第273話/超えられまい
今回は短めで。
意識の間隙をねらう超絶技巧で父からダウンを奪ったバキ。
勇次郎は息子の成長をちちとして誉め、撫でようとする。
はじめての経験に戸惑い、わずかにでも撫でてもらいたいという感情がわいてきたバキだが、なんとかそれをおしとどめて、闘士としてのコミュニケーションをしようとする。
勇次郎はべつにそれに同意したわけではない。だが結果そうなる。なぜなら、彼は、父として息子を撫でたいというわがままを、バキの意志に関わらず強行したからである。
勇次郎はすさまじいちからでバキを抱え、じたばた動くのもおかまいなしにあたまをごしごしと撫でる。独歩も認めるサディストである。
バキが抱え上げられた状態から背後にむけて蹴りを放つ。しかし、勇次郎が撫でる手で軽く顔をおしたので、膝のあたりが顔にぶつかってしまう。
吹き出る鼻血を、勇次郎は指で拭いて、しかもそれを口に運ぶ。ちょっとリアクションに困るレベルのふるまいである。観客や光成はドン引きしているし、バキも目を見開いて混乱している。
父の教育がはじまる。強さとはなにか。
「自らの意志を――
希望(のぞ)む通りに実現させる力
それが・・・・・
“強さ”の最小単位!!!」
後半からことばは消えうせ、父の猛烈な攻撃がそのまま教育となる。
勇次郎は抱えていたバキを投げるのだが、遠くに飛んだり、地面に叩き付けられたりというふうにはならず、コマみたいに、ありえない速度で回転する。バキはなんとか着地するが、その、意識が「独唱」状態になる瞬間をねらったのか、ほとんど同時に勇次郎の蹴りが腹に入る。後ろ蹴りとも横蹴りともつかない、とにかく、おそるべき威力の「足の突き出し」である。独歩がいうには、勇次郎は本気で打ち込んでいるらしい。
地面にうずくまるバキの顎を足先ですくい、今度は、まるで寸剄のように、その場所からバキの顔を鋭く蹴り上げる。バキの状態をみるかぎり、ただからだの位置がうえにあがったという程度のものではない。
つづけて、落下するバキの腹を、勇次郎の拳がすばやく打つ。あまりにも速いせいか、今度はふっとぶことすらない。
バキは、「わがままを押し通す」ということの意味を、つまり強さの意味を、強さそれじたいを通して実感するのだった。
つづく。
ついに勇次郎の本格的な攻撃がはじまった。
バキはこれらの攻撃に対してほとんどなんの反応もできていない。特にあの後ろ蹴りに関しては、勇次郎は例の0.5秒拳をつかっている可能性が高い。微妙な描写だが、着地直後のバキはすでに蹴りをもらっているようでもあるのだ。だが、バキの表情はなんだかぼんやりしている。ものすごい回転をかけて、着地すること一点に集中させることで、意識を「独唱」状態にし、無意識を検出しやすい土台をつくったんではないか、ということはいえるとおもう。
先週のはなしでは、勇次郎は撫でたい、バキは撫でられたくない、という図式が成立していた。
だから、勇次郎は、むりやり撫でくりまわすことで、わがままを実現し、強さをつきつける。
しかし、バキが撫でられることを拒否したのは、闘士としてのコミュニケーションをこのままつきつめていきたいから、という理由があった。感情的には、バキは撫でられたかった。だが、それはいけない、そうしては、つまり、一般的父と息子のありように陥っては、強さの競い合いが成立しないと。
今回、勇次郎の攻撃を起動させたのが具体的になんであるのかは、よくわからない。暴れて、蹴りをうとうとしたバキに反応するように、勇次郎は、「強さ」についてかたりながら、また技の語りに移行しながら、攻撃に移っていった。
結果だけ見ると、撫でられはしたが、バキの願った闘争によるコミュニケーションは、実現している。
つまり、父が息子を撫でるという、一般的親子の状況がむりやりにでも成立しつつ、本気で強さをぶつけあう(いまのところはまだ一方的だが)ということが、同時に起こっているのである。
というわけで、勇次郎はわがままを実現したが、それは、バキの希望を完全に無視するというものではなかった。強さの理論的には、他者の意向などは、どちらでも同じことなのである。
父親として息子を誉めるという、「親子喧嘩」のシナリオに沿ったふるまいを、勇次郎は、誰に与えられたものでもなく、じぶんで獲得したものとしてとってみせる。その行いは、直截的に「強さとはなにか」を表現するものでもあった。簡潔にいえば、勇次郎は「父親としてふるまおう」とするそのしぐさそのもので、息子に強いことのなんたるかを示しているのである。勇次郎は、状況が規定するものとして父なのではなく、実存的に、「父親」になる。事実はどうあがいても「父」なのだけど、勇次郎はそうした与えられる役割に満足しない。どうしてもそれは、獲得したものでなければならないのだ。もちろん、親子として、こうした関係はいびつなものである。だが、彼の教育は、「強さ」を伝える、つまり、すでにあるものに満足せず、なにごともじぶんの腕でつかみとる、というしかたを息子に見せつけるという点で、成功しているのかもしれない。
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