今週の闇金ウシジマくん/第132話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第132話/出会いカフェくん⑩



大金が得られると聞かされ高級ホテルにやってきた美來とJP。そこでまっていた富裕層の“彼等”と勝負をするためには、JPは両目を賭け、そしてミコは代理母となることを約束しなくてはならない。ぐるぐるに縛られながらもJPは「やれ」とミコを煽る。少し笑っているようにも見える。このじてんでふたりはまだ勝負にのっていないのだから、いやならやめて、解放してもらうことは可能なはずだ。加虐の喜びが彼等の側に仮にあるとしても。ということは、一見JPはむりに捕縛されているようだが、心理的には「すすんで」拘束されているのと同じことになる。しかも勝負をするのはじぶんではない。復讐の的だったはずの元カノだ。くちではああ言ってもほんとはどうしても3000万ほしいとか、動機はともかく、JPはミコに「すすんで」両目を預けたかたちとなるのだ。ここにはJPのミコに対する信頼がどうとかいうより、彼の虚無的に投げやりなありかたと、自己破壊的な安直さがあらわれているとおもう。



しかしミコの返答のないままに彼等は準備をすすめ、JPは開いたままのまぶたを固定されてしまう。JPはちょっと焦るが、彼等は目薬をさすから大丈夫という。『時計じかけのオレンジ』の、強制更生中のアレックスみたいだ。となれば、勝負後は暴力もセックスもできなくなるぞ。



ミコは勝負の内容がわからないと決められないという。そりゃそうだ。僕はてっきり順序として逆は不可なのかとおもったのだけど。彼等は「ナニを大切にしているか」と問う。ミコは戸惑いながらもぎりぎり「友達」というこたえをひねりだす。ゲームの道具として「友達」が決まった。友達何人いる?と訊かれ、ミコは「本当の友達は4人いる」と応えている。ハルコ、夏希、アキト、冬美のことだろう。


彼等はミコの携帯を手にとり、ギャル文字でメールを作成する。僕にはヒエログリフみたいなものだが、なんとか読んでみました。内容の要約は、妊娠してしまったのだがおろす金がない、20万貸してくれないかという相談だ。


「このメールを5人の友達に送って、

20万集めるコトができたらキミの勝ちってどう?」


「あと2時間くらいでこの部屋は陽が射す!


JPくんが失明したらタイムアウトだよ~~~」


「この勝負は信頼関係がテーマだ。

20万円分のお金を貸すという約束だけでいい。どうする?」


やや心配そうなJPに対し、「絶対に相談に乗ってくれる友達はいる」とミコは断言する。しかし大切な友人たちに妊娠・中絶という不本意な嘘をつくことにかわりはない。ミコは迷う。迷う彼女のかたわらでKが一発のチャンスの価値をまた語り出す。めんどいので省略。


そしてミコはなにかをおもいつき、この勝負にのる。5人にメール送信だ!



さっそく返信。タジマくんだっ!つまり我らがウシジマくんである。ミコは彼等に対しタジマくんも友達ということにしてしまったのだ。モコみたいに、もしミコがカウカウの常連で、返済実績とともに信頼関係ができていればこのじてんで20万いけたかもしれない。しかしウシジマは五万までと。「字読み辛ェぞ!コラ!」ってのがちょっとおもしろい。それでもちゃんと最後まで読んだんだね、うっしー。

続いてハルコ。金髪のほうだ。えーと…。うん。とりあえずダメっぽい。ハルコは「噂」で、ミコが冬美と出会いカフェに行っていることを知っているようだ。そして援助交際をしてできた子供なんじゃないかと勘繰っている。…まあしかたのない流れなのかな。ミコが出会いカフェに通ってるのは事実だし、げんに冬美は援助交際してるし。


夏希のほうもダメっぽい。ハルコに比べて夏希はもう、すごい怒ってる。相手わかんないのか、男に払ってもらえ、からだ売ってんなら20万くらいかんたんでしょと冷たい口調だが、ミコに嘘をつかれたことがそうとうにショックで、また悲しいようだ。援助交際はしてなくとも、なまじ「出会いカフェには行ってない」という嘘はついていただけに、ミコもこんな決定的な文面を読むのはつらいだろう。


彼等がルームサービスを頼んだりKがいじめられたり、そうこうしているうちに20分経過。ミコたちでは10分以内に返信するのが友達なんだそうだ。だがミコはあきらめず、一人だけ勝つことができる親友がいると言う。だが突如、目薬と涙で目をいっぱいにしたJPが「俺達の負けだ」と言い出す。ミコのいうその“一人”はアキトにちがいない。しかし彼の携帯はJPが奪い、ここに持ってきてしまっている。アキトはこの件を知りようがないのだ…。


しかしミコは「知ってる」と言い放つ。ミコは最初から、アキトの居場所をJPから聞き出すことが目的だったのだ!なんかジョジョみたいな流れだ。


「おめーはアキトのコトばっかりだな!!


いっつもアキトのコトばっかりだな!!」



おい…、おいおいっ!!


ヤクザどころか死すら恐れないJPとはおもえないほど、直情的で、いっぱいいっぱいなせりふだ。なんとなくJPの、嫉妬からくる「復讐」の意味、またアキトを含めた三人の関係の機微が見え始めてくる。


そんなJPに、Kは「ミコはお前も救うためにからだ張ったんじゃないか?」と指摘する。アキトを救い出すだけなら、方法は他にもあった。警察や誰かを呼ぶ機会はいくらでもあっただろうし、最初にJPと遭遇したのはひとの多い新宿だったのだから、もっと原始的にダッシュということもできたかもしれない。警察に捕まったところでJPはアキトたちの居場所は吐かない…とミコが考えた可能性もある。しかしえたいの知れないKみたいな男に連絡をとり、そのうえ3000万というあほみたいな額を手に入れなければならないという状況よりはよほど現実的だ。だからそれは、ミコのほうでJPに対してある種義理的な感情があったということを示すのかもしれない。JPが捕縛され、目を固定されても、ミコには勝負にのるか否かを選択することができた。ミコは、からだを張って3000万に挑戦することをみずから選んだのだ。3000万はJPをヤクザから救うとともに、間接的にアキトを見つけ出す金でもある。この両方を成り立たせるには、これしかなかったのだ。…そういう意味だろうか?



Kに毒づきながらも、しかしJPはアキトのいる倉庫の場所を教える。複雑な表情でミコは部屋を出ようとするが、彼等はそれを引き止める。ルール違反だと。出るなら条件があると…。

実存主義的に、パワフルに生きてきたJPは時計仕掛けのシステム(=ヤクザ)に取り込まれてしまうのかっ!?そしてふーみんのう〇こはっ!?


つづく。


部屋を出る条件ってなんだろ?いままででは金を貸す約束だけで済んだが、これを現金で回収というルールに変えるとかだろうか。だとすれば丑嶋がからんでくる可能性は高くなる。


しかし…このようなハイリスクの勝負で、この内容はどうなのだろう?ミコの側でも子宮とJPの視力がかかっているわけだから、すでにお互い等価値(と認め合った)のものを提示していることになるので、勝負のうちで両者の立場は対等となっている。勝負というからには、ミコがこれを成功させたばあいは、彼等の「負け」ということになる。簡略化すれば、絶対価値としての│3000万円│をそれぞれにテーブルのうえに出して、勝ったほうがごそっとこれを持って帰れると、そういうことになるのだ(ほんらいは、芸術鑑賞などをとってみても「価値」とは絶対的なものではないし、彼等にとっての3000万とミコたちにとってのそれではまったく内包する意味が異なるが、ここでは両者が認め合っているので)。しかし、勝負の外では両者の条件は明らかに異なる。この勝負は彼等が相手だからこそ成立し得たものだ。ノブレス・オブリージュ…高貴なものの義務という大義があるとはいえ、あくまで彼等は勝負を承った側だ。ミコが代理母をつとめるのは彼らの友人だ。しかしこれをミコにやらせたところで医療費はかかる。ただアメリカの貧民に払う数百万が浮くだけ。彼等クラスにははした金だ。勝ったとき得るもの、負けたとき失うものの価値はそれぞれに相殺されるが、一度勝負をはなれ、それぞれの価値基準に戻ったとき、お互いにほしいものへの欲求の程度がまったくちがうのである。しかるに、彼等が勝負を受ける理由というのが「義務だから」ではなにか物足りない。それこそカイジのように…ノブル側には勝負そのものを見る喜びのようなものがあるべきなのだ。それはたとえば、欲にかられ、原我をむきだしにする人間を見たいとか…。あるいはこの勝負が彼等側でも参加するようなものならまだわかる。しかし限定じゃんけんのころのようなカイジ同様、彼等は見てるだけだ。それなのに、この勝負はいかにも小さい。とすれば、こんな勝負でも彼等には意味があると見なければならない。彼等は「大切なもの」をミコに訊ねた。つまりそれが壊れるところを眺めたいんだろう。


また、とんちんかんな深読みとわかりながら書くと、もしここで「3000万円」を「アキトと冬美の生命」と「JPの現状維持」ということに置き換えてしまうとおもしろい。JPのことはJPじしんの両目で相殺されるとして、アキトと冬美の対称に位置するのはミコの子宮なのである…。そしてふたりは奇しくもコンテナという密閉空間に監禁された状態だ。だからふたりを、小堀における板橋のような、ミコの分身と読むことも可能なのである…たぶん。


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