第131話/出会いカフェくん⑨
ある「勝負」に勝って大金を手に入れたというKにより、美來とJPが連れてこられた高級ホテルで待っていたのは、金融資産50億以上の富裕層(ニューリッチ)、滑稽と不気味が入り混じる、仮面で顔を隠した四人の“彼等”だった。ひとりがボイス・チェンジャーを通してボディチェックを宣言する。現れたのはこれも仮面をつけた屈強な男たち。なぜか全員金髪の坊主で、仮面も統一され、完全に“個”を消し去っている。JPはナイフを取り出しこれを防ごうとするが、捕まえられてとなりの部屋に連れていかれてしまう。
彼等と残されたミコの携帯に母親から電話だ。彼等の要請でスピーカーにしてミコは電話に出る。実家に丑嶋が取り立てに来ているのだ。母親は懲りずに娘に五万円借りようとする。
丑嶋とミコのやりとりを聞いていた彼等のひとり(ここでは“個”が剥奪されているので、じっしつ“彼等”そのもの)が、電話のあとにじぶんたち富裕層について語り出す。方法は不明だが、なにはともあれ彼等は日本における富をある程度きわめた。資産も増え続けるいっぽう、モノやお金では満たされなくなっている。日本では高い階層にあってもアメリカやヨーロッパの特権階級に仲間入りはできない。本当に欲しいステイタスは手に入らない…
とはいえ、富裕層には富裕層の義務=ノブレス・オブリージュがある。「高貴なものは、高貴であるがゆえに果たさねばならぬ義務がある」ということ。ミュージカル『ミー&マイガール』なんかもそういう物語でした。彼等では「富の分配」ということがそれにあたる。つまり、勝負をして勝てば2000万円やると。もちろん、負けた場合には罰が加えられる。その罰はかかっている金額と本人にとって等価でなければならない。負けたら失うものをいわば担保として、勝負という仕事に従事する、ということか。彼等のほうでも負けたときのために等価の金額を準備するわけだから、勝負のうちで両者はいちおう対等だ。彼等には部分にすぎない損失だが。これを労働とすれば、利益となる剰余価値(労働力マイナス給与)は彼等の快楽だろうか。
いずれにせよ、この勝負を成立させるためには、金額に見合った労働力を提供しなくてはならない。
戸惑うミコに、すでに勝負して大金を得ているKが熱く語る。お前は他の出会いカフェの連中とちがってウリをしていないきれいなからだだ。ごみだめから抜け出せ。お前は選ばれた女なのだと。Kがミコを選択した理由はここにあらわれているのだろうか。熱くなりすぎたKの上顎がとつぜんはずれて落っこちる。ナマで見るとけっこうびっくりしますよね、これ。Kの上の歯は全部入れ歯だったのだ。食べるのが好きなKは一度目の勝負で歯を賭けさせられ、敗北してこれを失ったのだ。そして二度目に下を賭け、一千万を手にした…
「“Me”…
俺たちフリーターの生涯賃金を知ってるか?
5千万円だよ。
40年働いてたったの5千万円だ。
食費や家賃を払ってたらナニも残らねェよ。
大金を掴むにはそれなりのリスクがいるンだ」
ってことは、たりてないじゃん、K。
そのようにきわめてシリアスな「勝負」だが、彼等が宣告するミコの罰は「代理母」だ。負けたときは、子宝に恵まれない彼等のある友人夫婦の子供を出産しろと。このばあい、ミコはどのような労働力を提供することになるか。なにを失うことになるのか。
と、別室から「3千万だ!」というJPの声。
しかし彼等は2千万でも高いという。1千万プラスするにはさらなる代償が必要だ。JPもなにか賭けるべきだ。といいつつ、お膳立ては済んでいるようだ。隣の部屋では手錠で後ろ手にされたJPがガムテで椅子にぐるぐるまきにされている。ぎりぎり口呼吸はできる、ぐらいの巻きかただ。そんな、ガムテのすきまからわずかにのぞくJPの両目の高さに双眼鏡が設置される。双眼鏡は窓の外をとらえ、JPの瞳に、ビルの陰からもうすぐあらわれる太陽の光をまっすぐに差し込むだろう。JPの両目賭けだ!
ミコ、どうするっ!?そしてふーみんのう〇こはっ!?いったいどうなってしまっているのか?!!
つづく。
…とりあえずJPは目をつぶっとこう。瞼越しならまだ時間かせげる。
今週話でも勝負の内容は明かされなかった。それはたぶん、「のる」と決めるのがさきで、内容を聞いてから選択するのはナシってことなんだろう。だが賭けるものは決まった。3000万円の代償として、ミコは子宮を提供し、JPは両目を提供する。むりやりにこじつければ、若いがゆえ、清潔で健康であるがゆえ、動機はそれぞれ異なるが、Kや彼等に選ばれたミコは、まさに若いという状況そのものを、切り売りでなくまるまる差し出して金を得ることになるのかもしれないが(「美來」という名前は「未來」ということばを暗示し、これはもちろん「未来」のことだ)、あんまり先走ってもダメだろう。とうぶんはあまり深く考えずに、こんなゆるい感じでいきます。
それにしても、今回の「出会いカフェくん」というジョブはいったいなにを意味するのだろう。エンコーくんとか買春くんではないというところがミソなのかもしれない。出会いカフェをことばのようなある種コミュニケーションの媒体と捉えたとき…刹那的な人間関係以外になにか浮かび上がってくるものがあるだろうか。メタファーらしきものはあちこちに見られるのだが、僕にはまだまだ読み解けない。そして物語の威力が、よくわからないそのままで終わらせてしまうような予感を呼ぶ。としたら、今回は通して読むよりは週ごとに細かくていねいに読んでいくありかたはけっこうあっているかも。