「はぁーーーー めーんーどーくーさーいー」

「もう・・・つばめ、ちゃんとやんなきゃ終わらないよー?」

 春休みを目前に控えた3月。
毎年年度末に大掃除を必ずすることになっていて、今はその真っ最中だった。

 分担は風丘の独断と偏見で決められ、
5人組は惣一・夜須斗・仁絵が玄関・下駄箱、
つばめ・洲矢が美術室に割り当てられた。

・・・というわけで、
洲矢が箒で床を掃き、つばめが濡れ雑巾で机を拭いていたのだが、
掃除開始わずか15分でつばめが飽きてしまっている。
時間割の掃除時間は2時間。まだまだ先は長い。

この学校では、各掃除場所それぞれに「掃除の手順チェックシート」というものがあり、
その手順通りに掃除を進めていく。
ただ大掃除は、普段やらないような所も掃除しなければならず、
チェックシートも大掃除バージョンになっていて手順も多い。

2人がやっている床の掃き掃除と机拭きは、2つめと3つめの項目。
ちなみに1つめはハタキで埃を落とす、なのだが、それは洲矢が済ませていて、
その後洲矢が3つめの床の掃き掃除に取りかかっている。
つまりつばめはまだ自分の分担1つめの項目すら終えられていないのだった。
まだこの後に床の水拭き、窓ふきや床のワックスがけ等が残っている。

「終わんなかったら居残りになっちゃうよ?」

「それはそうだけどさー」

つばめにお説教をしながらも、洲矢は手を止めないで床を掃いている。

そう、時間内に全ての項目が終えられず、監督官(主に担任)からOKを貰えなかったら、
放課後に居残りで続きをしなければならない。
それは、そうなのだが・・・

「洲矢真面目ー つまんないー」

風丘は割り振りで、惣一とつばめを一緒にするとろくなことがない、と2人を離した。
結果、想定通り、惣一とつばめがふざけて掃除にならない、ということはなかったが、代わりにつーまーんーなーいー、と、
駄々をこねるつばめと意に介さない洲矢の図が出来上がっていた。

「むー・・・あっ・・・そーだっ♪」

相手にもしてくれなくなった洲矢の背中を見ながら、
むーっとむくれるつばめだったが、
ある案が頭に浮かんで、ニヤッと笑う。
その不敵な笑みに、背中を向けていた洲矢は気付かない。

「もー つばめー ちょっとはやって・・・」

再度注意しようと洲矢が振り向いたときだった。

「隙ありっ」

「えっ・・・ひゃっ! あははっ やめてっ 
あはっ・・・つばめ くすぐったいっ」

つばめが洲矢の脇腹に両手を差し入れ、こしょこしょっとくすぐった。
洲矢はくすぐったがりだったのか、思いの外反応が良い。

「へーっ 洲矢こちょこちょ弱いんだぁっ♪」

「んーっ つばめっ・・・やめっ・・・ふふっ」

カランッ

その時、洲矢がくすぐったさに耐えきれずに持っていた箒を手から落とした。
それをつばめはすかさず奪い取る。

「もーらいっ!」

「あっ・・・ちょっとつばめ~ 返して~
(´□`。)

「だめだめっ 欲しかったら取り返してみなっ♪」

逃げ回るつばめに、追いかける洲矢・・・しばらくその攻防が続いた時だった。

「ほらほら♪ そんなんじゃいつまで経っても・・・」

「!! あ、つばめ・・・」

追ってくる洲矢を見ながら後ろ向きに進んでいたつばめ。
洲矢が声を掛けるが、もう遅かった。

ガツンッ

「・・・いった!」

ゴンッ バキッ

「え?(汗)」

「あっ・・・」

つばめの肘があたり、床に落下したのは美術室にはおなじみ石膏像。
落ちたそれを見ると、床と接触したであろう頭の部分に盛大にヒビが入り、
特徴的なくるくるとしたパーマの髪型の何カ所かは欠けてしまっている。

あまりにも一瞬の出来事に、2人はしばし呆然。
時が止まったかのような静寂を破ったのは、つばめの叫び声だった。

「っ・・・わぁぁぁぁっ どーしよっ どーしよおーーーっ
(((p(≧□≦)q)))

「ちょっ、つばめ、落ち着いて…」

さっきまで洲矢から逃げ回っていたつばめが、
今度は洲矢にしがみつくようにすがっている。
洲矢は何とかつばめを引き離して、落下した石膏像を確認する。
が…

「うわぁ… 見事にひび入ってる… 
頭のくるくるも…これ、たぶん欠片だよね…(汗)」

床に落ちている白い石膏の欠片を拾い、洲矢はため息をつく。

「ど、どうしよ…
(iДi)

おろおろするつばめに、洲矢は困ったように答える。

「どうしよ、って…先生に正直に言うしかないよ… 
備品壊しちゃったわけだし…
しかも石膏像って高そうだし…いくらするのかな…」

いつものおっとり口調でとんでもないこと、更によけいなことまで
言ってくれた洲矢に、つばめは噛み付く。

「そんなことどーでもいいよっ 正直に言う!? 
そんな自殺行為できるわけないじゃんっ
ヾ(。`Д´。)ノ

「隠せるようなものじゃないよ。

つばめー、怖いのは分かるけど正直に言おうよー」

逆ギレしてきたつばめにも、洲矢は変わらない調子で窘める。
しかし、つばめも事が事だけに譲らない。

「やだっ 絶対やだぁぁっ
o(T^T)o

「えー…困ったなぁ…
(><;)

ここで押し切れないのが洲矢である。
掃除も進まず、この場も収まらず、困り果てた洲矢とつばめ。
しばしの沈黙の後、つばめが、突然叫んだ。

「いいこと思いついたっっ」

「ひゃっ!? い、いいこと…?」

突然の大声に飛び上がった洲矢が首を傾げて尋ねると、
つばめはまるで名案かのようにとんでもないことを言い出した。

「洲矢が石膏像拭いてたら手滑って落としちゃったことにしてよっ」

「え…だ、だめだよ、そんなの…」

つばめの提案は、つまりは嘘をつく、ということだ。
当然拒否する洲矢に、つばめは分からず屋!と噛み付いた。

「なんでよっ 掃除中に手滑って落としちゃったなら悪くないし、
僕と違って洲矢なら、普段から真面目だからこの理由で信じてもらえるじゃん!
僕だと『どーせ遊んでたんでしょ、嘘ばっかりついて』って言われちゃうもんっ」

「だって実際遊んでたじゃない…」

洲矢の最もな反論も、こうなったつばめには意味をなさない。  

これが最善だと言わんばかりに捲し立ててくる。

「もーっ、洲矢うるさいっ 
二人して遊んでたのがバレてお仕置きされてもいいわけっ!?」

「嘘ついてバレた時の方が大変だと思うけど…」

細かいことを言えば遊んでいたのはつばめだけなのだが、
洲矢にとって問題はそこではなく、「嘘をつく」ことだった。
しかし、いつも周りに流されがちな洲矢に頑固に拒否されて、
つばめはよけいにムキになった。

「なんでバレること前提なんだよっ」

「無理だよ、先生たち誤摩化すのなんて…」

「やってみなきゃわかんないじゃん!」

「でも…」

引き下がらないつばめに、洲矢が狼狽える。
つばめは更に一押し。

「ねー、おーねーがーい、洲矢っ 助けると思ってっっ 
ぜっっったい洲矢ならお仕置きされないしっ」

「えー…ほんとにするの?」

「一生のお願いっっっ」

「…うぅ…もう…」

尚も懇願を続けるつばめに、洲矢がついに根負けしそうになった時だった。
会話に夢中の二人は、いつの間にか近寄ってきていた人影に気付かなかった。

「しょうがな…「全く。いつになったら気付いていただけるんでしょうか。」

「あっ…」
「っ!? うわぁぁぁぁっ でたぁぁぁぁっ(≧□≦*)ノ」

ドア付近に立っていた人影から話しかけられて、
飛び上がったつばめがまた洲矢にしがみつく。

「失礼ですね。人を猛獣か幽霊かのように…」

その反応が気に食わなかったのか、その人物は眉根を寄せる。
が、そんなことは気にもせず、つばめはその人物を指差して口をパクパクさせている。


「だって…だって、なんでっ…なんでもりりんがっ…」

そんなつばめの様子を見て、洲矢が耳打ちする。

「分担発表の時に風丘先生言ってたよ。
美術室と図書室は普通教室から離れてるから、霧山先生が監督だって…」

「…相変わらず人の話を聞いていないようですね。
というか、貴方にまでそう呼ばれたくはないんですがねぇ…」

つばめが正に幽霊か猛獣かを見たようなリアクションで指差した先にいたのは、霧山だった。
入り口のドアに優雅にもたれかかり、腕を組んで二人を見つめている。

「まぁ、いいでしょう。それより、お尋ねしたいんですが…」

カツカツと足音を立てながら、霧山は二人にゆっくりと歩み寄った。
そして、二人の目の前で立ち止まると、背後の床を指差して言う。

「あなた方の足下に無惨に転がっているそのヘルメス胸像は何でしょう?」

 「へ、ヘル…?」

「この石膏像のことだよ、つばめ…」

「えっ!? あ、えと、これは…えと…」

霧山に見つめられて、
つばめはしがみついていた洲矢の腕により強くギュッと抱きつく。
それが洲矢に促す合図だと、自分でも悟った洲矢は、怖々と口を開いた。

「あ、あの、僕が石膏像、拭き掃除してたら、うっかり落としちゃって、
それでひびが入っちゃいました…」

「…」

「霧山先生…あの…ごめんなさい…」

「…」

ペコリと真摯に頭を下げる洲矢。しばしの無言。
そして次に洲矢の頭に降ってきたのは、お叱りの言葉でも許しの言葉でもなく…

「…はぁ。」

ため息だった。

「残念です。このような結果は不本意ですが…二人とも、ですね。」

「せん…せい?」

洲矢が顔を上げて、訝しげに霧山の顔を伺う。
霧山はその洲矢の呼びかけには答えずに、ふぅ、と息をつく。

「さて、どうしたものでしょうねぇ…おや、こんなところにいいものが。」

霧山はまた歩き出すと、
使い終わって机の上に置かれていたハタキを優雅な所作で手に取った。

「は、ハタキなんかで何すんの?」

つばめがそう言うと、霧山は振り返ってニッコリ微笑んだ。

「決まってるじゃないですか。
掃除をサボって、備品を壊して、挙げ句先生を誤摩化そうとする
嘘つきの悪い子たちのお仕置きです(ニッコリ)」

その時、二人の表情(特につばめ)は一瞬で凍り付いたのだった。

ちょっと間が空きました 白瀬です

さて、絶賛元メインパソコンが壊れたままです…
現在データ復旧業者三件目の元にいます。
ここでダメだったら(見積もりが予算内でなかったら)
データは諦めてパソコン修理にだけ出します。
ってなわけで、
パソコン問題解決は九月いっぱいかかりそうです…。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。

で、ツイッターでは触れたんですが、
現在メガネ教師の続きはノートに手書きで書いてます(笑)
これぞ文学部って感じですね←
というのも、前もちらっと触れましたが
私がスパ小説関係を書くのに今まで使っていた
「一太郎」というワープロソフトがWindows用のソフトのため、
現在使用しているサブパソコンのMacでは使えないためです。
ビューアをインストールしたので既に書いていた部分を見ることは
なんとかできるのですが、
編集はできません。コピペできるんだから
とりあえずWordで書きゃいいんじゃん、と思われるかもですが、
なんかダメなんですよね 見た目の印象とか、諸々…笑
そんなわけで、絶賛手書きで続き執筆中です 笑

そしてそれ以外何も活動しないのもなぁ…という思いもありまして、
まず、残っている質問回答は執筆中です。
途中まで書いてあったのを、これも一太郎で保存してあるのですが、
これは大して長くないのでアメブロに直接打ちしようと思います 笑

それから困ったときの(笑)ツイキャス。
これ、生存報告にいいなぁなんて思ってる次第です(^▽^;)
今日もたまたま入っていた予定がなくなった(←いい加減なサークルなので
ので、突然ではありますが本日夜開催します

前回、プログラム組んでがっちがっちの進行台本通りのをやったら、
「これもいいけど、まったり雑談もいいなぁ」
というお声を複数いただきまして 笑、
とはいえ「メガネ教師の解説コーナー面白いのでまた是非」とも
コメントいただいたので、
代わりばんこにやりたいと思います 笑
なので、今回は
ひたすら雑談(笑) です
さて、果たして私は話し続けられるのでしょうか…笑

というわけで、以下詳細です

「ツイキャス 第二回」
放送日時:9月12日 土曜日 23:00~24:00(延長あるかも
URL:http://twitcasting.tv/tsubameshirase
閲覧pass:spa

お暇な方、是非是非のぞいてやってください♪
質問、ご要望等も、ツイッターやこちらのブログコメントで募集中です
あ、メールで送れたらいいなって意見もいただいたので、
メアドも一応…あまりに迷惑メールきたら消しますが
tsubameshirase☆yahoo.co.jp (←☆を@に変えてください。)

よろしくお願いします
昨日のツイキャス、
プログラムを組んでの第一回でしたが、
ご視聴くださった皆様、ありがとうございました

内容的には1時間でやるには
少し詰め込みすぎてしまった感もありましたが
白瀬的には話すネタがあって沈黙にはならずよかったかなと思います(笑)

開始時間を今回は早めてみましたがいかがでしたでしょうか?
リアルタイムの視聴者数的には前回の時間帯の方が多かったですが、
前回は本当に初めて、だったので単純に比較できませんしね(;^_^A

何かご要望がございましたら、
ブログやツイッターにコメントいただければと思います。

あと、あの後十二時から主に声優さんについて語る自己満キャスもしました(笑)
こちらも視聴くださった皆様、ありがとうございました(-^□^-)
今回は惣一の仮想キャスティングで取り上げた
梶裕貴さんについて主に語ってました
これからも深い時間にただ勝手に声優さんメインで語るのもやろうかなと
思うくらいには楽しかったです(笑)

履歴ですが、リアルタイム視聴と同じパス付きで公開してます。
声優さん語りの方は削除してますが、通常(?)回の方は聞けますので、
ご興味持っていただけた方はよろしければどうぞ

ツイキャスは今のところ隔週くらいかな、と考えてます。
またやるときはどうぞお願いします

《葉月編》





「もうやだぁっ こんなの覚えらんないっっ」





「こーら、海保。英語は単語の意味覚えなきゃ先へ進めないよ?」





海保は基本的に暗記が苦手だ。

じゃあ何で文系を選んだんだ、と言いたいところだが・・・

英語や古典は単語の意味を覚えられず、日本史は話にならない。

覚えることが少ない数学や、


その場で文章を読めばいいことが多い現代文は何とかなっていたが・・・





そしてその暗記系科目を一手に引き受けている葉月は頭を悩ませていた。

元々ほぼ0の状態から始めていたので、


基本的事項を教えるだけで比較的伸びてきていた点数も、

ある程度まで積み重なるとそう簡単に伸びなくなる。


英語や古典はいくら基本的文法事項が分かるようになっても、

単語の意味が分からなければ設問が読めないし、英語は英作もできない。

海保の場合、英語にしろ古典にしろ文法はなぜか得意らしく、正しくできているのだが、

単語ができないのでなかなか点数にその力が現れてこない。

日本史に至っては中学生でも聞いたことがあるような事項しかまだ覚えられていない・・・。





海保の暗記嫌いは、集中力のなさが大きな一因だ。


おまけに元来飽きっぽいので、暗記のような単純な反復作業を嫌がる。





仕方ない・・・

葉月は、強硬手段に出ることにした。





「海保。」





鉛筆を投げ出してしまった海保に、声をかける。





「何? 休憩!?」





「違うよ。(苦笑)」





「え~~~」





まだ始めてから30分も経っていないのに、


すでに飽きてしまっている海保に苦笑いしつつ、

葉月は単語帳を指し示してこう言った。





「今から10分。どんな方法でもいいから、単語帳の№30まで30個、覚えてごらん。」





「えぇ!? そんなこと言われたって・・・」





「いいから。ちゃんと覚えないと・・・後が大変だよ?(ニッコリ)」





「え゛っ?」





葉月のこれ以上ないニッコリ笑顔に、少し恐怖を感じた海保。

しかし、葉月はそれ以上何も言わず、またベッドに座って参考書を読み始めてしまった。

取り残された海保は、仕方なく言われた単語を見てみるが、


数個知っているのはあっても、半分以上知らない単語。

「集中力」なんて言葉と縁遠い海保は、すぐに飽きて上半身を机にべったりとつけて脱力。

だが、いつもならここで『ダメじゃない』とか何とかやんわり注意してくる葉月が、


今日は何にも言わない。

チラッと一度そちらを見たが、そのまま参考書に目を戻してしまう。





「はーくん・・・?」





「ん? あと5分ね。」





「あ・・・うん・・・」





何だか不信感を持ちつつ、海保はそのままぽけーっと単語帳を覚える気もなく眺め、


そのまま時間になった。





「さて・・・海保、ちょっとこっち来て。」





葉月はパタンと参考書を閉じると、海保を呼んだ。





「な、なに・・・?」





海保が恐る恐る近寄ると、葉月はその腕を掴んで海保を膝に乗せた。





「う゛ぇっ!? ちょ、ちょっとはーくんっ・・・俺、今日何もしてなっ・・・」





「うん、ちゃんと『覚えてれば』何もしないから大丈夫。」





「えっ?(汗)」





だんだん葉月がやろうとしていることが見えてきて、途端に焦り出す海保。

が、葉月はお構いなく開始してしまった。





「はい、じゃあ1問目。『difficult』の意味。」





「え・・・えと・・・『難しい』。」





「はい、正解。次ね。『発展途上国』を英語で。」





「え゛っ!? えと・・・んと・・・・・・・」





「10,9,8、・・・」





「やぁっ 待っ、待って・・・んと・・・えと・・・」





「2,1,0。 はい、残念。正解は『developing country』。」





「あっ、そうか・・・」





「はい、じゃあ・・・」





と、葉月がおもむろに海保のズボンに手をかける。





「ちょ、ちょっとはーくん・・・っ」





下着は残してくれたが、容赦なくズボンは下ろしてしまう。

そして、





「5回ね。いくよ。」





有無を言わさず、回数宣告。そして、





バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ





「い~~~っ!!」





容赦ない平手が振り下ろされた。


下着の上からとはいえ、痛いものは痛い。

海保が痛みにうめいていると、


葉月は何事もなかったかのように次の問題を出していた。





「次。『decide』の意味。」





「ちょ、ちょっと待っ・・・」





「10,9,8・・・」





「っっ・・・ん・・・『決意する』!」





「正解。次ね。『人権』を英語で。」





「えーっ、そんなのわかんなっ・・・」





「10,9,8・・・・・・・2,1,0。正解は『human right』。」





「あ、なんかそんなのあった気が・・・」





バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ





「ったぁぁぃっ!!」





「次・・・」

















そんなこんなで30個確認が終わった頃には・・・





「ふぇっ・・・いたぁぃっ・・・はーくんの鬼ぃっ・・・」





海保はベッドの上にうつぶせになり、


真っ赤なお尻に濡れタオルをのせて泣くはめになっていた。





「はいはい。だから言ったでしょ? 覚えないと後が大変だよって。」





「だからってこんなっ・・・」





「でも、いつもより覚える効率が良かったでしょう? 


特に、間違えてお尻ペンペンされた単語はしばらく忘れないね。」





「そうかもしれないけどっ・・・」





あの後、一通り確認し終わっても、それで終わりではなく、


間違えた単語だけで2週目に突入し、

全問正解するまで続けられ、3週目でやっと終わったのだ。

回数にして、70回叩かれた。下着の上からとはいえ、これは辛い。


まぁ、それで海保は必死になり、


結果的に普段と比べるとかなりのハイスピードで確認ができたわけだが。





「これから英単語と古文単語、それから日本史の用語確認はこの方法でやるからね。」





「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 


やだよ、毎日痛い思いしなきゃいけないじゃない!!!」





盛大に文句を言う海保。が・・・





「覚えればいい話でしょう? この英単語帳も、古文単語帳も、日本史の用語集も

もう1回さらってあるやつなんだから。」





「うっ・・・」





そう言われてしまえば言い返しようがない。

















結局、この『お仕置き付きテスト』は葉月の日の恒例テストになり、

そのたびに海保は半泣きorぼろ泣きになりながら


範囲を完璧に覚えさせられるはめになった。





・・・そして、そのおかげで海保の文系科目の成績は飛躍的に伸びたのだった。




「か~い~ほぉ~?」





「ア、アハハ・・・」





海保の目の前には目が笑ってない笑顔の葉月。


手には・・・冬休み前の2学期期末テストの成績表。





「この点数は何かなぁ~?」





「あ・・・うぅ・・・」





海保は黙り込んでしまう。


申し開きのしようのない点数ばかりが並んでいるのだ。何も言えない。





「もう・・・最近模試の点数も上がってきて、C判定にまでなってきたのに・・・

学校の定期テストサボられちゃねぇ・・・」





別に海保は推薦をとるわけではないのでそこまで成績は関係ないのだが、

あまりに悪くて赤点を取られたり呼び出しをくらったら時間をとられて面倒なのだ。





「うぅ・・・ お願い、もりりんには・・・」





お願い攻撃を仕掛ける海保だが、葉月はぴしゃりと撥ね付けた。





「言うよ。隠しててもどうせばれるでしょう?」





「むぅ~・・・はーくん、あの日からもりりんみたいに冷たくなったぁっ」





「むくれたってダメ。ほら、行くよ。」





葉月が海保の腕を取って、歩き出す。

行く先は・・・もちろん海保の家。

時間に律儀な森都は、きっともう海保の家に向かってる。





「あの日から」。


「あの日」とは、

葉月が森都に言われ海保をお仕置きした


(その後葉月も森都にされたのは海保には内緒)日のこと。

その日以来、葉月も海保に対して、容赦がなくなった。

それでも森都に言わせれば優しい方らしいのだが、


少なくとも海保の甘えたお願い攻撃は効かなくなった。

















「・・・で? 何ですか、これ・・・。」





「うぅ・・・」





冷たい森都の目に射貫かれ、海保は体をちぢこませる。





「全く・・・ようやく少しはましな成績取るようになったと思ってたらこれですからね・・・」





「ごめん・・・」





「ふぅ・・・」





森都はため息をつくと、言った。





「とにかく、今週はこのテストで間違えた問題をやります。


それから、冬休みは大晦日と元日以外は毎日補習。

僕と葉月が交代で見ます。」





「ええええええええっ!?!?」





「こんな成績取ってくるから悪いんです。」





「うぅ・・・テストのお仕置きも・・・するの・・・?」





昔流行ったCMの子犬のような目で森都を見つめる海保。

そんな海保に森都はまたため息をつきつつ、





「・・・冬休み中の態度によりますね。


それまで保留にしてあげます。あくまで『保留』ですからね。」





と言った。

すると海保は





「ほんとぉ!? 良かったぁ!!」





と笑顔。





「海保、調子に乗ってると危ないよ?」





葉月に苦笑して注意されながら。





しかし、元来勉強嫌いの海保が、


休み中ずっと補習なんてマジメに耐え抜けるはずがなかった・・・。

















《森都編》





「ほら、海保。始めますよ。」





「うぅ・・・そんなきっかり5分前行動しなくてもぉ・・・」





冬休みに入って3日の12月26日。


世間は昨日までのクリスマスムードが嘘のように、

今度は年末に向けてまっしぐらなこの時期。


日替わり家庭教師、今日は森都の日だった。


勉強開始時刻は朝10時から。


センター試験を控えた受験生にしてみれば普通なのだが、

勉強嫌いの海保にしてみれば午前中から机に向かうこと自体が希有なことだ。

そして、森都はいつも必ず5分前の9時55分に現れる。





「ほら、やることはたくさんあるんですから。


とっととやらないと・・・」





「やーっ!! やるやるっやりますうっ」





手に息を吹きかける仕草をする森都を見て、海保は慌てて部屋にとんでいく。


・・・が、森都が苦笑しながら海保の後を追って部屋に入ると、


椅子に座らず、呆然と立ちつくしている海保の後ろ姿が見えた。





「海保? どうかしました?」





「な、ななな、何でもないよっ あ、えとっ・・・そのっ・・・」





森都が声をかけると、海保は慌てて取り繕う。


・・・が、これで、もう森都にはお見通しだった。





「ハァ・・・海保。膝にいらっしゃい。」





「な、なんで!! 何にもないってばぁ・・・」





腕をつかまれ、半泣きになって声を上げる海保。

しかし、森都には通用しない。





「なら、宿題見せてみなさい。」





すると、わかりやすく海保が顔をゆがめた。

必死で反論する。





「うっ・・・・・・・・・・わ、忘れちゃったんだよっ ついっ・・・ 


わざとじゃなくてぇっ・・・」





が、こんな言い訳で許してもらえるはずもなく。





「やってないなら一緒です。次から絶対忘れないようにしてあげますよ。」





「やーっ、いいですいいです、もう忘れないからぁっ」





抵抗むなしく、膝に乗せられる海保。

ズボンも下着もおろされて、腰を押さえられれば、もう逃げ場はない。





「忘れた分と、隠そうとした分で20発。


かばったりしたら追加しますからね。」





バシィィィンッ





「いったぁぁぁぃっ」





発目から大きな悲鳴をあげる海保。

しかし、森都はもう慣れたもので怯むことなくお仕置きを続ける。





バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ





「ああんっ・・・いたいぃぃっ・・・もりりん~~っ・・・」





「泣いてもダメです。20発終わるまで放しませんよ。」





バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ





「ひぁんっ・・・やぁぁっ・・・もう忘れないからぁっ・・・」





「本当にね。ならしっかり反省してください。」





バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ 





「ぇぇふぇっ・・・もうしたからぁっ もういいよぉっ・・・」





「あと7発です。」





しれっと答える森都に、海保は高3にはとても思えないぐらいに泣きじゃくる。





バシィィンッ バシィィンッ





「いたいぃっ・・・ やぁぁ・・・」





バシィィンッ バシィィンッ





「やぁっ・・・ぅぇぇっ・・・」





「最後。3発です。」





そして、森都がそう宣告した後。

とびきり痛い3発が、海保のすでに赤くなったお尻に降ってきた。





バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィィィィンッ





「いたぁぁぁ~~~~ぃぃっ!!!(涙)(涙)(涙)」





海保の体が3回跳ねたその後、海保は火がついたように泣き出した。

森都は苦笑しながら、大泣きの海保に聞く。





「それで? 反省したらなんて言うんですか?」





「ふぇぇっ・・・えぇっ・・・」





しかし、甘えているのか何なのか、


海保は泣いてベッドにしがみついているだけで、何も言わない。

森都はため息をつくと、





「・・・言えないなら、言えるようになるまでここを抓ってましょうか?」





そう言って、赤く腫れた海保のお尻を軽くつつく。

すると、海保は弾かれたように慌てて大声で叫んだ。





「ごめんなさぃぃっ」





「ふぅ・・・はい、いいですよ。タオル持ってきてあげますから、膝からどいてください。」





「・・・・・・」





「ちょっと。海保?」





いくら声をかけてもひしっと膝から動こうとしない海保に、森都が訝しげに声をかける。





「どいてください。動けないじゃないですか。」





「・・・む~・・・もりりん、俺がこんなに泣いたのに放ってくのぉ・・・」





「あのですねぇ・・・


その泣いた貴方の手当をするために私は動きたいんですが。」





およそ高校生が言うと思えないようなことを言われ、


森都は頭に手をやってため息をつきながら言う。

が、海保も負けない。





「慰めてよぉ・・・」





「いったいいくつですか、貴方は・・・」





「んっ・・・」





森都は呆れながらも、ポンポンッと優しく海保の頭を叩いて、撫でる。


「ほら、すぐ戻ってきますからとりあえずどいてください。

それとも・・・『もっと叩いてください』っていう合図ですか?」





「やっ・・・」





それを聞いたとたん、海保が森都の膝から飛び降りる。

そんな海保を見てクスッと笑う森都に、海保が頬をふくらませる。





「もりりんのドS! 意地悪っ・・・」





「はいはい、好きなだけ言ってください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クスッ ちゃんと覚えておきますから。」





「え」





最後に少し声を低くして言ってやると、


ピキッという音が聞こえるかというぐらい見事に海保が固まる。

その様子を横目で見つつ部屋を出た森都は





(まったく、手のかかる大きい赤ちゃんですね・・・)





と台所に向かいつつ苦笑しながらそう思ったのだった。