第195話/ヤミ金くん⑯
野球帽にめがねにマスクという定式的ないでたちでATMから現金を引き出すのは甲本だ。
ATMの脇にはがちゃがちゃや買い物かごをのせるカートなどが見えるので、ふつうのスーパーだろう。なんか、即通報されても文句がいえないような、いかにもあやしげなかっこうだ。
甲本が戻るワゴンには榊原室長や竹本優希も見える。優希はよくわからないが、室長などは非常に堂の入った着こなしだ。しょっちゅうやっているのかもしれない。
彼らはなんの仕事をしていたのだろう?よくわからないが、マスクをはずした甲本は同時にくちのなかからなにか蝶のさなぎみたいなかたちをした固体をひっこぬいている。彼らのしているなにかを実行するときには常套的な方法かなんかなんだろうか?
とりあえずいえることは、まあ、イリーガルなものだろうということ。不法投棄された医療廃棄物の処理もやったし、誠愛の家の面々も今週はけっこうかせいだ。榊原室長も上機嫌で二号室室長の山野とゲームで遊んだりなんかしている。そして、今日は憩いの間の日らしい。甲本を見ていればわかるように、彼らの性欲は暴発寸前だ。めんどうを避けるため、ぎりぎりのところで、そして最低経費で、これを処理しようというのは、いかにも鰐戸のうえの兄弟たちが考えそうなことだ。準備されたのは、次男がどこかで拾ってきた家出少女と、たぶんおなじみさんなのか、ハツエという中年の女だ。少女は、はっきりいって年齢がよくわからない。小学生のようにもみえるし、高校生といわれればそのような気もする。いずれにせよ非常に無感覚な印象の少女だ。
憩いの間は三種類ある。少女がいる松の間は40分15000円。ハツエが待機する竹の間は7000円。そして比較すると不気味に安い梅の間は15分1000円…。甲本は梅の間を選択する。待っていたのはさきほどの山野室長である…。少女やハツエにいくら支払われるのかはよくわからないが、この料金の差を見ると、山野はほとんど無償でやっているんではないかとおもえる。金を払わず好きなことができるなら、そりゃ山野にとって憩いの間の日は喜ばしいものだろう。
甲本は残りの財産をはたいて梅の間にむかう。ふたりが交わす会話はすべて昔話。いまという結果には、むかしという原因がある。甲本の思考の原理はつねにそのような、ペニーガム法的なものだ。もちろん現実というのは、もっと複雑なものだ。甲本はこの結果に至る原因のひとつ、キャバクラの樹莉菜への呪いを、ハツミにかける。たほうで、ハツミは過去に生きている。いまはこうだけど、むかしはこうだった、つまり、ほんとうのあたしはこうではない、ということを言っている。ここにも、「本来の私」という幻の模範体がある。その幻は、あるときには成長の大事な指標となるかもしれない。しかしそこにしがみつくハツミは、甲本を見てもいない。全財産はたいても、甲本はむなしいだけだ。
そのころ竹本は片足のない黒田のめんどうを見ている。(「黒ちゃん」のふりがなが黒川になっているが、黒田だったはず)
鰐戸一の客だという医者がきて診断するが、もちろんできることは限られている。優希が入院をすすめるが、黒田は断固としてこれを拒否する。そして、くちにして語られはしないが、黒田がここに至る経緯が回想される。JSを8万円で買った黒田は、保身のためにこの女を殺害してしまった。そして誠愛の家に逃げ込んできたらしい。それ以前のことはわからないが、この売春クラブは政治家など大物も顧客にいるらしいから、黒田もそこそこに成功していた人間だったのかもしれない。彼には、その過去のじぶんの名誉を守りたいというような気持ちがある。児童買春好きの殺人犯として衆目にさらされるくらいなら、仕事のストレスで蒸発した良き人間としてここで死ぬ気なのだ。殺したという事実だけが一人歩きし、殺された女の人格のようなものがいっさいないのが不気味だ。
甲本が部屋にもどってみると、台所やトイレがきれいに片付いている。優希が、もしかすると黒田の衛生面を心配してか、あるいはそのついでか、動機はなんでもいい、とにかくびっくりするほどきれいに掃除してしまったのだ。ほとんど壊滅的といってもいいような汚れ方だったから、ほんのちょっとがんばったくらいではここまでならないはずだ。それまでもちょっとずつ片付けをしていたのかもしれない。
そして、そればかりか、優希はおでんまでつくっている。庭に生えていたジャガイモやダイコンで。
すさんだ環境の誠愛の家だが、このおかげでわずかに笑い声がよびこまれる。その外で、鰐戸一が丑嶋打倒の計画を練っている。
「タバコ火ィ付けてねェよ兄貴」
「丑嶋から金を奪う計画を考えた」
つづく。
一は考えたといっている。
いまこの瞬間に、結論が出たっぽい。
いまこの瞬間とは、竹本と甲本がおでんをはさんで小さく笑いあっているところだ。
一は優希を利用する気なのかもしれない。
たしかに、丑嶋のなかには、優希に対して、他の誰に対してももちえない、不思議な感情があるようではある。
しかしそれを一は知りえないだろう。たぶんふつうの知り合いぐらいにおもっているにちがいない。
とすれば、一は優希を丑嶋のふつうの知り合いとして利用するはずである。
しかし、優希に対しても十日五割の原則は崩さないのが丑嶋であり、そして彼がこれまでやってこれた理由でもある。
一円たりともまけない。
客が病気だろうがなんだろうが、知ったことではない。
金を返すものなら、それでよい。
そこが、少なくとも金融業として、一と丑嶋の異なっているところだ。
丑嶋は、作戦に協力してくれたからといって、借金をまけたりはしないのだ。
だから、もし一が竹本を丑嶋の知人として利用する気なら、その計画を成功させるのはかなりたいへんだろうとおもう。
それにしても、鰐戸一を「一」と書くのは、なんとも文章の見映え的にバランスが悪い…
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