こんばんは、アメブロ公式ジャンル対応記事としては2回めの漫画感想のコーナーです。
前回もそうでしたがブログテーマは、ずばり「マンガ・アニメ好き」という公式ジャンルと同じ呼称に変更しました。
このコーナーでは拙作を描く際に僕が拝読した作品を紹介するところからはじめようと思っていますので、今回も戦争漫画・・・なんでしょうか?
今日マチ子さんの「ぱらいそ」をご紹介します。
戦争漫画というくくりでは語れない内容にも思えますが、少なくとも太平洋戦争をモチーフにしたマンガであることには違いありません。
まずは作品の基本情報です。
「ぱらいそ」
著者:今日マチ子
出版社:秋田書店
掲載誌:エレガンスイブ(掲載終了)
単行本:秋田書店から発売中(全一巻完結)
(1)不思議な世界観と、若干のネタバレ
この作品の舞台は昭和20年あたりの長崎です。
これは言い切っていいと思います。
原爆で破壊される前の浦上天主堂(※)が細かいディティールまで描かれているコマがあり、浦上天主堂に設置されている「アンジェラスの鐘」も作中で重要な役目を伴って描かれます。
新聞記事には「B29帝都盲爆」という見出しが載り、B29というのは太平洋戦争後期の米軍の爆撃機ですので、これも時代を描くディティールと言えます。
※浦上天主堂は原爆で破壊される前の姿と現在再建された姿とは異なります。
その一方で、この作品はすごく不可解なものも描かれています。
それは、太平洋戦争当時に存在していなかったはずのものです。
その最たるものは主人公の女の子の住んでいる地域こと「住宅街」です。
詳細を説明するのはあえて避けます(ただ、このあとの説明で察しがつくかもしれませんが)。
実際にご覧になって、驚いて頂きたいと思います。
この不可解な世界観・・・
実は僕個人にとっては、割とお馴染み・・・
これは「悪夢」の世界。
僕はかなりの高確率で明け方に悪夢を見ます。
(2)汚れていく恐怖から逃げるために・・・
主人公の女の子「ユーカリ」は、「ぱらいそ」と名付けられたアトリエで絵を習っています。「ぱらいそ」は女の子にとって戦争の恐怖から逃れる場所の一つのようです。
そしてユーカリは、もう一つ怖がっていることがあるようです。
それは自分が世界に染まり汚れていくこと・・・
ユーカリは悪い手癖がありまして、しばしばスリのような盗みをはたらきます。
ユーカリ本人はそのことに苦しんでいます。
自分が黒く染まっていく恐怖・・・それから逃れるために、そして世界を白く染めるために、ユーカリはアトリエの友人のミルラの白い絵の具を「盗んで」しまいます。
この物語は背景の出来事として長崎への原子爆弾投下が描かれているのですが、物語の骨子は少女たちの罪と、その克服なのではないかと感じます。
ユーカリもそうなのですが、ぱらいその少女は、何らかの罪(?)を犯しています。
ユーカリを欺いた(嘘をついた)ミルラ、売春を行っているセリ・・・
ただ、罪(?)への考え方は三者三様。
表向きは意に返さない者もいます。
ユーカリは汚らわしいものとして「白く塗りつぶすこと」でそこから逃れようとしています。
(3)世界は白く染まり、そして取り返しがつかないほど黒くなった
そして「8月の中頃の午前11時を過ぎた頃」
「世界は真っ白になった(本編より引用)」
このワードの意味するところは言うまでもなく原子爆弾の投下です。
そして、ユーカリは破壊された町をみて「白い絵の具では塗りつぶせないほどとんでもないことが起こった」と知ります。
破壊された町とそこを彷徨う人々の描写は凄惨です。
絵柄がシンプルなためリアルというわけではありませんが、グロテスクとも思えるところまで容赦なく描かれていると感じます。
本作では爆風や火災による惨劇も描かれる一方、それ以上に原爆症(放射線障害)の描写が顕著に描かれています。
その描写で異彩を放っているのが、先述の「住宅街」の様子です。
見た目は全く無傷なのですが「立入禁止」にされてしまいます。
(そう言えば、この作品は初出は2015年、福島原発事故は2011年・・・、深読みしすぎかもしれません)
(4)罪の克服
ここまで、感想と言いつつ内容の紹介に留まっている感は否めませんね。
ラストまでネタバレするわけには行きませんので、二言だけ・・・
・ユーカリは罪を克服できたのかは・・・?
・少なくともバッドエンドではありません
(5)未来志向の作品
この作品は今日マチ子さんが"あとがき"で「いま、そしてこれから起こりうる物語」として描いたと述べています。
あの不可解な「住宅街」の描写を初めとする不思議な世界観にその意思が現れているように思います。
(ここまでも僕の文責ですが、ここからも完全に僕個人に文責のある蛇足です)
大変な懸念として、現に今朝も隣の国がミサイルを発射しました。
もし、起こってはならないことが起きてしまった時、「ぱらいそ」の不可解な描写は不可解ではなくなるのかもしれません。
もちろん、不可解な作品のまま、想像力を駆使して味わいことのできる作品であり続けることを望んでいます。
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