『ミスト』 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

■『ミスト』
監督:フランク・ダラボン
原作:スティーヴン・キング
主演:トーマス・ジェーン

ミスト
¥2,950
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うーむ…、すごかった。

なんなんだこの映画は。久しぶりに映画を観て絶句した。以下結末についての決定的なネタバレはありませんが、勘のいいひとには伝わってしまう可能性もあるので、見てないひとでこれから見ようとしているかたは読まないように。



原作は『骸骨乗組員』収録、大好きなスティーヴン・キングの中編「霧」。しかも僕はこれがキング初体験だった。だから作品への思い入れもけっこうなもので、最近は読んでないのだけど、登場人物や描写の細部などには懐かしさすら覚えました。特にあの倉庫のシャッターとか、あたまに思い描いてたまんまだったよ。

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そして、原作とは異なった、あの衝撃の結末。いろいろレビューをのぞいてみたけど、少なくとも評点という意味では、やはり賛否両論あるようだ。そりゃそうだろう。なぜならこのおはなしは、理性に基づいた観る者の認識と良識を全否定する構造にあるのだから。物語の原則として、観客どうしにとどまらず、本人の内側にも、賛否両論呼びこまざるを得ない構造なのである。これを零点とするか百点とするかのちがいは要はこれをどう受け止めるかの相違であって、おそらくは酷評をくだしたひとにおいても、この映画の希求する理想として築かれた枠組がしっかり機能したことを、その評価でもって逆に示してしまうかたちとなるのである。したがって『ミスト』についての真の酷評とは、零点とか星一つとかではなく、五十とか六十とかいった点数なのだ。



ネタバレはぜったいにできないから、どう書けばいいのかわからないのだが…(それはつまり書くべきではないということなのかもしれないが)。

キングが原作で与えた結末は、主人公デイヴィッドの父親が「アルフレッド・ヒッチコック風の結末」と呼んだ、判断を読者に任せたあいまいなものだった。そしてそれはある意味正解だったのかもしれない。言ってみればこの映画は、小説が成り立たせていたあの世界をより高次から解釈して包みなおした、ある種「批評論文」のようなかたちなのだ。つまり、細部描写やキャラクターなどはきちんと原作にのっとったかたちでつくりこまれているのだが、これはまったく別のおはなしになっているといえるとおもう。



この手のおはなしの常として、『セル』もそうだったし、卑近な例では漫画の『ドラゴンヘッド』なんかもそうだったが、ひとびとはなにか信じるに足る幻想を、目標や思考様式として探そうと努める。これ以外でもゾンビものはぜんぶといっていいとおもうが、みずからの場所・状況=ジョブを外部から規定する社会というシステムが故障し、理性の礎となる機能が喪失してしまったとき、ひとびとはすっぴんとなり、手持ちのアビリティのみでサバイバルせざるを得なくなる。数少ない理知的なにんげんたちは、そのように混沌とした世界からもなんらかのシステムを見出だしたり、仲間たちとあらたに社会性を築いて生きていくのかもしれないが、この手の物語では必ず宗教という思考様式に逃げこむひとびとが出てくる。なぜなら、そのほうが楽チンだからである。思考停止に陥る大義名分がつくからである。困難を乗り越えるよりは委ねてしまったほうが身も心も楽なのだ。

このおはなしにもミセス・カモーディというおばはんが出てくる。おばはんは聖書をふりかざしておびえきったひとびとを扇動する。問題は事態が誰のせいであるかということより目の前を浮遊する化け物をいかに食い止め、生き延びるかということであるのに、ひとびとはただでさえ視界の悪い霧のなかですっかり目をつぶってしまう。良識あるすべての観客はこのおばはんに苛立ち、主人公たちに感情移入する。

しかしである。結末は示すのだ。
「ひとびとはなにか信じるに足る幻想を、目標や思考様式として探そうと努める」というこの手の物語の、いや我々の住むこの世界にも通じるこの原則に、例外はなかったのである。



…これ以上は書けないですね。いや書きすぎかも。うえに書いたように、これから映画を観るひとがこの文章を読んでいないことを祈るばかりですが、いちおうこのくらいにしておきます。



ちなみに僕は百点です。
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