明だが、鼓舞羅という暴力を宿すことになった。アウトローの仕事がしがらみとしてヤクザと関わらなければならないということとはどうもちがう気がする。慶次は、すすんで、鼓舞羅を取り入れたのではないかとおもう。ウシジマワールドで「暴力」とは「理解を絶したもの」、すなわち他者の露骨な顕現である。慶次は、ホストの仕事を続行するために、相手の意志をおさえつけ、「おもいどおりにさせないもの」として、暴力をつかうこととなった。なにがあったかわからないが、それだけ、ホストの仕事に限界を覚えていたということかもしれない。



もうひとつ不明なのは長谷川である。というか、あの詐欺事件に関しては全体に靄がかかっていてよく見えない。この感じだと、海老澤なる人物は存在せず、もう最初の最初から鼓舞羅が仕切っていたということになるのだろうか。そうすると、たとえば慶次の前で鼓舞羅に配当金を渡す隼人の絵などは、慶次を騙すためにやっていたと説明できないこともない。慶次は、隼人がその投資の仕事をケツモチの小谷さんから紹介してもらったと理解していた。そのへんの事情も不明瞭である。また、投資をして、それが膨れて、客のもとに帰り、その額が最大になったとき逃げ出すという計画だったとしても、数度のやりとりをクリアするためにそこそこの資金が必要になってくるだろう。ただのチンピラの鼓舞羅にそんな金はあったのだろうか。もしそうでないなら、最初の投資の時点で騙された人物がある程度いなければならなくなるが・・・。

鼓舞羅の計画としては、投資者どうしを疑心暗鬼に陥らせ、ぶつけることで、逃走をスムーズにし、かつ、もしかすると彼のサド気質を満たすということがあっただろう。そのためには、黒幕がいるということをまことしやかにささやき、タイミングをはかってだれそれが黒幕だと告げ回る人物が必要だった。そういうことで、長谷川はただ雇われたのかもしれない。



高田はこの一件で「吹っ切れた」という。

彼が今回確信したことといえば、とりかえのきかない関係、つまり絆の重要性だろうか。

何度か書いていることだけど、要約すると、ホストの仕事において高田は客の(愛華の)唯一無二性を否定するものだった。

隼人同様、一発逆転を志向し、ナンバー1を目指す高田は、その言説の内側につねに、「いまのわたしは仮の姿である」という意味を含んでいた。一番でなければ意味がない、だとしたら一番でないいまのわたしには存在価値がない。

だから、その「いまのわたし」を構成する他者的要素は、どれも使い捨てのものであり、とりかえられるべきものだった。

そのようにして、高田は、ホスト的ふるまいそのもので、愛華が高田を必要とする無二の感情を踏みにじった。

そのさき、愛華が、愛する高田にとってのただひとりのとりかえがきかないにんげんになるために選択したことが、死の刻印でもって高田のなかに住み着くことであった。死によって、生きていたころの記憶は硬化し、更新ができなくなる。キルケゴールが考えたように、生は「死」によって限定され、それ固有のものになるのである。

ともかく、この経験によって、高田はホストを続けることが困難になった。そしてそのさきに出会ったカウカウファイナンスでの、従業員間、あるいは顧客間との関係性に、無二のものを見出そうとするのである。じぶんとカウカウを天秤にかけさせた隼人の事件は、高田にとって試練だったのである。

周囲をとりまく関係を無二のものと見るのは、「いまのわたし」をとりかえのきかないものと見ることにほかならない。丑嶋がこのタイミングで愛華の遺品を手渡したのは、高田がこれを乗り越えたと彼がみなしたからだろう。絆を大切にすることが、理論的なことばあそびではなく、ひとつの思想として身体化されたのを、たぶん丑嶋は目撃したのだ。

だから、愛華の呪いは、高田が、犯罪者であろうとなんであろうと、「いまのわたし」を大切にすることを経験してはじめて解除される。そうして愛華は、いまだ腐敗を続ける「更新をやめた生者」ではなく、固有の価値を宿した死者になるのである。

その経験を通して、高田ははじめて、愛華に語りかけることが可能になる。これまでの愛華は、死という方法で更新をとめた、コミュニケーションのとれない「生者」だった。癌細胞のように居座ってただ一方的に存在を主張するだけだった。しかし高田は、この件を経て、彼女に「一方的過ぎる」と、くちにすることができるようになったのである。

愛華はきっと、これからも高田のなかに住み続けるし、高田は墓参りを続けるにちがいない。しかしそのしかたはこれまでとはちがう。愛華は正しく死者になったのであり、必死に絆を守ろうとする限り、高田は彼女とまっすぐに語り合うことができるのである。


やや駆け足の感じの最終回でしたが、全12話なので、ホストくんの残りと合わせると次の巻一冊にはおさまりそうもない。だから、もしかすると説明不足のところは大幅に加筆されて、2冊にまたがる感じになるのかもしれない。



なんにしても、すごい大作だった。取材もたいへんだったろうとおもう・・・。これからだいぶ休載されるようですが、真鍋先生お疲れさまでした。次回も期待しています!




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