THE CATCHER IN THE RYE | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

■『ライ麦畑でつかまえて THE CATCHER IN THE RYE』J.D.サリンジャー著 講談社英語文庫



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調べたら、このブログを開設したばかりの、去年の4月19日の記事に、すでにコレを読み始めたという記述がありました。あいだに半年くらいまったく手をつけなかった期間があるとはいえ、それでも読了まで七ヶ月は要したことになる。ついにYATTAYO。これまで完全に理系で生きてきて、というよりは数学に逃げてきて、英語なんかせいぜいセンターレベル、できるだけ関わらないように生きてきた僕のようなにんげんには大仕事でした。基本的な単語やイディオムもすっかり忘れてしまっていたし…。まあ日本語でも、吉田健一『時間』なんかは同じくらいかかったけど。





そしてまた、僕の英語力のはなしばかりで恐縮なのですが、物語も後半に入るとなにか「英語で読めている」という感じがどんどん強くなっていって、もちろん日本語で何度も読んでいたからストーリーじたいはよく知っていたというのもあるにはちがいないけど、いちど文字を目にいれて、日本語になおし、そしてあたまのなかで読みあげるという感覚は次第になくなっていきました。これはやはりおはなしがホールデン・コールフィールドのモノローグであり、おそらくは口語的な書きかたがされているってのがよかったんだとおもう。リズムがよいし、口癖フレーズみたいなのも心地よかった。辞書をひいてもわからないところは白水社の野崎孝訳と同様に白水社の村上春樹訳をそれぞれに参考としましたが、こう、すっかり原文にあたまを浸した状態で翻訳に目をうつすと、おそらくは口語という形態ゆえ、やはり1964年の野崎訳は古臭く、現代人の僕には村上訳のほうがすんなり納得できた(僕が村上春樹を好きだということを除いても)。というのはつまり、僕がこれを、英語で読まず日本語で読むとしたらという意味ですが。





さらに…、これが「原文で読んだから」なのか、あるいは「かつてなかったほど熟読したから」なのか、いまいち判断がつかないけど、この小説は、やっぱり、ほんとうにすばらしいと再確認した。ひとことではとても片付けられない、また片付けたくないあの感情…。それが小説一冊ぶんをかけて、ホールデンの認識をあいだにおくことで、みごとに描かれているわけですよね。こんなに孤独な小説なのに、小説じたいの僕らへの働きかけかたには他者が感じられる。アメリカにおけるサリンジャーのエージェントからの要請で、翻訳書には未収録となった訳者解説に、村上春樹は書いています。





「そしてもうひとつ大事なことがある。それはこの五十年ばかりのあいだに『キャッチャー』を読んだ多くの(おそらく数百万という数の)青年たちが『自分は孤独ではないんだ』と感じたという事実だ。それは『偉大な達成』という以外の何ものでもないだろう」





上記の村上春樹による訳者解説は、ポール・オースターの翻訳なんかをやってる柴田元幸との共著『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文春新書)で読むことができ、第一弾とあわせて非常に興味深い内容となっています。




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