第176話/楽園くん⑳
とりあえず今週の扉絵がふざけすぎだッ!
悪役キングコンテストのときにもおもったけど、ウシジマの編集(?)を担当しているひとたちって、ちょっとすごいセンスをしているよな…。
田川ジュンヤの「脱イジメ 完全武装服50選」ってのもおもしろいけど。
中田の誕生日祝いにささやかなパーティーの準備をしていたキミノリは、この家を出て、ニューヨークに勉強にでかけるつもりだと告白する。弁当男子である彼の倹約習慣は、こうした目標によったものだったのだ。しかし中田には急なはなしだ。キミノリはなぜこのことを黙っていたのだろう?キミノリはことばを飲み込むが、のちに中田も口にするのと同じく、彼も「オマエがいたからやってこれた」というような感情があるようだ。純粋に別れがつらく、ぎりぎりまでいまの感じを維持したいがために言い出せなかったという程度のことかもしれない。
中田は、てっきり先週の流れでは罪の告白でもするかとおもわれたが、ただたんにショップのオーナーになるという「夢物語の実現」を伝えるだけだった。資金はハブが出すと聞き、ハブを知っているキミノリは顔色を変える。しかしその「知り方」はいままでよくわからなかった。キミノリはじぶんの店のオーナーがいつまでも似合わないロンゲでいるのは、売り上げをごまかした結果ハブに切り落とされた耳を隠すものなのだと教える。ハブ的には信用できなくなった店長よりキミノリをつかって、売り上げの10%を上納させているといった感じだろうか。とんでもなくおそろしいはなしだ。中田だってこれにはぞっと総毛立つが、手のひらに握るパピコの口紅は、じぶんがすでにあともどりのきかないところまできているということを教える。中田的には「やるしかない」といったところだろうか。それになにはともあれじぶんの店をもてるというのだから、時間性の欠けた刹那の思考しかできない彼には、すべてすっとばして、究極のサクセスが待っているという感じもまた強いようだ。とはいえ、彼の顔には終始汗が浮かんでいる。「範馬刃牙」なら顔の汗は危険な兆候だ。
ゴトはなにかと親切に開業のレクチャーをしてくれる。中田が買い入れを決めたブランドのバイヤーとの仲立ちをし、物件も、不動産屋抜きで、直接オーナーを紹介してくれる。なんだかわけがわからないまま(中田もそんな感じかもしれない)ゴトに言われるがまま、中田はほとんどの持ち金をいろんなところに振り込む。それだけゴトを信頼しているのである。機嫌のよくなった中田は、キミノリに以前ゴトから購入した13万円の靴をキミノリにプレゼントする。いま思えば13万円というのも不吉な数字である…。ちなみにこの靴は、浴槽のなかで“洪水”に巻き込まれながらこの回想を続けている中田のからだを固定するため、つっかえ棒を買いに出かけた帰りのハブが履いていたものでもある。
ケンカ別れがいやな中田は、「お前といるときが一番楽しかった」と、「最強の靴」をプレゼントしてキミノリをニューヨークに送り出そうというのだ。かわいいじゃないですか。お互い頬を赤らめてちょっとアレなヴァイブスですけど。「へへへ」じゃねえだろ。
中田は親友キミノリをもうじきオープンするじぶんの城に連れて行く。ゴトに紹介してもらった建物の持ち主から鍵は受け取っている。ところが、それが合わない。中田は、本来、つまりゴトがしゃしゃりでなければ仲介をするはずだった不動産屋に電話してみるが、契約のはなしなど知らないといわれる。ゴトがはなしを通しているはずのバイヤーにもかけてみるが、はなしがまったくかみ合わない。
「やられた…
“G10”に騙された…
どうしよう…」
やられた…!!
なるほどねえ…。
いろいろ納得してしまう。
エキセントリックなキャラクターは、彼の素性をまったく覆っていた。それどころか、誰も気にしなかった。構造的に気にされないようになっていたのだ。またつねにサングラスをしていたために、ひとびとは彼の顔すら知らないのだ。
キミノリの冷静な助言で、中田はゴトの行方を知ってそうな人物にあたってみる。その最初が、“あぜ道軍団1号”であるというのも奇妙なはなしだ。1号によると、“やられた”のは中田ひとりではないらしい。中田はゴトに20歳の誕生日を祝ってもらったが、あれはけっきょく二十歳になれば消費者金融で借金ができるから全員の誕生日をチェックしているということだった。合計で1千万ほど、ゴトはじぶんを信奉し、「じぶんの像(かたち)をしたもの」たちから金を集め、とんずらこいたのである。
中田はもう少し手ごたえのありそうな手がかり…ゴトが居候しているという読者モデル・モモカのもとに電話をする。そんなはなしはもちろん初出だが、とにかくモモカの電話に出たのは、GORE-TEXみたいな目だし帽をつけたべつの男だ。誰だかはわからない。とにかく、目だし帽はカナダ行きのチケットを発見する。
チャイナじゃないのかYO…。
とにかく、明日の朝七時発だそうだ。目だし帽は、じぶんは女を張るから、ゴトをつかまえてくれという…。ここまで入念に計画を練るゴトだ。モモカすら利用されているという可能性もある。つまり、職業暴力者のハブ対策というか、空港ではまずつかまらないし(顔を知らないのだから、そんなことはほとんど不可能だ)、そのうえカナダに行ったものと思い込ませれば、完璧だ。ハブがどこまでゴトのことを追及するか、それはわからないが…。責任はそれぞれ末端の中田のような人間が負うことになるのだろうか?
ずっと通話中だったためか、ハブからメールがきている。ハブが真顔でメールをうっているところを想像するとちょっと笑える…。範馬勇次郎がふつうにごはん食べてるところみたいだ。
とにかく、半泣きの中田をキミノリは説得する。ハブと手を切れと。しかしそんなことはこわくて中田にはできない。しかしキミノリは、金を払えば許してくれるという。そしてその金は、じぶんが用意すると。彼が掲げるのはカウカウ・ファイナンスのティッシュだ…。彼は中田の紹介ということで丑島社長に買取をもちかける。じぶんの働く店の裏帳簿だ。脱税を重ねているオーナーはそうとうに裏金を貯めこんでいるらしい。それをわたすから買ってくれと。丑島は友人の戌亥に相談する。裏帳簿がほんものなら、戌亥は買いたいという。よくわからないけど、戌亥もやはりヤクザなんだろうか?キミノリの店はハブの息がかかっている。いくら丑島といえど、本職のヤクザを敵には回したくないだろう。だとしたらオーナーを脅して金を奪うのもまた本職だろう…。戌亥は丑島とタメのはずだから…いまがいつなのかはよくわからないが、それでも20代前半だろう。
なんにしても、キミノリは店を、ということは間接的にハブを裏切ることとなる。ニューヨーク行きということと、中田へのおもいがこれを実行させたのだろうが、果たしてうまくいくのか?!
つづく。
すごいスピードで巻きが入ってきた。
コミックス一冊あたりに収録されるのは毎回11か12話くらいだろうか。
するとあと2,3話くらいで楽園くんもおわりなのかな。
なんかいろいろなことが起こりすぎて、わけがわからん。
とりあえず、ゴトが本性をあらわした。
彼のすごいところは、うさんくささをフレッシュネスに換えて、魅力としてしまっていたことである。
うさんくさい格好、うさんくさいセリフは、自信満々に表現されることで、彼ら的には「オーラ」と見なされてきたのだ。
これは、考えてみるとすごい。
ふつうの状況ならいかにもあやしい言動が、彼なりのエキセントリックな自己表現として扱われてしまうのだから。
ゴトはこれでハブをも裏切ったことになるのだろうか。この点がいまいち伝わってこない。
創世記的な読み方をすれば、神が悪魔(へび)に「ひと」を丸投げにしてどっかにいってしまったというところか。
店を開くということで、ゴトと中田がハブと顔をあわせたとき、ハブは意外そうな顔をしていた。
あのリアクションが演技でないのなら、ゴトがハブをつかって経営のはなしを広げたのは、たぶん中田ひとりなんだろう。
それだけに額もすごい。ゴトは念入りに洗脳を続け、労力を注ぐことで、中田はすばらしき信者に仕立て上げ、厄介な売人の仕事までおしつけ、実ったものをすべて奪ってしまったわけである。おそるべし。
創世記では、もともと手足のあったへびは、禁断の実の件で神に呪われ、それを失って胴体のみで匍匐する生き物となった(こういう、いわばあとづけのおはなしを“学問上原因譚”というらしい)。
勘繰れば、神は、なにかと厄介な問題ばかりおこす狡猾なへびの動きを制御する決定的な口実がほしかったのかもしれない。
そのために、神は人間をつかったのかもしれない。
人間が禁断の実を食べたあと、神はこういっている。
「御覧、人はわれわれの一人と同じように(禁断の実を食べて※tsucchini註)善も悪も知るようになった。今度は手を伸ばして生命の樹から取って食べて、永久に生きるようになるかもしれない」岩波文庫『創世記』18頁
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人間が楽園を追い出されるのは、このあとなのだ。神は、ひとの成長を恐れてこれを追い出したのである。成長というのは、ここではその“兆し”だ。神がそれをへびの登場以前から覚えていたとしてもおかしなことはない。
ゴトの行為はどうしたものだろうか。神はへびの動きを封じ、またひとを追い出すことで、なにか利益(約1千万)を得たのだろうか?
サラリーマンくん編以来の長編となり、これまで考察してきたことも僕自身ほとんど忘れてしまっている。
これはやはりコミックスが出たときに改めて考える必要がありそうだ。
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