第143話/スーパータクシーくん⑨
治療中の今井を除いたタクドラの三人が、授業さぼってる大学生みたいにヒマをつぶしている。かなり参っている様子であった新庄(新ちゃん)は木村(キムさん)の助言を受け、マンシュウ(一万以上の客)を獲得したようだった。そのこともあって新ちゃんは木村や諸星の人格そのものにも興味を向け始めていて、はじめはばかにして近づきもしなかった彼らのスーパーでの飲み会にも参加するつもりだ。しかし、意外にもというか、諸星は酒を飲まないらしい。
「一生分を20代で飲み干してしまいました」
ふざけてんのかとおもったけど、あとの描写でこれはこのことばのまんまだということが判明する。
「迎車」という漢字の読めないホストを蹴散らし、諸星は客をむかえにいく。が、先方もけっきょくホストだった。先輩ホストの傍若無人なふるまいにいい加減あたまにきているらしく、諸星にまであたりちらすルカ(漢字表記はめんどいので略)と、もう少し冷静なキリト、そしてキリトに貢ぐために風俗で働いているヨリコ。ヨリコは風俗の仕事に不平をもらしているが、よく読むと風俗という仕事そのものにはまったく抵抗を感じていないらしいことがわかる。意思の通じないような、彼らが決定的に遠いところにいるという、この描写を読んだときの皮膚的な違和感はこうしたところからやってくる。
しかしやはりヨリコはホスト明けのその足で店へとむかう。後部座席に吐き散らしたルカはつぶれて眠ってしまい、ぎりぎりはなしはできるといった程度とはいえ、ひとり冷静なキリトは助手席にうつる。そして驚いたことに、諸星が20代のころホストであったということが判明する。
「頑張って下さい。
ホストは心意気ですよ」
ルカを抱えて下車するキリトに諸星がエールをおくる。
「頑張って下さい…
ホストは、辞めてからの人生のほうが長いンですよ…」
ルカのゲロ処理をする諸星のもとに再度元嫁から金の催促のメールだ。諸星は美紗をむかえにいく。
だが美紗の傍らには、先週話に登場したあの疵面のおとこがいたのだ。根杜実(ねづみのる)というヤクザである。根杜は運転中の諸星の顔面にむかしの写真をつきつけて視界をふさぎ、諸星はあやうく事故りそうになる。写真は、さまざまな器具をつかって性的な拷問をうける諸星である…。諸星は個人的なからだのつきあいのある金持ちのばあさんから出資を受け、27歳にしてホストクラブのオーナーとなった。だがばあさんが死んでしまったため、根杜の組に2000万もの借金をすることとなった。そのために、諸星は四年間、当時17歳だった根杜の監視のもと、ただ働きをすることとなったのだった。
諸星は一度脱走を試みたらしい。監視役だった根杜はそのことでうえからヤキを入れられた。彼の顔の疵はそのときのものである。
元妻にガツンと言ってやるつもりが、根杜の暴力的な迫力と過去の含みも手伝って、諸星は結局金をおろして手渡してしまう。
諸星は「沙耶は?」と美紗に尋ねるが美紗は応えず、まるで手をつなぐかのように、根杜の服のすそをつかんで、行ってしまう。
「水は、高い所から低い所へ流れて行きます。
私、諸星信也は高い所から低い所へ流されて行きます。
どうやらタクシーも潮時のようです。
こうなったら闇金で借金しまくって飛んでしまいましょう。
田嶋のゴムパッチンを新ちゃんに押しつけて」
つづく。
今井の「現代版ネズミ小僧」発言がこんなところの伏線になっていたとは…。
このばあいねずみである根杜は悪者なのだから、諸星もねずみになっちゃったら意味わかんないけど、とにかく、つながったという印象はある。このエピソードはヒーローものだったのだ!タイトルにおける「スーパー」は、諸星の昭和的なネーミング・センスも含め、たぶんまったくそのまんまの意味なのである。この「スーパー」は、だからたとえば「スーパーサイヤ人」などというときのそれと同じなのだ。
もちろんスーパータクシー(ドライバー)諸星が退治するのはネズミであって、救うのは沙耶だろう。これだけの条件で判断をくだすのはいくらなんでもはやいとおもうが、もちろんこのままではおわるはずがない。同僚たちにははなしていないホストの過去があったように、諸星のこころの黒いぶぶんはいまだにはっきり見えてこない。そしてこれは、もしかすると永遠に見えてこない種類の闇かもしれない。というのは、彼がそれを自覚していないか、あるいは例のポジティヴな人生観からみずからに対しても隠匿するようなところがあるのか、それはわからないが、なにしろまさに影のように、追っても追っても追いつけないというような感じもある。新ちゃんをゴムパッチンというくだりも、「ゴムパッチン」ということばのユーモラスな語感や、諸星じしんの慇懃なことばづかいは、彼の表に顕れている人格から、暗い、正体のつかめない人格への移行をきわめて自然に、アナログに、スウィッチの手応えなしに実行する。そのために、読んでいる僕らはなにが諸星のほんとうなのかということがよくわからなくなってしまう。
なんとなく、すごいことになりそうな気がするなー今回のエピソードは。細部のひとつひとつに、恣意的ではない、いつも以上に企図的なものを感じる。
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