第3話
「資材」を磨き、価値を問う。
火曜日の午前10時。
週の始まりのドタバタが少しだけ落ち着き、
代わりに
「今日もこの場所で、代わり映えのしない役割をこなさなければならない」
という重圧が、じわじわと肩にのしかかってくる時間帯です。
あなたは今、パソコンの画面を見つめながら、
ふとこんな不安に襲われてはいませんか?
「私は、今の会社という『家』を出たら、ただの無力な人間なのではないか」
「15年間、必死に働いてきたけれど、
それはこの会社という特殊な間取りの中でしか通用しない、
いびつな形の家具のようなものではないか」
転職サイトの登録画面を開き、
「職務経歴書」の真っ白な入力欄を前にして、
多くの30代・40代が筆を止めてしまいます。
20代の若手のように
「これから何でも学びます!」という無垢な木材ではない。
かといって、
歴史に残るような巨大ビルを建てた伝説の大工(超一流エリート)でもない。
「特別な資格があるわけじゃない。英語も話せない。私なんて、ただの中古物件だ……」
もしあなたが今、そう感じて震えているなら、
今日、この火曜日の対話を通じて、
その「自分への過小評価」という分厚い壁を叩き壊しましょう。
断言します。
30代・40代の転職において、
最強の武器は「綺麗な実績」ではなく、
あなたがこれまで泥にまみれ、
雨風にさらされながら積み上げてきた「資材の強度」そのものなのです。
1. 会社という「ペンキ」を剥ぎ取る作業
私たちが自分の価値を語るとき、どうしても
「〇〇株式会社の課長です」
「〇〇業界の事務職です」
という「ラベル(看板)」に頼ってしまいます。
しかし、
プロの改築業者が古い家から再利用できる資材を探すとき、
看板やペンキの色など一切見ません。
彼らが目を凝らして見るのは、その木材が
「どれだけの荷重に耐えられるか」
「どれだけの粘り強さを持っているか」
という、剥き出しの「機能」です。
あなたのこれまでのキャリアも、
今の会社名や役職という「ペンキ」を一度すべて剥ぎ取って、
純粋な「資材」として見つめ直してみてください。
たとえば、あなたが今の職場で毎日こなしている「社内調整」。
これを
「ただの面倒な板挟み」と呼ぶのを今日で辞めにしましょう。
ペンキを剥ぎ取って市場の言葉で磨き上げれば、
それは
「利害関係が対立する複数のステークホルダー(関係者)を説得し、
合意形成を図りながらプロジェクトを前進させる高度な折衝能力」
という、最高級のヴィンテージ資材になります。
たとえば、
あなたが無意識に行っている「部下のミスへのフォロー」。
これを「余計な残業」と卑下しないでください。
それは、
「予期せぬトラブルが発生した際、
現場の士気を下げずにリソースを再配置し、
損害を最小限に食い止めるクライシス・マネジメント能力」です。
20代の新築の資材は、
見た目は綺麗で扱いやすいかもしれません。
しかし、30代・40代のあなたが持っているのは、
幾多のトラブルや理不尽という荒波にさらされ、
極限まで乾燥し、引き締まった「無垢の建材」です。
その渋み、その強度、
その「折れない心」は、一朝一夕には手に入らない、
今のマーケットが最も喉から手が出るほど欲しがっている価値なのです。
2. 「当たり前」という名の、隠れた名木を見つける
あなたが「自分には何もない」と思ってしまう最大の原因は、
あなたが自分の行動を「当たり前」だと思い込み、
価値を感じていないことにあります。
改築において、実は最も価値があるのは、
派手な装飾(資格や表彰)ではありません。
家を一生支え続ける「基礎」や、
壁の裏に隠された「丁寧な仕事」です。
今日、職場であなたが無意識に行った
「ちょっとしたこと」を思い出してください。
-
会議の前に、反対しそうなメンバーにそっと声をかけ、あらかじめ話を通しておいた。
-
後輩が作った資料のミスに気づき、角が立たないように修正を促した。
-
混沌としたプロジェクトのなかで、誰よりも先に「今の課題はこれだ」と言語化した。
これらは、
履歴書のスキル欄には「〇〇検定」のような形では現れません。
しかし、
新しい組織という家を建て直そうとしている企業にとって、
こうした「熟練の人間力」や「現場の知恵」こそが、
事業の成否を分ける最重要資材なのです。
自分の価値を、
他人のモノサシ(今の会社の評価制度)に預けるのを、
もう辞めましょう。
あなたの今の会社は、たまたま
「あなたの木材」を必要としていないだけかもしれません。
あるいは、あなたの資材が良すぎて、
持て余しているだけかもしれません。
「ここではない場所」へ持っていけば、
あなたのその不器用な誠実さや、泥臭い粘り強さは、
誰かの人生を支える「希望の柱」になるのです。
3. 「資材の価値」を市場に問う覚悟
転職活動を始めると、
必ず「不採用通知」という壁にぶつかります。
そのとき、多くの30代・40代が
「やっぱり自分という資材は、もう古いんだ」
「どこにも必要とされていないんだ」と、
自分で自分の資材を粉砕してしまいます。
でも、考えてみてください。
最高級のヒノキの柱を、
100円ショップの店舗を作る現場に持っていったらどうなるでしょうか。
「高すぎる」
「重すぎる」
「扱いにくい」
と断られるのが落ちです。
不採用とは、あなたの価値の否定ではありません。
単に、
「その工事現場(企業)の設計図と、
あなたの資材のサイズが合わなかった」というだけの、
物理的なミスマッチに過ぎないのです。
資材が悪いのではなく、持っていく場所を間違えただけ。
だからこそ、あなたは
「自分の資材を高く買うのは誰か」を、
冷静に、冷徹に見極める必要があります。
同じような古い家を守り続けている会社よりも、
「これから既存の古い建物を壊し、
新しい時代に耐えうる家を建てよう」と
足掻いている、情熱あるベンチャーや、
再生を志す老舗企業のほうが、
あなたの「ヴィンテージ資材」は光り輝きます。
あなたは「選ばれる側」の弱気な住民ではありません。
自分の持っている最強の資材を、
どこの市場で解禁するかを決める、
誇り高き「資材のオーナー」なのです。
4. 今日、一本の釘を「磨く」ことから
火曜日の夜。
疲れ果てて帰宅し、カバンを置いたあとのわずかな時間。
今日は、自分のキャリアという資材を一箇所だけでいいから、
丁寧に、丁寧に磨き直してみてください。
スマホのメモ帳でも、お気に入りのノートでも構いません。
これまでの10年、20年の中で、
「あの時だけは、自分が自分であるという誇りを持って働けた」
という瞬間を、一つだけ書き出してください。
誰に褒められたわけでもない。
ボーナスが増えたわけでもない。
でも、
自分の中で「よし、これでいい」と思えた、あの瞬間の感覚。
そこに、あなたの「資材」の本当の名前が書いてあります。
「私は、バラバラだった人の心を一つに繋ぐことができる木材だ」
「私は、どんな重圧がかかっても、
静かに耐え抜き、最後には帳尻を合わせることができる柱だ」
その「本当の名前」を知ったとき、
あなたの改築工事は、加速度を上げて進み始めます。
他人のペンキを剥ぎ取り、自分自身の木目を美しく見せる。
その準備が整ったとき、
あなたの目の前には、あなたという資材を待ち望む
最高のクライアント(企業)が現れるはずです。
鏡を見てください。
そこに映っているのは、
使い古された「中古品」ではありません。
これから数十年、新しい家族(組織)を守り抜くための、
圧倒的な強度を備えた「伝説のヴィンテージ」なのですから。
明日の水曜日は、
改築において最もデリケートで、
最も大切な「共同名義人(家族)」との対話について、
深く深く、お話しします。
あなたは、決して一人で家を建てているのではありません。
その重みを、
力に変える方法を見つけに行きましょう。
( 第3話 完 )



















