第144話/スーパータクシーくん⑩
タクドラどうしのスーパー飲みに参加するようになっていた新庄だが、相変わらず仕事が苦しい様子だ。仕事そのものもそうだし、借金や家族のことなども新庄を追い詰めるので、精神的に参っているのだ。重なる疲労は負の共感を呼ぶ。「なんでおれだけが…」となることは誰でもあるが、それをある種の疲労のサインとして受け止めるかどうかが問題だ。
だが新庄の精神状態は、なにかもっと決定的だ。近距離のお客を雑魚客と呼び、無意識に舌打ちをしてしまうという程度なら、まだいい。そんな新庄をモノあつかいする客の悪口をいうのもまだましだ。だが新庄はそういう、まだ「身体的な」といえそうな疲労の段階をこえ、「じぶんはなんのために生きているのか」というところまでいってしまった。はなしはとぶようだけど、小説家や哲学者があのように深い哲学的考察が可能なのは、いうまでもなくヒマがあるからだ。ギリシャ人は奴隷制度があったからモノを考える余裕があったのだ。疲弊が先行する生活では、よく注意しないといけない。特に少年期にこういった疑問を通過していないばあいこんなふうになると、ドツボにはまりやすい。考える前に次の疲れがやってきてしまうから。…といっても、考えないことをよしとは僕はまったくしないけど。
対して木村や、ついでに諸星などは、そのへんは器用なのだ。「生きてるのに疑問を持ったら諸星を見習え」というような冗談含みのいいかたなどは、じつに木村らしいとおもう。
諸星の生きがいは女だが、木村の生きがいは子供だという。木村は仕事を辞めてタクシードライバーになろうか迷っていたとき、子供にも相談したんだそうだ。
「そしたら『やれよ カッコイイじゃん』って言ってくれたんだ。
だから俺…カッコイイドライバー目指したンだ
俺はタクシー人生続けるつもりだ。
710円くれーでくよくよしないんだ」
…うーむ、まともだ!
なんかカッコイイ。
カッコイイドライバーであろうとする動機が、子供にあるわけである。生きがいは子供だと応えるはずだ。
帰り道、諸星は新庄の表情から仕事以外の心配事…借金の心配があることを見抜く。もちろん闇金のことにはなしをもっていくためだ。諸星は借りれるだけ借りてばっくれ、新庄にゴムパッチンするつもりなのだから。
別の日、新庄は710円童子を乗せてしまい、おびえていた。今井は710円童子を乗せた日に事故った。会社のなかでもデス・ゲスト的なうわさがたっているもよう。
「イヤですねまったく…
(まあ、新ちゃんが不幸になるのは確実ですが…)」
…なんか今週は、諸星のこころのなかの述懐がむかつく感じだな。
諸星の黒人格ですね。
木村は今井の見舞いに行ったようだ。はなしをきいていたらしい所長が語りだす。建築関係の社長だったためなのか、木村はじつに責任感の強い男なのだ。じぶんが指導したドライバーが事故死したことや会社をつぶしてしまったことなども、彼は責任を感じ、いまでも悔やんでいるのだ。避雷針設置の会社だったというのが、なかなか象徴的だ。
そして、これは別の日だろうか、木村もまた710円童子を乗せてしまった。これでこの子を乗せていないのは諸星だけだ。いよいよ諸星の娘の沙耶だろうという説が濃厚だ。
木村は新庄が闇金の連中に追い詰められているといううわさを耳にする。面倒をみてきた男だ。木村はカウカウ・ファイナンスへと乗り込んでいく。
久しぶりのメンバー勢ぞろいだ。
いや、ほんとはぜんぜん勢ぞろいじゃないけど。マサルが見当たらないし受付嬢もいない。
だが、加納とかがほんきでレアすぎて、僕的にはもう勢ぞろいも同然だ。なんだか、下からあたる照明といい、人間の配置といい、まるっきりマフィアである。
アレ?高田くん、髪切った?
木村は言う。(新庄が)お前らに返す金はない。国にはそういうルールがある。警察に走らないだけマシとおもえと。口調は強いが、表情からは緊張がありありだ。そりゃそうだろう。ちょっとマネできないよ。
「人と人との約束はどうなる?」
丑嶋たちはなにも無理に金を貸しているわけではない。もちろん貸付の営業はするにちがいないが、決断をするのは客のほうだ。
木村が警察で話せというと、丑嶋はそっちがその気ならこっちも俺達のやりかたを発動すると宣言する。
新庄はなにより身内に借金のことを知られたくないのだ。だからこそ、丑嶋はそのことを利用して脅迫できたのだ。警察に行くのならそれを実行してしまうまでのこと。金を借りているという事実そのものが弱みとなってしまうのである。
木村は新庄を守りにきたのだ。新庄の弱みは木村の弱みだ。丑嶋はいますぐ三万払うならあと十日待つという。
木村はしぶしぶ金を出すが、あと500円足りない。丑嶋は今日中にきっちり3万払ってもらうという。残りの500円をどうするか?
どこかの小学校。木村の息子が友達と帰宅するところだ。ことばのふしぶしから、父親に対する愛情と尊敬が感じられる。木村がいい父親だということがよくわかるシーンだ。だが、校門を外へ出た彼らの目にしたのは、制服を着て黙したまま突っ立って、お布施のように一円玉を募る木村である。やや離れたところでは丑嶋が諸星をつかまえながら監視している。
子供にはあまりにショッキングな父親の姿だ。すれちがうふたりの絵がきつすぎる…。一巻のなにかのエピソードで丑嶋は、土下座をする父親を「子供の前で土下座すんじゃねえ!」と怒鳴りつけていた。つまり、このいやがらせがどれだけ子供に、すなわち木村にダメージを与えるかを丑嶋はしっかり理解しているのだ。
丑嶋が諸星を呼んだのはもちろん脅しをかけるためだ。今井のこともある。にらんでいるのだろう。
そのころ…
限界にきていた新庄がついにやってしまった…
てめえなんか紙切れ一枚でニートにしてやるといわれ、逆にスパナ一本でミートにしてしまったのだ…。
つづく。
もう、なんつうか、アレだ…。
かんぜんにウシジマ・ワールドだ。
想像力に欠けた共感地獄の人間関係では、どちらかいっぽうがそこを抜けてさえいれば、負担は大きいとしても、とりあえずその場をしのぐことくらいはできそうだ。このサラリーマンだって、それなりの地獄を抱えていたかもしれないのだ。だが新庄にはそんなことを考えたり、木村の言ったように間口を広くとって、刹那の関係として受け入れる余裕などはもはやなかった。
ここで、なにが悪だとか、責任はどこにあるだとか、二元論的な思考に陥ってしまうと、サラリーマン編における板橋などの読解もそうだったと僕はおもうのだが、物語を読み誤ってしまう。
新庄はつかまるだろう。そうなれば借金の返済はできない。保証人である諸星が返済しなくてはならない。また諸星に関しては保証人がいなくなってしまったわけだから、丑嶋たちはなにがなんでも諸星を逃さないだろう。
丑嶋たちに対して警察や法律を持ち出すのはほとんど意味がない。彼らじしん、リスクを承知でこの仕事をしているわけだし、また加納が言うように、法律の外にいるのが彼らなのだ。
ところで、今回はじめて「スーパーヒーロー」という言葉が、マサルの言をうけて、諸星のセリフのなかに出てきていた。今回は(気づかなかっただけで毎回そうだったのかな?)音声として外に出てきた諸星のことばと、内心でつぶやかれることばがとてもわかりやすくずれていた。現時点ではまだ、「スーパーヒーロー」ということばは嘲りを含んだ、軽蔑の呼称だった。これの「意味」がひっくりかえる瞬間が今後必ずやってくるにちがいない。
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