第40回極真全日本大会 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

見ました。



なんというかな…「空手母国日本の威信を…」的な空気作り、もうやめたほうがいいんでないかな~
選手たちの意識や会場の雰囲気ということになるとわかりませんが、少なくとも番組としてはそんな感じだった。


そういう空気はむかしもあった。フィリョ以前でも、世界大会で「日本の牙城」が脅かされたことは、何度もあった。しかしむかしといまでは意味がちがう。当時は事実日本こそが空手先進国であり、ウィリー・ウィリアムスとかアンディ・フグみたいなある種の逸材をのぞくと、海外勢はどこまでも日本を、日本人のとる戦法やトレーニングやその結果を、追うかたちにあった。

現在ではもう完全に海外の実力はおいついている。しかしこれは、あくまで状況だけを取り出して見ればということだが、本来は喜ぶべきことのはず。なぜならこれは極真空手という思想が世界レベルで花開いたことを示す結果であって、日本人含めあらゆる選手にとって追ったり追われたりという環境が日常になったということなのだから。都心に比べて地方の支部ではチャンピオンが生まれにくいというが、それは層が薄く、スパーリングで経験できる組手スタイルなども限られてくるから。たとえば前世界チャンピオンの木山仁なんかは鹿児島出身ですが、あのひとくらいになると、都心や海外の試合にでもでないと苦戦したりすることすらほとんどなくなってしまう。対して都心は、層が厚く、いろいろな空手家がいる。小さくて素早いのもいれば、2メートルくらいのパワーファイターだっている。トリッキーな動きをするルーキーもいれば百戦練磨のベテランもいるし、ブラジルから武者修行にきた選手やら勉強にきたキックボクシングの選手やらなにやらかにやら、とにかくいろんなひとがいる。そんな環境で揉まれた選手たちは結果としてものすごいスピードで、かつ柔軟に成長していく…


いつまでも「日本の威信」にしがみつくことは、選手のモチベーション的にも、空手団体としての今後という意味でも、あんまりよくないんじゃないかとおもう。なにかを背負うことでひとは強くなれるばあいもあるが、それが形骸化してしまったとき、残る「背負ったもののために負けてはならない」という意識は余計な重圧となるだけなんじゃないだろうか。そして、「負けてはならない」というのと「勝ちたい」、あるいは「勝たなければならない」というのでは、まったくちがうはずだ。これはどのような勝負事でも同じではないでしょうか。「負けてはならない」ひとは、当然負けないことが大事だから、危ない橋をわたるわけにはいかず、その組手スタイルは必然的に防御中心の消極的なものとなるでしょうし、また相手がかってに「負けてはならない」と気負ってくれている状態で勝ちにいくほうは、どちらかといえば気分も軽くなり、柔軟に技をくりだし、胸を借りるように冒険をしかけるんじゃないでしょうか。空手じゃなくたってそうでしょう。

ほんとうの意味で、空手を生んだ国としててっぺんに立つなら、絶対性に基づいたナショナリズムはとりあえず置いて、この状況を成長の機会ととらえ、弁証法的に練磨していく以外ないんじゃないでしょうか。お国のために、ではなく、じぶんが勝つために…。それが結果として日本復活につながるとおもいます。なぜなら、日本で空手が生まれたということは、海外では生まれなかったということであり、したがって空手というのは本来的に日本的な、日本人にあった技術体系なのですよ。そしてたぶん、空手における日本の絶対意識は、こういうことをちょっと取り違えた結果なのだとおもう(厳密には大山倍達総裁は日本人ではないが、空手そのものは日本の発祥である。だが中国からの渡来・変形と考えたら、ここは「アジア人」くらいにしておいたほうがいいかもしれない)。


また、「日本人(日本語人)が考案した技術体系」ながら、欧米人も日本人に匹敵するちからを修得できたという事実は、この技術体系の普遍性、すなわち武術としての優秀をあらわすものでもある。誰でもたったいまから世界最強を目指すことができる、女だろうと子供だろうと老人だろうと、ヤンキーだろうとがり勉だろうと、近眼だろうと短足だろうと麻雀狂だろうとベジタリアンだろうと、誰もが強くなれる、それが武術というもののはずだから。


選手たちは、いわれるまでもなく、意外とこんな意識でいるんじゃないかなとか想像しますが。しかし権威的な空気は無意識を支配する…。

しかしまあ、こんなことも、外野の意見だといわれればそれまでですが、いちおう断っておくと、僕がいかなる書き方をしても、選手たちのかいた汗の価値をおとしめるつもりは微塵もありません。



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