62年12月28日、南仏オランジェの家庭に音楽家の三男として生まれたミシェル・ペトルチアーニは、先天性の骨疾患である大理石病のため、医師からは20歳までの命だろうと、宣告されていたという。ペトルチアーニが、そのためにまだシニカルでアイロニカルな視線をもっていた80年代に、そのことを悔しそうに語っていた。「内臓の位置が健常者とは大きく異なるので、何があっても不思議じゃないんだ」と。
(『ライヴ・アット・ブルーノート東京』中川ヨウによるライナーノーツより)
くりかえし言われることで、理解ある人からすれば飽き飽きというところだろうけど、ペトルチアーニがすばらしいピアニストなのは大理石病だったからではない。だけど正直なはなし、彼の音を聴くか身体的事情を知るか、どちらが先にしても、聴く耳がある人なら間違いなくびっくりすることだろう。彼はこの病気のために、非常に小さな体をしている。ペダルに足は届かないはずだし、手だって小さい。しかしこのピアノの音はいったい…。強力なタッチに支えられた非常にはっきりとした音の粒や、美しいその配列…。
僕が最初に彼の演奏を聴いたのは、例のWOWOW Jazz Fileでした。チューリッヒだかモントリオールだかでのライブ演奏で、アンソニー・ジャクソン(B)、スティーブ・ガッド(Dr)と組んだトリオでした。『セプテンバー・セカンド』にやられました(日本人の大好きなマイナー調)。彼の演奏形態がおもに単音の連続から成っているのは、たぶん体からくる必然なんだろうけど、そんなことはどうでもいい。彼は完全に自分の音楽を表現しきっているもの。個人のタッチって、音の強弱だけでなく、音色まで変えてしまうんだ、って思いました。またここでアンソニー・ジャクソンっていうのがよかった。彼は六弦ベースを弾くんだったかな?この人の音色もなんというかすごいフォーマルで、ペトルチアーニの言葉を借りれば「ストラヴィンスキーをエレクトリック・ベースで弾けるテクニックと歌心をもっている」。ペトルチアーニとの相性もよくて、それで僕はこれと同じトリオの『ライヴ・アット・ブルーノート東京』を購入したのです。『セプテンバー・セ
カンド』も入ってたしね。これがまた…。全曲すばらしい。この人に関しては、誰かと共演していたとか、小説で名前を知ったとかではなく、まったく偶然の出会いなのです。こういうのがあるから、無作為の鑑賞って意味があるんですよね。ペトルチアーニは99年1月6日に亡くなってしまいましたが、それでもたくさんの作品を残しているので、これからも聴いていきたいと思います。