『SIXTH SENSE』MIC BANDITZ | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

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■『SIXTH SENSE』MIC BANDITZ

SIXTH SENSE(CCCD)




ミニ・アルバム『The Visitors』を経て、2003年に発表されたマイク・バンディッツの1stフルアルバム。



彼らの結成経緯はこちらを。↓


・『The Visitors』MIC BANDITZ

http://ameblo.jp/tsucchini/entry-10054666451.html








1stとはいえ、ヒップホップらしいアマチュアリズムとでもいえばいいか、デビューはあくまで段階のひとつであり、これをもって実存主義的なB-BOYのありかたがなにか変化するということもなく(表現方法にはもしかしたらそれなりにバーバルの影響があるのかもしれないが)、またデビューの瞬間から彼らはラッパーになったわけでもなく、どこまでもアマチュアであるのと同じ意味で彼らはどのじてんからもプロだったはずで、これが明確に公式「職業ラッパー」として読めるようになったというところでしょうか。なにが言いたいかというと、彼らのほとんどは新人とはいってもラップ歴云年の猛者なので、前の記事にも書いたけどグループ全体についての思い入れ、音楽的土壌か背景とでもいったらいいか、連続する一個のMCとしてのアイデンティティをヒップホップ的に保証するものはここにはないのだが、とにかく気合いがはんぱではないし、ひたすらラップが上手い。メンバー最年長のブリスターはラップに集中するために仕事を辞めたというくらいのラップ馬鹿だし、アサヤンの審査当時クリンチは単身本場アメリカに武者修業に出掛けていた。ラップ以外他になにもいらないというような連中なのだ。軽いラップのわけがない。





そしていま聴き返しても、トラックといいシュールレアリスム的な方法といい、とにかく洗練された21世紀型とでもいったらいいような感触がカッコイイし、新鮮。





映画「シックス・センス」を引用したプロローグに続いてはじまるのは日之内エミ(当時表記は絵美)をフィーチャーした「WHAT'S YOUR SECRET?」。彼女の1stアルバムにも収録されている曲です。トラックはm-floのTAKU。プリミティブな打楽器と咆哮、大仰なほどのシンセ・ベース、それからこれはサンプリングなのか、トラックがころころ色を変えていくのもおもしろい。日之内エミも適材って感じだ。





DJアジャパイの手による「OH NO!」は、バーバルもそうだけど、リリックの内容といいライミングといい、彼らの諧謔性というか皮肉っぽさがよく出ていて、知的なセクハラソングというような曲で笑える。この一曲もそうだが、このアルバムは曲順や方向性もよく考えられていて、通して聴いてもまったく飽きがこない。





「AGEHA」もいいね。メンバー最年少、当時たぶん19か20歳くらいだったゴイチのトラックですね。審査の当時から彼はトラック・メイキングでも頭角をあらわしていたけど、これも独特のスパニッシュな感じがよく出ていて、秀逸ですね~。





「太郎物語」も「OH NO!」同様彼らの知性がよく出ていておもしろい。ZEEBRAの「Story Of A Sucka MC」と同じ流れの、相手を明確には特定しないシニカルなサッカ殺しですね。21世紀的ディスりソングとでもいったらいいか。「MC太郎」という架空のフェイク・ラッパーを、皮肉いっぱいに哀愁すら漂わせてマイク・リレーで表現していく。上手いね~。いや、ウマイね~。よい子は絶対マネしないように。





「SUICIDE SCANDINAVIA VS VERBAL」はバーバルによるアルバム中唯一のソロ曲。スヌープの「SERIAL KILLA」のフックを引用してますね。幻覚的な雰囲気にのせて、社会派なバーバルがシュールにうたいあげる。これは「THE INDUSTRY」もそうだったけど、かけ離れた理想と現実ということが描かれていて、それをm-floのバーバルがこういう手法でうたうというのも興味深い。





「ONE AFTER ANOTHER」のオリジナルはブリスター。オーディションのときから彼はこれをトラックを変えつつうたっていて、印象的なフックは耳をついて離れず、僕はこのアルバムを買うまでもなくしっかり覚えていた。ここではブリスターとコヤスのデュオになっています。両者とも、亡くしたばかりの偉大な父親について、きわめてB-BOYらしく、リリカルに、熱く、かつクールにうたいあげる。だからレクイエムなわけですが、聴き終わったあと、僕はいつもからだの底から立ち上がってくる生命力のようなものを感じます。すべての歌詞がパンチライン。名曲です。





ラストの「TOKYO ELECTRIQUE PARADE」もパンチラインが満載。コヤスはまじでいかれてるね。メンバーのなかで僕がいちばん好きなアーキテックも、短いながら非常に流麗なフロウをきかせている。バーバルからブリスターの流れもカッコイイね。