鳥取の地を踏んだのは実に9年ぶりのことだった。
遠く霞む稜線の向こうに、あの日と同じ風が吹いていた気がした。
何のために来たのか?
理由なんて、いつだってひとつしかない。
勝つためだ。
ただそれだけのことだ。誰にどう思われようと僕らは勝利という名の小さな光を追って遥々ここまで来た。
湿った空気を吸い込みながら、友と合流し、鳥取の砂丘を歩いた。
サクサクと鳴る砂の音。潮の香り。そしてホルモン焼きそばの香り。
ほんのひととき心は穏やかだった。けれど時間は止まってくれない。スタジアムが僕らを待っていた
そこは僕たちの『戦場』だった。
声を枯らし、手を叩き、拳を突き上げ、心をむき出しにして叫んだ。
「届け、この想い」と願いながら、 魂の鼓動をピッチへぶつけた。
僕らは戦った。間違いなく、一生懸命に。
でもどうしても、あと一歩届かなかった。
悔しかった。
本当に、言葉にならないほど悔しかった。
何かが足りなかった。
技術か、気迫か、それともただ運なのか。
でも、きっとそれは今日という一日の中で、選手もサポーターもそれぞれが受け取った課題だったのだろう。
誰だってミスはする。
僕もしたし、これからもきっとする。
だからこそ、そこに立ち止まってはいけない。
ミスは取り返せばいい。諦めずに声を届ければ、いつかそれが力になる。
積み重ねた想いが、やがて強さに変わっていく。
リーグ戦は、まもなく折り返しを迎える。
もう負けられない。引き分けすらも許されない。
それくらいの覚悟が今の僕たちには必要なんだ。
試合が終わった直後、心が折れそうになったのは事実だ。
けれどふと立ち止まって思った。
今までだってそうだったじゃないか、と。
どんな逆境だって、何度も乗り越えてきた。
僕の人生も、そしてこのクラブの歴史も。
悔しさも、涙も、全部この胸に刻んできた。
だからこそ、鳥取には悔しさだけを置いていこう
僕たちは、前を向くためにここへ来たのだから。
サポーターとは「信じることをやめない人間」のことだと思う。
初めてこのクラブに恋したあの日から、心にともった炎はもう消せない。
どんなに風が吹いても、どんなに闇が深くても、僕らの声は消えない。
それが届いたとき——
静かな奇跡はきっと始まる。
いや、僕たちはそれを起こしにいくんだ。
次こそ、絶対に負けない。
そのために、また僕らは歩き出す。
そしてこの物語は、まだ終わらない。
