『激突!』 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

■『激突!-DUEL-』
監督:スティーブン・スピルバーグ
原作・脚本:リチャード・マシスン
主演:デニス・ウィーヴァー
1972年アメリカ
激突 ! スペシャル・エディション


この映画、案外知らないひと多いんじゃないのかなとか想像する。若きスピルバーグの劇場デビュー作なんです(テレビ作品はすでに何本か手掛けていたみたい)。『地球最後の男』(『アイ・アム・レジェンド』)の作者であるリチャード・マシスンが書いた中編小説を原作としたサスペンス。

これがもう、抜群におもしろいんですよね。思想とかテーマとか、不純物を除いた、「サスペンス」というイデアを具現したみたいな映画。観てないひとは映画人生損してるとおもいます(笑)


すじは説明するのもアホらしいような単純なもの。取引先へと車を急がせるデイヴィッド・マン(デニス・ウィーヴァー)は、いつものようになにげなくハイウェイで、ちんたら前方を走るトラックを追い抜いた。高速道路では普通にありうる、よくある状況だ。しかしこのトラックは普通ではなかった。最初は嫌がらせ程度に、追い抜いたデイヴィッドの車をすぐに追い越し、再び前方に陣取ってちんたら走る、というようなことをくりかえしていた。デイヴィッドもいらいらしながら再びこれを追い抜くが、やがてそれは恐怖に変わっていく。異常としかいいようのない執拗さでトラックはデイヴィッドについてまわり、160キロにも及ぶ速度で後方からあおって追い詰める。停車して距離をあけようとすれば少し先でトラックも停車し、なんとか追い抜くと今度は死と直結した、超重量超高速のあおりがやってくる。


両者はずっと走りっぱなしというわけではなく、ガソリンスタンドやカフェに寄ったりもするのだが、トラックのドライバーは一度も顔を見せない。そしてこのことが効果的にはたらき、やがてトラックが一体の凶暴な生き物みたいに見えてくるからおもしろい。トラック前方に誇らしげにつけられているいくつものナンバープレートは、むろんこの巨大な鉄の生き物がこれまでに葬ってきた車たちのしるしだ。


なんとか逃げこんだカフェで、デイヴィッドは苦悩する。たった二、三度追い抜いただけじゃないか。日常の、よくあることじゃないか。どうしてこんなことになるのか。なんでもない普通の行為で、なぜ人殺しと出会わなくてはならないのか。これではまるっきりジャングルだと。


このハイウェイというのは、一般に呼び方があるのかどうかわからないのだけど、ハリウッド映画には結構欠かせない要素ですよね。カート・ラッセルの『ブレーキ・ダウン』は典型的だし、こういったカーチェイスものでなくても、こう道だけが伸びてあとはなにもなく、不毛の大地が広がるのみ、という環境は孤独からくる恐怖感を誘うのか、ある別次元へと続く道としてもよく採用されていますよね。そしてそのさきに住むひとびとは皆、一般の広き世界とは別の文化基準に生きているみたいなところがあって、普通の常識的感覚や思考作法が通用せず、『テキサス・チェーンソー』みたいにありえないはなしもしっかり成立させてしまう(こっちは実話だけど)。要するに現実のアメリカにある風景なのに、大地があまりに広すぎるために治外法権みたいなところがあるんですよね。そしてこのような環境は素知らぬふりして日常に潜伏する実際的な危険と恐怖を表すのにぴったりだ。冒頭部で都会にあった車外の風景からはひとも建物もだんだんに消えていき、やがては対抗車さえもほとんどいなくなり、ただの荒野が広がるのみとなる。そしてもちろんそれとともに、僕らが信仰し、また保護されることで自由と安全を享受している文化という規定も薄くなっていく。そしてその影に隠れていた危険が“自分ルール”で姿を見せはじめる。


この作品は、そういった種類の映画の原物語というか、よく研磨したダイヤモンドのようなおはなしで、90分という短い時間、ただ道を走るという単純な脚本ながら、サスペンスのあらゆる要素が完璧なかたちで詰まっている。ヒーローには程遠い平凡な主人公、デイヴィッド・マンもいい。文化的規範のもとに生きる、正常にして平凡なすべての人間のメタファーが、彼、“マン”だ。この主人公は平凡であればあるほど良いんですよね。だってこれがもしリディックだったらトラックに飛びかかってすぐに運転手を引っ張り出してボコだろうし、それだと誰も感情移入しないし、別の映画になってしまいますよね。


まあ、映画好きのかたにこんな言いかたをするのは、文学青年に太宰をすすめるようなものだとはおもうけど、もし見逃してるというかたいましたら、全力でオススメです。大作ものでなくとも、スピルバーグがいかに才能のある監督かよくわかる。とかいいつつ、僕じしんこの続編見てないんですけど。こっちも評価高いみたいですね。


ところで…トラックと列車が呼応するように長いクラクションを鳴らしあう場面が二度あるのだけど、あれはどういう意味なのかな?たぶん具体的な意味はない(ドライバー含め黒幕とか仕掛け人とかの姿が見えてしまった瞬間にこの映画は逆にリアリティを失うから)。それでは、どんな効果を与えているか?あれはやっぱり動物的な吼え声を表していますよね。すれちがう犬が意味もなく吼えあったりするのとおなじで。