「適応障害」患者の日記 -2ページ目

パキシル(その2)

就寝前にパキシル10mgを飲み始めてから5日ぐらいで、自覚できる効き目が徐々に現れてきた。

①眠気が増幅し、大して疲れていなくても8~10時間ほど中途覚醒もせず眠れるようになった。
②メイラックス単剤の頃と比べると、具体的ではないけれど「頭の中で何かが作用している感じがする」ということが自覚できるようになった。ぽわーんと気持ちがいい感じがたまにする。
③仕事中・プライベートに関わらず、「今の自分は元気だ」という思いが湧いてきて、口数が増え、笑顔が増えた(気がした)。

④たくさん眠るのだが、朝起きるのがつらい。
⑤頭がぽわーんとしている間にはまったく集中ができないので、仕事の処理スピードがかなり落ちた。
⑥断れない仕事上の飲み会で、アルコールを飲んでしまうと、酔いが回るのがめちゃくちゃ速くなった(前日の夜からパキシルを飲んでいなかったとしても)
⑦起床してから3時間ほどの間に食事をとると、ひどい吐き気が起こるので、午後になるまで食事がとれなくなった
⑧便秘気味になった
⑨性欲が低下した


僕にとっては①・②・③の良い効果が嬉しかったので、それ以外の作用についてはあまり気にしていなかったのだが、飲み始めて1週間が経ち、心療内科に再診した時に、上記のような現状を説明したら、主治医はやや心配気な顔になった。

彼は「アルコールの併用は出来る限りやめるように」と苦言を呈した後、少し考えながら言った。
「眠りすぎ、集中力の低下、吐き気、便秘、性欲の低下は、パキシルの副作用です。10mgで1週間でそこまで一度に副作用が出るとなると、これから量を増やしていくと、どんどん悪化する可能性があります。先日メイラックスを2mgから1.5mgに減らしたことからも、Olsさんは薬に弱い人のように見えるので、パキシルほど強い薬でなくてもいいのかもしれません」

そこで先生は初めてパキシルがSSRIであること、SSRIとしては他にルボックス(デプロメール)とジェイゾロフトの2種類があることについて説明してくれた。もう少しマイルドな効き方をするルボックスの方に変更しましょうと提案してくれた。

パキシル 10mg→0
ルボックス 0→25mg
メイラックス 1.5mg


まさかこのときの診断で、それから先の僕の闘病生活が大きく変わることになるとは思ってもいなかった。

パキシル

毎週1回のペースで心療内科に通い始め、4回目の受診のとき、主治医から「そろそろ、抗うつ薬を使って治療をしていきたいと思います」と提案を受けた。その日、主治医が処方したいと申し出たのは、パキシルという薬だった。

ここまで毎週1回受診を受けてきたが、3回目までの処方をまとめると、
●初診
ドグマチール 50mg/day
メイラックス 1mg/day

●2回目の受診
メイラックス 2mg/day
●3回目の受診
メイラックス 1.5mg/day

自分の主観では経過はそこそこ良好で、体調の悪さや抑うつ気分は、少しおさまりはじめている気はしたが、仕事中のストレスに対する感性はほとんど変わっていなかったので、僕は素直に了承した。

ドグマチールやメイラックスのときと比較すると、なぜかパキシルについては細かい説明は受けなかった。主作用も副作用も曖昧な説明であり、量についての説明しか覚えていない。

「比較的新しい抗うつ薬のひとつで、昔からある抗うつ薬に比べて副作用も少ないので、安心して飲んでください。今日は最少量の10mgから始めますが、1週間後は2倍の20mg、そして問題がなければ、さらにその1週間後には30mgと、10mgずつ段階的に増やしていきます。量を増やすごとに、効果がどんどん高まっていって、うつ状態が改善していくと思います」

ということで、4回目の受診では以下のような処方に変わった。
パキシル 10mg/day
メイラックス 1.5mg/day


後で知ったことだが、パキシルはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という、抗うつ薬の中ではやや新しいジャンルの薬の一つである。

当時すでにルボックス(=デプロメール)、パキシル、ジェイゾロフトという3種類のSSRIがあったが、どうやらその3種類のなかでもパキシルは最強クラスの切れ味があり、抗うつ薬全体で見てもダントツに処方されているらしい。

闘病生活が長くなった今では、先生があのときなぜ細かい説明をしなかったのかがなんとなく想像できる。

抗うつ薬は、本当に患者との相性の問題が大きいので、「こういう良いところがでてくる」「こういう悪いところがでてくる」とあらかじめ説明しづらいのだろうと思う。

メイラックス

前回のエントリでも書いたが、数年前、僕が生まれて初めて心療内科を受診したとき、最初に処方されたのは以下の薬だった。

ドグマチール50mg/day
メイラックス1mg/day


前回のエントリでは、ドグマチールについて書いた。今回はメイラックスについて書く。

メイラックスは、ジェネリック製品(最初に発売されたときの製薬会社の特許が切れ、同成分で後発として他の製薬会社が発売している薬。だいたい先発の薬よりも薬価が下げられていて、患者の経済的負担が減らせる)が多数発売されており、僕は正確にはメイラックスのジェネリック製品であるロンラックスを飲んできている。

メイラックスは、向精神薬のなかでは、不安や焦燥感に対して効き目のある、抗不安薬に分類されるものだ。抗不安薬の良いところは、即効性が高いことといわれている。

抗うつ薬は効き目を実感できるまでに要する服用期間が長く、個人差はあるものの1ヶ月ほどは服用しないと効果が感じられないものが多いとされており、初診のうつ病・うつ状態の患者に対してはまずは抗不安薬の処方で症状を抑えることから開始することが多いようだ。

さて、僕にはドグマチールの効き目がほとんど感じられなかったため、1週間程度で服用中止となったが、メイラックスについては、特別副作用らしきものも見受けられないため、最初の処方から数年が経った現在でも服用を継続している。

メイラックスは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の中でも特に作用時間が長く、即効性は低いものの、依存性も発生しにくいと言われている。

2度目の心療内科受診の際に、ドグマチールの中止と同時に1mg/dayから2mg/dayへ増量されたのだが、数日後には、作用が自覚できた。イライラ考え事をする思考回路から切り離され、「ぼーっとしている時間が増えた気がする」という感覚だ。

具体的にいうと、自宅で食事をしている時に妻に注意されたのだが、無表情になって、目の焦点がテレビや話し相手に合っていないように見えると言われた。実際そのような時にはテレビから受け取る情報は少し遮断されていたし、話し相手の言葉も全部は聞き取れていなかったと思う。

2mg/dayまで増量したことで、寝付きもかなり良くなったのだが、問題もないことはなかった。次の日にまで眠気が残り、朝から日中ずっとあくびが出る状態になってしまったのだ。

次の心療内科の受診時にその旨を伝え、いったん1.5mg/dayに減らしてもらった。

(その後に飲むことになった抗うつ薬のほうが眠くなる効果は強かったため、後に2mg/dayに戻したときには何の変化も感じられなかった)

依存性が発生しにくいとはいっても、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬であるので油断してはいけない。

一時期、個人的に減薬を試みようとして、医師に相談することもなくメイラックス2mg/dayの服用をいきなり中止した時には、中止して3日目ごろから離脱症状と思われる軽度の頭痛・めまい・倦怠感がでてしまった。

素直に担当医に謝り、減薬について相談して、1mg/dayに減らしてもらい、現在でも服薬を続けているが、今では主作用も副作用もほぼ自覚できないようになり、ラムネを飲んでいるような感覚である。

ドグマチール

数年前、僕が生まれて初めて心療内科を受診したとき、最初に処方されたのは以下の薬だった。

ドグマチール50mg/day
メイラックス1mg/day


生まれて初めて(1回のリタリン服用を除く)向精神薬を飲むことになる僕が不安そうな表情をしていたのか、医師からこれらの薬についてしっかりと説明があった。(メイラックスについては次のエントリにて記述する)

ドグマチールは、向精神薬としては抗精神病薬に分類されている薬物だ。もともとは胃潰瘍などの消化器の症状に対する胃薬として開発されたのだが、服用した患者さんがなぜか明るくなるという効能があったため、抗精神病薬としても用いられるようになったといわれている不思議な薬だ。

海外ではそれほどポピュラーではないようだが、日本の精神科では、うつ状態の患者に対する第一選択薬のひとつとして選ばれる傾向があるらしい。

で、僕個人に対する効き目でいうと、
「よく分からない」
のであった。

なんとなく効いている気がするような、しないような…という程度で、心の中で何かが起きているという実感も全くなかったし、副作用も自覚できるものはなかった。

飲み始めてから1週間が経ち、2度目の心療内科受診の際に、主治医に「何か変わったことはありませんか?」と訊かれたので、少し考えて「なんとなく、食欲が増えているような気がします」と答えたら、「メイラックスでは多分そういう副作用はないが、ドグマチールは過食の副作用が起こることがあるので、中止しましょう」ということで、あっさり中止となり、それ以来、一度も服用していない。

当時の僕は、深夜の食事やアルコールによって既に肥満体といえる体型だったので、過食気味になることを心配されていたようだ。

リタリン

リタリンは、強力なアッパー系の作用をもつといわれる向精神薬。

2007年10月まではうつ病に対して適応があったが、覚せい剤に類似した強力な精神高揚作用があることから、精神科でうつ病と偽ってリタリンを処方してもらい乱用・依存する「リタラー」と呼ばれる者の存在が社会的問題となり、うつ病への適応を外された。

現在ではリタリンは、ナルコレプシー患者と、18歳未満のADHD(注意欠陥・多動性障害)患者に対してのみ処方が行われている。

ナルコレプシーは日中の活動時に突然眠りに落ちてしまう病気で、色川武大(阿佐田哲也)氏の持病であったことで有名だが、10万人に1人ほどしか発生しない奇病と言われている。

18歳以上で、リタリンを乱用目的で得ようとした者が、もしナルコレプシーの症状を偽証したとしても、かなりの奇病であるため、疑わない医師はおそらくいないだろう。また、脳波の検査を行うことで、本当にナルコレプシーであるかどうかを見抜くこともできるようだ。

つまり現在18歳を超えている人のほとんどが、目的がなんであれリタリンを処方してもらうことは不可能である。ただし、うつで苦しんだことのある僕にとっても、それは良いことだと思っている。

なぜそう思うのかには根拠がある。もう10数年以上も前のことになるが、実は僕は高校時代に一度だけリタリンを服用したことがあるのだ。

当時僕と同じクラスだった友人が、うつ病の診断でリタリンを処方してもらった。(いま思い返すと、その彼は睡眠薬遊びなどをしていたラリ中に近い人間だったので、多分うつ病ではなかった)

彼は「すごく元気になる薬をもらったから、みんな飲んでみて」と、大量に処方してもらったリタリンを、朝いきなりクラスのメンバーに配布したのだ。勉強や授業が嫌でストレスがたまっていた僕も、試しに飲ませてもらった。

すると、
リタリンを飲んだほぼ全員が、1時間以内に異常に元気になった。

僕に起こった精神的変化でいうと、いきなり授業を受けること、人と話すことがすべて楽しいものと感じられるようになり、多幸感でいっぱいになった。特に昼休み中の行動は、小学校低学年の頃に戻ったかのごとくはしゃいでしまい、あらゆるストレスが突然ゼロになったというか、嫌なことなど考える余地もないほど明るい気分になった。

そのとき服用したメンバーのうち1人はあまりにもテンションが上がってしまったようで、「大音量で音楽が聞きたい」と言い、午後の授業を放棄して無断で早退してしまった。

僕は早退せずに授業に出ていたが、服用して5~6時間程度たった頃だろうか、リタリンの効果が切れたのか、薬を飲む前よりも遥かに憂うつな気分になった。

僕はもともと違法ドラッグの類が大嫌いなので、当然ながら覚せい剤の経験はないが、文献などを見る限り、覚せい剤も、揺り戻し(テンションが強烈に上がった後、反動としてテンションが下がる)があるらしい。

次の日に学校にいくと、前日早退してしまった友人は憂うつ感がひどすぎるという理由で学校を休んでしまっていた。

リタリンを服用した他のメンバーのほとんども、同じような憂うつ感を訴えていた。当時この現象について考えたのだが、リタリンは飲み続けないと、薬で上がったテンションの反動で、つらいうつ状態を喚起するようだった。それに加えて飲んだ時のテンションの上がり方、多幸感が強烈なので、飲むこと自体に対して精神的依存が発生しそうであった。

つまり
リタリンなしでは生きていけなくなる可能性があるのではないかと思った。

直感的に恐すぎる薬だと感じた。それ以来、一度たりとも、リタリンを服用したいと思ったことはないし、服用していない。

しかし、重度のうつ病に苦しんでいる人で、リタリンによる元気だけが原動力だったような人がいたとしたら、上記のような「リタラー」のせいでうつ病に適応されなくなったことは、ひどい話だと思う。