諸星は同居している母親に家賃3万の催促をされていた。
もちろん諸星に金はない。彼は家を出て行くことにする。
会社では新庄のウワサでもちきりだ。客ぶん殴ってクビになったと。あくまでウワサだ。つまり、ウワサ程度にしか事実が伝わっていないということだろう。もちろんクビだけで終わるはずがない。新庄がいまどうなっているのか、警察に捕まっているのか、逃げているのか、それはわからないが、はやい段階で会社が判断をくだして無関係を決め込んだというところだろうか。あるいは、ぶん殴ってすぐ新庄が逃走したために行方不明になっていて、傷害事件のあるなしに関わらず解雇した、ということだろうか?そっちのほうが自然かな。だけどそうすると、ウワサになっている以上事件はそれなりの経緯をたどって明るみになっているはずで、そしたらもう少し大きな騒ぎになっていてもいい気もするなあ。愛する子供に醜態をさらしてまで守ろうとした新庄がそのような結果となり、憔悴しきった印象の木村はなにをおもうか。
事務所に顔を出させたり、定期的に連絡をとったりといった地味な仕事がこういうところで役に立つのだろうか、丑嶋から、ただひとり残った諸星に電話だ。とはいえ、丑嶋は事件のことは知らないようだ。だが新庄とは連絡がとれない。今井も再起不能となったいま、三人ぶんの借金はすべて諸星が払うことになった。総額30万。諸星はまた女に金をつかったらしく、ジャンプしたいというが、丑嶋は利息分9万だけでも明日払ってもらうと告げる。
とそこへ客だ。
これは、もしかしてタクシードライバーくん編で足立が轢いてしまった池上和子ではないか?
なんの証拠もないけど。この作家の絵じゃ判断つかないし。
だけど、「年末」「お金貯まったから子供と暮らす」「スーパーでレジ打ち」などといったキーワードがそう思わせる。
池上和子も、東京で子供の手術費用300万を貯め、来年からスーパーのレジ打ちの仕事も見つけ、大晦日に息子をむかえに行くところだった。
だが、今週では(このひとが池上和子だとしたらってことだけど)、まだめどがたっていないというか、虚無的な感じが強い。「レジ打ちでもしようかな」という言葉にもどこか諦念のようなものが漂う。しかし、諸星の直球の激励に女は笑顔を見せるのだ。ある意味諸星は池上和子を救ったのかもしれない。
まあそのあと、このひとは同じタクシー会社のドライバーに轢かれる運命なわけだが…。
続けて諸星が乗せたのは、今井や新庄を再起不能にしたデス・ゲスト、710円童子だ。
それは諸星の娘の沙耶だった。
きれいな娘のようだが、なにしろかっこうがひどい。やはり沙耶は諸星を探してタクシーを乗り歩いていたのだ。父親に気づいた瞬間、両目に涙を浮かべた沙耶は車を飛び降りて逃げていってしまう…。
家路についた彼女を待つのはなんかマリオみたいなゲームで遊んでいるヤクザの根杜と、無責任で無力な母親の美紗だ。
根杜がどうした気まぐれからか、沙耶のみすぼらしいかっこうを指摘し、服を買ってやれと美紗にいう。しかし、美紗は金ならあげてるというのだ。沙耶じしんが、服はじぶんで買うからといって受け取っていたのだ。ご飯代もあげているから、じぶんには責任がないという。
そういう問題じゃねえだろ。
これだけでもう説明は必要ない。沙耶はふとしたひょうしに知った父親の名前と「KYタクシー」という会社名だけをたよりに、服代や食費を削ってタクシーに乗り、諸星を探していたのだ。
次の朝、いつも諸星が覗いていた…、いや、きわめて堂々とやっていたので覗きとは少しちがうのか…、諸星のモーニング娘。や内勤の江美ちゃんなどが、今日は諸星がいないということに気づく。なんだかんだで生活の風景のひとつになっていたのだろうか。そっとカーテンを開けて「今日は黒いのいないわね」ってのもなんだかおかしい。江美もちょっと退屈そうだ。これは諸星の黒いぶぶんを占めていた「女」が薄まってきていることを示すのかもしれない。
そんなころ、諸星はシャワー室で嗚咽を漏らしていた。ひとめで娘の置かれている環境と、これまでのふるまいや感情の動きなども知れたのだろう。父親の複雑な涙だ。
沙耶はどこかの児童施設にいた。学童保育みたいなもんだろうか?他の子供たちがボールで遊ぶなか、沙耶はひとりで隅っこに小さくうずくまっているのだ。とそこへ、子供も指差して笑うへんなおっさんの登場だ。おれたちの…、おれたちの諸星だっ!!沙耶も顔を赤らめている。だが、感情の動きがあるということは、とても大事なことだ。
娘の前での諸星の一人称は「信也」のようだ。「探偵信也」は何件も児童館を巡り、クリスマス・プレゼンツを手に沙耶のもとにやってきたのだ。なんだ海物語って…。パチンコ?
しかし沙耶はそっぽを向いてにべもなく父親を拒否する。
諸星は、涙ながらにじぶんがすべてをわかっていることを告げた。沙耶はずいぶん痩せてしまっていた、服も擦り切れている、いろいろなものを我慢して、お金貯めて、「信也くん」のことを探していたのだろと。しかし、沙耶はまだ小さな子供なのだ、どう感情を表し、なにをして示せばいいのかわからないのだ、かたくなに、母親の真似をしたように乱暴な口調で父親を拒むが、鉄の柵ごしに諸星に抱きすくめられ、瞬時に感情が爆発し、大きな泣き声をあげるのだった。
つづく。
次回新年第一号はクライマックスと書かれている。「クライマックス」とはべつに「おわり」という意味ではないので、厳密にはなんともいえないが、なんか終わりそうだな…。
問題はなにひとつ解決していないのだが、なにしろ諸星と沙耶の邂逅はこれ以上なくうれしい。沙耶の子供らしい不器用な、かつすさんだ反応も、けなげでいとおしくなってくる。
今週の江美などの描写から、諸星の性欲が減退し、まっとうな白人間になるというようなことがあったりするのだろうか?いずれにせよ、これで以前のように「生きがい」を訊ねられて、「女」と即答することはもうないだろう。べつにそれが悪いわけじゃないけど。とにかく、諸星は気にかけながらも久しく顔を見ていなかった娘を、ある種の悲劇性とともい再発見した。諸星の借金がどうなるかはまだわからないが(つまりちゃんと返済するのか、まだ続けるのか)、なんにしても、動機は変わってくるだろう。そして現実的には、この動機において、つまり娘というクリーンな生衝動に借金は不似合いなのだ。新庄はそれで失敗したのだから。
次回諸星が美白に目覚めてたりしたら笑うな~
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