ムック『カルマ』 | すっぴんマスター

すっぴんマスター

(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

カルマ(初回生産限定盤)(DVD付)/ムック
¥3,990
Amazon.co.jp



MUCCはパートナーの影響で数ヶ月前から聴き続けているバンドですが(だから僕はどうしようもなく“にわかファン”なわけで、以下記すことについてはどうかそこらへんをご了承ください)、このたび新作アルバムが発売された。

過去の作品から順番に聴いていくと、アルバムを経るごとに漸々聴きやすくなっていっている。だけれども、ムックの唯一無二性というものはゆるがぬものであり、どこかのバンドを「ムックっぽい」ということはできても、逆のパターンというものはうまく想像できない。


こう書くと深いファンからなにか言われそうだが、ファズとかオズとか優しい歌とか、なんの留保もなくかっこいい、名曲といえる曲も多いのだけど、僕のなかで最初に、また決定的にヒットしたのは、フリージアのカップリング曲だった「楽園」だった。ウシジマがドラマ化されたら、ちょうど「楽園くん」がやっていたころだし、これが主題歌だったらいいなーなんて夢想したものである。



フリージア/ムック
¥1,050
Amazon.co.jp



フリージアはまだいいとして楽園は打ち込み全開のダンスミュージックみたいなものであり、本来の魅力であるところのバンド演奏の生々しさは、ない。だけど、逹瑯の声を媒介にしてあらわれてくる世界観はムックのものであって、くりかえし聴いていくうちに、うまくいえないが、ある種の説得性のようなものが生じてきたのだった。

そういうデジタルな音楽の面は、たぶんギターのミヤがどこからともなくもってきたものだろう。そうした側面を際立たせた最近の状態で発売されたのが、今回のアルバムだ。

で、感触としては、あいまあいまにはさまれるインタルード含めて、無機的な印象はもちろんかなり強い。だがいっぽうで、ジャズっぽい、バンド演奏の動性に満ちた音楽もひっそりと馴染んでいるのだった。



いちおう分類としては、ムックはヴィジュアル系ということになるようだ。僕はヴィジュアル系のことなんてほとんどなにも知らないし、聴いたこともないのだが、少なくともムックを通して感じた限りでは、ヴィジュアル系の本質とは、既存の、権威的美の破壊にあるのではないかとおもう。つまり、社会性=他者性の拒否だ。それは通常のロックやヒップホップにも通じるものであり、だから、その破壊の程度というものは、同じく「フレッシュ」という用語で語ることができるものなんではないかともおもう。

一般に流通する「美しさ」の概念は、ふだん認識できる以上にオーソリティーな、「こうあるべき」という模範体を抱いている。「美しさ」にもいろいろある、みたいなことを力説するわけではないが、とにかく、現行の「美しさ」には、比喩的に人気のモデルや歌手をあげてもいいし、とにかくぼんやりとでも「解答」のようなものがある。

同じく、たとえば「男らしさ」とか「女らしさ」にも、社会的付加価値のそなわった模範がある。まさしく「モデル」として、こうした概念には解答のようなものが、時代によって廃れるものではあるとしても、ある。

芸術の初期衝動は、「じぶんの見ている世界はどうもほかのひとの見ているそれとちがうらしい」というところにある。

一般論だが、ひとはオトナになるごとに、このずれを客観的に補い、他者性をもって社会参加をするようになっていく。いや順序は逆で、そうすることができるときにひとはオトナになるのかもしれない。

だから、ある種の幼児性を維持していけることが、芸術家としての第一の素質だ。

音楽にもそういうぶぶんがある。このことは深く考えれば考えるだけ長くなってしまいそうなのでひかえるが、ともかく、ヴィジュアル系においては、まさしく「ヴィジュアル」な面における権威への抵抗、そしてその破壊が、その本質なんではないだろうか。

しかし、ロラン・バルトの白いエクリチュールのように、あるいはジョルジュ・バタイユの「悪」のように、それらはいったん体験され、かたちになった瞬間に硬化し、定型的になる。持続するということが原理的にできないのだ。

そのようにして、誰がはじめたのか知らないヴィジュアル系も、いまではこのように名づけられ、ひとつのジャンルとして定立している。


ただ、この世界に丸裸で投げ出された一個人が、こうした表現をよすがにしてみずからを表現していくなり、あるいはそれの受け手(リスナー)として自我を回復していくということはある。

すなわち、ヴィジュアル系が「ヴィジュアル系」であるのはけっきょくのところ後知恵であり、リアルなミクロの接触の瞬間には、やはりこうしたライフスタイルというものは、まだまだフレッシュなのだ。


ムックもまた「ヴィジュアル系」と呼び得る手法で音楽をやってきたが、まあたいして昔を知っているわけでもないのにこんなことをいうのはどうかともおもうが、最近はずいぶん落ち着いてきているようでもある。音楽の面でもそうかもしれない。


しかしそれは、彼らにおける「世界の破壊」が硬直し、定型化したということなのかもしれない。

もしミュージシャンのひとつの動きとしての「破壊」を続けるとすれば、そのフレッシュなふるまいが硬直し、定型化したのちは、次にそれを解体し、破壊する行動を、彼らはとるのかもしれない。

今回見せた新しいかたちは、そういうことなのかもしれない。

それが、破壊を開始したものの業(カルマ)というところだろうか。



個人的にオススメは「フォーリングダウン」だ。先行シングルではすごいデジタルだったけど、本作ではそのバンドバージョンが聴けて、ギターが死ぬほどかっこいい。このデジタルとアナログのゆさぶりが、今後のムックの原型となっていくのかもしれない。



いいから聴いてみて、という類のバンドです。



フォーリングダウン(初回生産限定盤)(オリジナルドリンクボトル付)/ムック
¥1,680
Amazon.co.jp


BEST OF MUCC/ムック
¥3,000
Amazon.co.jp


志恩/ムック
¥3,000
Amazon.co.jp


球体/ムック
¥3,000
Amazon.co.jp