「京都殺人案内6」 (1982) 後編 | All the best for them

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好きな人と好きな人に関連するあれこれ、好きな物、家族とのことを細々と、時間があるときに綴っています。





















 

舞台は北海道から京都へ戻り…



娘・静江のピアノが流れる中、

床の間に結納グッズが飾られた座敷で新聞を読んでいる松尾。

この朝は黒っぽい着物姿でした。

そこへ電話が。

あなた~、会社の方から電話よ。 「うん」

受話器を取って、「あ~もしもし、松尾だ。…分かった。会社の配送所で会おう」

松尾は青ざめた。その電話の主は…



一方音やんは、推理した。

30数年後京都で出会った小山紀夫は、松尾孝次にゆすりをかけた。

松尾は(小山の)女房まで殺害しとる恐れがある。

確実な裏を取るために、琵琶湖を捜索することに。



琵琶湖岸で、ブルーシートに覆われたドラム缶を発見した音やんは、ひらめいた。

そして再び宇治川を捜索した結果、琵琶湖で見たドラム缶と同じもの、

さらに小山紀夫の片方の靴が発見される。

ついに、松尾に捜査の手が伸びた。



その頃松尾は…

会社の運転手控え室で、小山の女房・みどりと会っていた。

松尾が差し出した札束を一べつして、こんなはした金…とほざくみどり。

従業員が来るんでしょ?別の場所で話しましょうか?

「今日は休みだ」

洗いざらい警察にぶちまける。

松尾を脅すみどりの手が、ダイヤルを回し始める。

慌てて受話器を押さえつける松尾。息を飲んで「やめてくれ…」

大阪か神戸で店を持ちたいから5,6千万要る。と続けるみどり。

「それは分かってる。だから半年、せめて3ヶ月待ってくれ。

なっ、この通り。この通りだよ…この通り…」

土下座をしてみどりに懇願し続ける松尾。

(悲壮感漂うシーンでした。あまりにも松尾が可哀想で…

根上さんが松尾だから余計に思うのかもしれませんが、

逆にこのふてぶてしいみどりが、憎くてたまらない私)

社長さん、あんたの住んでいる家を売れば

5,6千万ぐらいすぐに出来るじゃないのよ~

あんたが小山を殺したんでしょ?

あたしだって可哀想な女なのよ。あんなぐうたらと結婚したばかりに

私の一生はめちゃめちゃ…とぶちまけるみどり。

(ちょっと待てよ~

小山がいなくなってあんたもすっきりしたんなら、

むしろ松尾に感謝しないといけないんじゃない?)

失業してるときはヤケ酒飲んで、必ずあんたのことを思い出すんだ。

昔の恨みを晴らしてやるんだ~って。

だからあんたの35年前の放火殺人事件も聞き飽きるくらい…

土下座してじっと耐えていた松尾の堪忍袋の尾が切れた。

興奮して「やめろ~!やめろ!やめろ!

人の弱みにつけ込んで言いたいこといいやがって!

お前なんかに俺の幸せをぶち壊されてたまるかっ! ちきしょ~!」

もみ合いになり、眼鏡も吹っ飛んだ模様。

「俺の35年の苦しみをお前たちに全部分かってたまるか~!

くそ~っ!」 無我夢中でみどりの首に手をかける松尾…

そして…

ふと我に返って、みどりの息がないことに気づいた松尾。

愕然として、その場に泣き崩れてしまった。「あ~あ~あ~」

クロード・チアリさんのギターの音色が最高潮に達する中、

松尾はみどりの遺体を乗せたトラックを、琵琶湖に向かってひたすら走らせた…


みどりを絞殺してしまったこの場面は、松尾登場の中で、

一番の盛り上がりのシーンでした。

過去を封印して35年、松尾がひたすら前を向いて築いてきた幸せが

一瞬にして壊れてしまった瞬間。

松尾の抱えていた激情が堰を切ったように爆発して…

根上さんの魂の演技に圧倒されて、心を打たれました。



夜…自家用車を運転して帰路に着いた松尾だが、

自宅の前に捜査員が張り込んでいることに気づき、引っ返した。

署で松尾からの連絡を受けた音やんは、

待ち合わせ場所の嵐山の東公園で、1人で松尾を待った。

そこへ松尾の車が到着。

車内にいる松尾が、窓越しに音やんに話しかけた。

「俺の家の周りに刑事を張り込ますとはどういうことだ?」 まだ虚勢を張る松尾。

松尾、お前俺に何か隠しとるな。

「お前に隠してることは何もない」

お前とこの配送所に小山紀夫という男が勤めとったん知っとるな。

「小山?知らん、俺は会ったことない」と松尾はしらばっくれるが、

お前のところの運転手がちゃんと証言しとるんや。

お前が知らんでも向こうはよお覚えとる。忘れよう思ても忘れられん顔や。

「それがどうしたんだ?」

今から35年前の昭和22年10月13日、お前は小山紀夫の父親を殺害した。

小山紀夫は、お前と出会た5日後に、淀川沿いで水死体となって発見された。

お前が殺したんや。

「どうしても俺を犯人にするつもりだな。確かな証拠でもあるのか?どうなんだ?」

松尾、俺はお前っちゅう人間が好きや。昔のお前に戻ってくれんか?

沖縄で黙って突っ込んでった田中や西川のやっさんを思い出してくれ。

あいつらきれいに散って行きよったやないか。

あの頃俺たちは腹の底ぶち割って話が出来た、いざ出撃の前の晩、

どうにも割り切れん気持ちの中でも。

なあ松尾、お前の腹のうち、俺に言うてみてくれ。

松尾、もうきっちり証拠はあがっとんねや。すっきりしたらどうや?

静かに語りかける音やんだが、

松尾はまだ気持ちの整理がつかないのかだんまりを貫いている。

そうか…そんなら俺の方から言わなしゃあないな。

宇治川縁でドラム缶を発見した。そのドラム缶から琵琶湖の水を採取した。

これは犯行を思いついたお前が予め琵琶湖から運んだに違いない

(松尾が琵琶湖の水をバケツで汲んでトラックの荷台のドラム缶に注ぐ回想)

つまり琵琶湖で殺したように見せかけて、実は宇治川で殺害したんや。

松尾、仏さんの靴も宇治川で発見した。お前のアリバイは完全に崩れたんや。

事実をつきつけられ一瞬怯んだ松尾。

音やんをじっと見つめてついに観念したのか、車外へ出た。

「音川…殺したのは俺だ。すまん」 松尾がついに自白した。

お前っちゅうやつはほんまに手間のかかるやつや。昔とちょっとも変わっとらんな。

音やんの言葉は優しかった。

松尾が胸のうちを絞りだした…

「今年の初め、突然小山が俺の前に現われた。

俺が犯した35年前の事件をネタに脅迫されたんだ。

4千万よこせ、5千万よこせ、としつこく付きまとい、

出さなきゃ京都セントラル物産社長・松尾孝次の過去を

洗いざらい世間にぶちまける。(小山に付け回される松尾の回想シーン)

昔の俺ならどうなってもいい。今は違う。

地位も名誉も財産も失いたくない。それで思い余って、ついにやってしまった…

(松尾が、ドラム缶に小山の頭を何度も突っ込み殺し、川へ流す。

それを小山の息子がじっと見ているシーンが回想)

眼鏡を上げてハンカチで涙を拭う松尾…

今の幸せを壊されることに我慢がならなかった。

娘を幸せに嫁入りさせてやりたい…

その思いがとうとうあの男を殺し、女房まで殺してしまった。

…音川、一つわがままを聞いてやってくれ。明日の3時まで待ってくれんか?

娘につらい思いをさせたくないんだ」


松尾の自白が終わった。

あまりにも切なくて、胸が締め付けられそうになる。

既に時効とは言え、過去の過ちはどうやっても消せないこと。

脅されて人知れず苦しんだ松尾の胸中を思うと、

殺害以外に何とかならなかったのかと、色々考えてしまう。



分かった。明日の3時に待っとる。行こうか…

音やんが助手席に乗り込み、松尾は自宅まで運転した。

張り込み中の刑事たちを音やんが帰らせて、松尾の車は敷地内へ入った。



翌日、サイレンを鳴らしてパトカーが走った。

大津市柳川2丁目 通称鏡ヶ浜に女の水死体発見…



婚礼の朝、静江が挨拶をしている。

うつむいて黙って聞いているモーニング姿の父…

そして…チャペルから出てくるカップルを、父はじっと見送っている。



音やんが松尾の逮捕状を請求した。



ホテルでの披露宴が終わり、カップルは行って来ますと車に乗り込んだ。

ねっあなたもいきましょっ、と妻・冴子が誘うが、

松尾は、「お前だけ送れ」と一言。 

そうですか、ほんなら…と奥さんも車に乗って、行ってしまった。

見送りの皆が去り、1人残された松尾はじっとしたまま何を思っているのか…



2時40分。通りには、いつものグレーのコートに着替えた松尾の姿が見えた。

まっすぐ前を見つめて歩いてくる。



3時が近づいて、音やんが窓の外を覗くと、

松尾がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。

北野天満宮の中を通って歩いてきた松尾、

音やんは降りてきて、外で待つ。

とうとう到着した松尾に、音やんは逮捕状を見せた。

うつむいて無念の表情を浮かべる松尾だった…



歩いてくる松尾は、なんとなく寂しげで男の哀愁が漂っているようでした。

胸のつかえは取れたかもしれないが、

残された妻のことや結婚した娘のことなど、そして会社の従業員のことなど、

問題が山積みのような…

これから松尾が立ち向かわなければならない数々の難題のことを思うと、

ものすごく複雑な気持ちにかられる。

あ~このもやもや、どうすればいいのよ~

でも…

メインゲストの根上さんが犯人であることは明白だったし、

昔の過ちをネタに脅され、殺人に至るというのも、

サスペンスの王道ストーリーであるにもかかわらず、

最後まで手に汗握ってみることが出来たのは、

松尾の人物像にじっくりスポットを当ててくれたのと、

音やんの松尾を思う心情が、しみじみと伝わってきたから。

この作品に出会えて、良かったです。



それにしても根上さんの歌声、ちょっと感激でした音譜

レコード出して欲しかったわ~ラブラブ!

それに、なじみ深い京都の町並み、

30年前とは言え、根上さんが歩いていてくれたこと、とても嬉しいラブラブ