『DA-PONG』餓鬼レンジャー | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。




『DA-PONG』餓鬼レンジャー


福岡発、YOSHI、POCYOMKINの2MC、GREEN PEEACE、HIGH SWITCHの2DJからなる餓鬼レンジャーの2ndアルバム。二人のDJはこのアルバムで正式なメンバーとなっています。


ヨシとポチョムキンの、MCの二人は…ほんとびっくりするくらいスタイルが対照的ですよね。ヨシは、芸人のネタ帳ばりにぎっしりと書き込まれたライム帳が示すように、かっちかちに堅く長く、的確でシャープで、かつ重厚なライミングの巧者ですが、いっぽうのポチョムキンのラップは流動的でフリースタイルっぽく、いま思いついたかのような音楽的緊密性が魅力で、ラップが映すキャラクターも、まあどちらもスティンキーではあるんですが、ヨシのほうがちゃんと宿題をやってくるタイプというか(B-BOYのばあいこれは褒め言葉にならないかな)、ダボみたいに、わりにきまじめな印象で、ポチョムキンは完全にイカれてますよね(笑)いや、もちろん印象にすぎないんですけど。しかし好対照とはこのことだと、彼らの音楽を聴くたびに思います。スタイルや感触はまったく異なりますし、本人たちも誰かと比較されるのは嫌だろうけど、どことなくDEV LARGEとNIPPSの関係を彷彿させます。


発売が2002年12月で、キングギドラ『最終兵器』がヒットしていたころに出たものなんですね。僕がヒップホップを聴き始めてちょうど一年くらいたったころかな…。それにしてもはじめてヨシを聴いたときはびっくりしました。少なくとも押韻ということに関して、僕のなかではキングギドラのふたりが最高の位置にあったので…。こんなやつがいたのか!みたいな。こういうやりかたは好きじゃないし、リリック・シートに「書かれた」ものと、MCが「口にした」ものはむろんのこと楽譜と実際の演奏と同様にまったく異なるものですので、歪んだ捉えかたをされると困るのですが、誤解を恐れずにとにかく名曲「MONKEY 4」からヨシのリリックを引いてみます。



「イキます!感度いい男女に吐く爆弾

即拡散 クセになるタフな歌

順調に進行 マスタープラン 新鮮さで勝負 放つアルバム

のる脂 絶品 わかるはずだ 墨俣の矢倉でかく胡座

赤ダルマに目を入れる活躍者 MONKEY 4 オリジナル猿楽団」



伝わったかな…。いちいち説明はしませんが。バスドラとのユニゾンがもう…鳥肌。韻を踏む際に誰もが直面するネックというか問題点として、「意味性」と「さじ加減」ということがあると思います。つまり「音楽的・国語的に不自然になっていないか=音楽・文章になっているか」ということと「ギャグになっちゃってないか」ということ。たんに母音を合わせるだけなら、かんたんとは言わないけど、そんなに技術は必要としません。ネット上にも、「ネットライマー(だっけ?)」と称したかたたちがあふれてますよね。しかしほんとうに重要なことはこれが音声言語としての技術だということ。そういう有象無象が気付きもしないような韻の問題点について、ヨシはむろん自覚的に研鑽を重ねることで、ジブラなどの優れたラッパー同様、みずからのラップをまさに芸術の域にまで高めている。

この曲ではフックをはさみながら8小節ずつ区切って交代でラップするんですが…この短い振幅と二人の対比が、とにかくかっこいい。もう、二人とも、ひたすらラップが上手い(笑)ラップの「スキル」ってなんだろうって、僕はいつも思うのですが、いっぱい踏めるとか、トラックの速い遅いに規定されないとか、いろいろあるだろうけど、やっぱりこういうことだと思います。つまり…音楽と言葉が有機的に一致しているというか。言葉を音楽に持ち込むということじたいが、実はかなりの冒険なのだということは以前にも書きましたが(書いたよね?)、ここまでソフィスティケイトされると逆に、おそらく音楽が、言葉が体系だったものになる過程で音声言語と分離してしまう以前の、原初的な「ビートと咆哮」というはなしにまで、むろん現代的なかたちで戻ってしまう。プリミティブにして、都会的に、技巧的に洗練された音楽…それがヒップホップなんですね。


それでこの作品は…アルバムとしての出来も抜群。容量いっぱいまで収録されているのだけど、ひとつひとつが短いっていうのがまずいいですね。おしまいまでぜんぜん飽きがこないし、疲れない。あれ?聴き終わっちゃった、みたいな。

「MONKEY 4」のほかに僕のお気に入りは、UZIと三善善三をフィーチャーした「韻バカ一代記」(笑)、途中からの倍速がかっこいい「バンドワゴン」、ポチョムキンラップがうまいぞ!で始まる、彼の変則リリシストぶりが全開な「男芸者」、アニメ版『グラップラー刃牙』の主題曲「ラップ・グラップラー餓鬼」…。いやー今回実は久しぶりに聴き返してみたのだけど…、どれもこれも聴かせるな~。そしてAVネタが多いな~(笑)