※BL・腐の意味がわからない方、これらの言葉に嫌悪感を抱く方は閲覧をご遠慮ください。
また閻鬼が嫌いな方もです。

超久々閻鬼。文自体も久々に書く気が・・・。
サボり閻魔と鬼男くんのお話。最後微裏というか、ちょっと注意です。
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窓辺に寄り添うと、眼下には木々が広がっている。
また別の部屋から外を覗くと湖らしき水面が陽の光を浴びてきらめいていた。
都会の喧騒から離れた、閑散とした癒しの地。
鬼男は高い鳥のさえずりを聴きながら果てしなく広がる緑をぼうっと眺める。

「・・・どこだここは。」

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「・・・で、どういうことなんですか。説明してください。」

鬼男は目の前に転がっている男を無感動な眼差しで見下ろす。
彼は身体をひねり、涙目で赤くなった頬をさすっているがそれは自業自得だろう。

「いやほんとすみませんでした・・・。」

閻魔は抵抗せずおとなしくまず謝った。
はたから見れば鬼男のほうが権力を握っているように思えるが、一応これでも冥府の王なのだ。
王ともあろう人が部下に右ストレートをくらってめそめそしているとは、情けない。
けれどこれが彼らの日常だし、今までの経験上、どうしても秘書に頭があがらないのだ。

謝罪を述べ、すっかりしおらしくなった閻魔に、鬼男は短くため息をついた。

「まず・・・ここはどこなんですか。」
「現世。」

本当に反省しているのかしていないのか、躊躇なく即答した閻魔に、鬼男は瞬時に喉元まで罵倒の言葉が出かかった。
しかしそれはすぐに下がり、口から出ることはなく、代わりに行き所をなくした大量の息を、一瞬つまらせてから、ゆっくりと吐き出した。

なんとなく予想はついていたのだ。
いつもいるところではありえない、目に優しい緑。見覚えのない風景。聴いていて心地良い小鳥のさえずり。
住み慣れた、冥府ではありえない光景だった。
そしてこんな穏やかな地は天国か、それか下界しかない。
しかし天国はもう少し、現実離れしたところで、葉をよく見て見ると一部が変色していたり、幹によくわからない小さい虫が這っていることはないのだ。
それと先程閻魔をいつも通り爪で刺そうとしたところ、何故か伸びなかったことから、ほとんど確信に変わっていた。
そもそも彼がこんな大掛かりな逃亡先にわざわざ同じあの世を選ぶわけがない。

鬼男は呆れた様子で、俯き、頭をがしがしと掻く。

「なんかもう・・・色々言いたいことはあるんですけど。
何故僕らは現世にいるのですか?」
「いやあ・・・まあ・・・。休憩?」

悪びれもしない閻魔に、その時、鬼男の中で何かが切れた音がした。

「休憩?ってなんだよ、ああん?お前いつも菓子食ってだらだらやってんだろうが!!駄々こねて俺が立てる予定通りいくことがほとんどないだろうが!!あ゛あ゛!?」
「ヒッ!ご、ごめんなさい・・・埋まります・・・コンクリに埋まります・・・。」

今度こそ反省したのか、元々血色の悪い顔を更に青くして、正座をして居住まいを正し、しゅんと俯いた。
拳を握り締め、用意していた鬼男であったが、態度を改めた閻魔をとりあえずよしとし、拳を下ろす。
下ろした腕を見つめる彼の表情から安堵がみてとれた。

「わかったなら早く帰りましょう。」
「やだ。」
「・・・は?」

今の流れなら反省して逆らうのを諦め、すぐにあの世に繋いでもらえると思っていたので鬼男は面食らった。
ここまできて駄々をこねるというのか。そんなに殴られたいのか。いい度胸だ。
眉をひそめ、再び拳を握りしめ振り上げようとしたその時、察した閻魔から悲鳴も入り混じった制止の声があがる。

「ちょっ、待って待って待って待って!!違うんだってば!!」
「何がですか先程の貴方の発言がですか。」
「いや、俺の発言はあってるけど・・・ちょ、だから殴らんといて!!違うんだってば!!数日分終わらせてきたんだってば!!」
「は?」

鬼男は振り上げた腕をぴたりと止める。
閻魔は既に覚悟を決めて目を瞑っていたが、思っていた打撃がこないのを確認するとおそるおそる目を開けた。真っ先に視線を捉えたのは身体の横に下がっている鬼男の右腕だ。

「どういうことですか?」
「いや、そのまんま。一応数日分終わらせてきたんだけど…。」
「と言っても、亡者はどうなっているんですか?今日は今日、明日は明日、で並んでいるのでは。」
「あ、うん、並んでいることは並んでいるんだけど、数日分の人たちを振り分けたリストを作って他の鬼に渡したよ。この通りにしてね、って。」

そうは言われても、にわかに信じがたい。
確かに嘘をついているようには見えないのだが、最近は特に仕事の量が増えたわけでもなく、閻魔もいつも通りだらだらと裁判をしていた。
つまり変化が見受けられなかったのだ。

「ああ、通常の裁判が終わってから夜、一人で部屋でやってたからね。」

鬼男の心中を察したのか、閻魔はさらりと言ってのける。
なるほどそれなら理解できる、と鬼男は頷いた。

「それで、つまり一応ちゃんとやってきたからサボりではなく休暇だと。」
「うん、そういうこと。」

自信満々の笑みを浮かべながらそう言われては、仕方ない。
怒る理由もないので、代わりに呆れたように頭を掻く。

「でもサボりになんで僕を混ぜたんですか。」
「サボりじゃないよ・・・、いや、一人で休暇というのもなんかつまらないし、それに鬼男くんを休ませてあげたかったんだよね。」
「僕を?」

意外な言葉に鬼男は目を丸める。

「うん。鬼男くん、ここ最近疲れてたみたいだし。まとまった休みって俺ら、基本ないからさ。最近は比較的亡者も少ないし。ちょうどいいかなあって。」
「アンタが元からちゃんと仕事していれば定時あがりで夜もちゃんと休めるんですけど。」
「うっ・・・、いや、でも、さ、夜寝るだけじゃなくて丸々一日休みとか、ほしいだろう?」

確かに最近よく眠れているほうではなかったし、そもそもその原因は閻魔のせいだし、けれど別にちゃんとした休みがほしいとは思っていなかった。
自分を休ませたかった、というのはなんだかんだ言って結局サボりの口実にされているような気がするが、まあ少しでも自分のことを考えてくれていたというのは悪い気はしない。

「・・・まあそうですね。」

同調をせまる言葉遣いに呆れつつも仕方なく合わせる。というか幼子のように必死に目で訴えられてたら、断れるわけがない。
すると閻魔の表情がわかりやすく華やいでいったので、たまにはいいか、と鬼男も諦めたように微笑を浮かべた。

「けど・・・なんで僕には言わなかったんですか?言ってくれたらお手伝いしたのに。」
「確かに鬼男くんに頼んで朝からいつもより業務を増やしてたら楽だったかもしれないけどさ、それじゃあサプライズにならないだろ?」

なるほど、休ませるためというのはどうやら本当だったらしい。
しかし彼も夜は早く休みたいだろうに、感づかせないためだけに昼間いつも通りだらだらと仕事をしていたというのは馬鹿というか、結構辛かっただろう。
まあ今回は裏での努力に免じて素直に感謝してやろう、と鬼男は思った。

「それと不思議だったんですけど・・・なんで爪は伸びないのに角はあるんですか?」

ここに連れてこられた時はどうやら眠らされていたらしく、ここでの一番古い記憶は見慣れないベッドの上だった。
とりあえずここは冥界なのか現世なのかを確認するために頭を触ったら角の感触がしっかりとあったので、最初は冥界のどこかにいると思っていたのだ。
しかし起きて暫く色々なものを観察しているうちにその線は薄くなり、極めつけは閻魔に爪を刺そうとしたときだ。
いつもなら強く念じなくても伸びてくるのに、今回は爪の伸ばし方についてゲシュタルト崩壊しそうなくらいに悩まされた。

けれど現世にいるならば、基本普通の人間としていなければならないのでどちらともなくなるはずで、どちらかが残っていることはありえないのだ。それが鬼男の推測をややこしくさせた。

「ああ、だって角あったほうが萌えるし。」
「は?もえ・・・?」
「だって角は鬼男くんの性感た・・・」
「わーーっ!?何言ってんだこのイカ!!!」

質問の主旨とは関係のなさそうな、しかも真昼間から急に怪しい話に突入しかけたので鬼男は思わず大声で遮った。
しかしここにはこの二人以外人はいないので話す内容に昼も夜もほとんど関係ないのだが。

やはり閻魔もそう思っていたようで、案の定、人がいないんだからいいじゃん、と不服そうに頬を膨らませている。
これではまるで慌てた自分がおかしいようではないか。けれど受身である自分の夜の事情なんてできればあまり考えたくもないし聞きたくもない。

「・・・ていうか、そんな理由で?」

確かに、現世へ降り立つ際の鬼男の姿は閻魔によって変えられているので、閻魔が望めば角だけを残すこともできる。
閻魔が本気になれば年齢だって性別だって変えられるのだが、怒られて酷い目にあうことをわかっているのでおとなしく無難にしているだけだ。
この時、鬼男の頭の中で嫌な予感が思い浮かんだ。

「・・・ってことは、まさか・・・。」
「夜のセットもちゃんと持ってきたし、2,3日はゆっくりできるよ、鬼男くん!」
「やっぱりそういうことかこの変態大王イカ!!!」

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*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆あとがき*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
久々に文字書けそうな気がした上、超久々に閻鬼で書けそうな気がしたので書きました途中何回も折れそうになったけど頑張った。
あ、ちなみに書けなかったけど閻魔がいるところは閻魔の所有物というより、誰かの別荘を勝手に借りちゃってる感じです。犯罪じゃねえか。あとで鬼男くんにばれて怒られました。

鬼男くんがキレたときに「俺」って言ってますがわざとです。なんかキレたら「俺」になりそうだなあと・・・。

2,3日ゆっくり・・・何するんでしょうねえ。食料とか必要なものは閻魔が既に取り寄せてるし。
昼間はのんびり釣りとか森林浴とか・・・ほのぼのもありですね。ところでこれ消されないかちょっと心配なんだよね。

ではでは、いつもありがとうございます(*^ー^)ノ
※BL・腐の意味がわからない方、これらの言葉に嫌悪感を抱く方は閲覧をご遠慮ください。
また太妹が嫌いな方もです。

遅くなりましたが続きです。
なんだか・・・説明口調じゃありません?私の書く物って・・・。
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春めいた空気が漂い、ちょうど桜の開花が発表された頃。

突如気温が上がったこの日、昼間は実におだやかで、頬を撫でる風は凍てつく痛さもなくほどよい冷たさで気持ちいいと思えるものだった。
しかしそれでもまだ夜になれば上着は必須だった。
その夜になっても、あの人はこなかった。
下弦の月が東の空高く上った頃、とうとう諦めてさっさと二階の寝室である自室へと引きこもった。

翌日。
朝一番に彼はきた。
いや、いつも彼が一番最初の客なのだが、今日はいつにもまして早い。

「いやあ、ごめんねえ。」

太子は申し訳なさそうに頭をかく。
へらへらと浮かべた笑みにどこか疲れを感じるのは気のせいだろうか。

「いや、大丈夫ですけど、どうしたんですか?昨日は。」

妹子は特に気にしていなかった、わけでもなかった。ただ気にしすぎていたわけでもない。
妹子はあまりひきずらない性質で、その証拠に昨夜はいつも通りすぐに眠りにつけたのだが、しかし布団に入る前にふと思い出してみたりと、頭の片隅には疑問が浮かんだままだった。
彼は他の客とは違う。大袈裟かもしれないが、自分の食事がなければ生活できないような人だ。
そんな人間が、昨夜はどうやって過ごしたのか、また今朝は何を食べたのか、やはり気にせずにはいられなかった。
まあ彼は自分のところの弁当しか受け付けない、などというかなりの偏食家ではないからコンビニやそこらですませたのだろうけど。

「いやあ~まいったよ。急に飲み会が入ってねえ。」

なるほど、と妹子は思った。昨日は金曜日だし、どことなく顔色が悪いのも合点がいく。
そういえば今日はスーツ姿でないことにも気がついた。
休日だけ見られる、青いジャージ。
ここのお得意様になってから何度も見てきたものだから、気づくのに少々時間がかかった。

「そういうことでしたか。で、今朝は何食べたんです?」
「何も。」
「え?」

昨夜は飲み会で腹を満たしたことはわかった。だが今朝はどうなんだという疑問がまだ残っていた。
けれどきっと帰りにコンビニでも寄って朝食を買ったのだろうと思い込んでいたものだから、予想外の応えに妹子は目を瞠る。

「な、何もって・・・?」
「いや、だから、何も。」
「昨日何か買わなかったんですか?」
「うん。明日こそは妹子の弁当食べたいなーって思って、何も買わなかった!」

太子は歯を見せながら、満面の笑みで答える。
それを捉えつつ、この人は馬鹿なのか、という言葉が妹子の頭の中を駆け巡っていった。

ここ以外にも食べ物は買えただろうに、たまには他のものにするとか考えなかったのか。馬鹿かお前は。
など少々辛辣な言葉が胸の内から湧き出てきたが、それと同時に、嬉しい、という穏やかな気持ちも生まれていた。
自分が認められ、求められている嬉しさ。
ただ心の隅に生まれた暖かさに浸っていると何だか恥ずかしくなってくるので、それに気づく前に妹子はそこから目を背ける。

「えっ、じゃあつまり、今日はまだ・・・。」
「何も食べてない!から食わせろ!腹減った!」
「だから早かったのか・・・。はいはいちょっと待ってくださいね。」

早くしろとせがむ太子に顔をしかめつつ踵を返す。
弁当自体はもう作り終えていたのだが、いつも来る時間帯はまだまだだったし、先に他の弁当を入れてから店先に持っていこうと考えていたのでまだ家の台所に置いてあったのだ。
ガスコンロの隣においてある弁当に手を伸ばしたとき、ふとある考えが脳裏を過ぎる。
力が抜けた手を弁当箱の上に置き、口をぽかんと開けたまま思考を巡らせ数秒後、思わず口許が緩んだ。それから何事もなかったかのように弁当箱を持ち、再び踵を返し店先へと戻った。

妹子の栗色の頭が見え、さらに手元を見ると、太子は目を輝かせた。
あからさまに光を宿した視線に耐え切れず、妹子は無意識に手元に目をやる。
弁当箱のやりとりを手渡しで行い、代金をレジに納めている時、妹子は、視線をレジに向けたまま徐に口を開いた。

「太子、好きな食べ物ってあります?昼に食べたいもの。例えば、オムライスとか、ピラフとか、そういうもので。」
「え?ああ、カレーだけど・・・。」
「そうですか。今日のお昼、空いてます?」
「あ、ああ、うん。空いてるけど・・・?」
「今日、うちで食べませんか?」
「え?」

太子の目が瞠られた。
妹子の家はあくまでも弁当屋を営んでいて、外観も店先以外隣近所の住宅と同様のもので、食堂などをやれるようなスペースはなかったはずだからだ。
太子が固まっている様子を見て、見透かしたのか、妹子は言葉を補った。

「あの、食堂とかではないですよ?というかうちには食堂ありませんし。
普通に、うちで食事をしていかないかという話です。たまにはできたてのものを食べたいかと思いまして。
今日親いないので、融通はきくし、遠慮しないでください。」
「あ?そうなの?じゃあご好意に甘えさせてもらいます!」

何故か敬礼のポーズをとり、あからさまに喜んでいる太子を前に、妹子はふっと笑みをこぼした。

「じゃあ、あと、正午近くにでもうちにきてくださいね。」
「うん!わかった!」

わかりやすいほど上機嫌で、思い切り腕を振る彼に、妹子も笑みを浮かべたままいつもより大きめに振り返して青い背中を見送った。

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○●○●○●○●○●あとがき○●○●○●○●○●
・・・本文とはほぼ関係ない大反省会。
実はだいたいの文章は3月中に書き上げていて、それを見直しつつ追加してたんだよね。それで、わかったこと↓
・地文が説明くさい
・視点が定まってないように見える
・時間帯が定まっていない、嘘くさい(天体の動きを勉強しろ)
・語彙が少ない(いつもどおり)

・・・私書くのやめたほうがいいんじゃね?って思うほどでした・・・。
今更だが一から小説の書き方を勉強しないとやばい気がする・・・本当今更だよ・・・。

で、今回のお話なんですが、まあ実はここまで長くなる予定ではありませんでした。
本当は最後別な話で結構進展するはずだったのですが何故か一緒にお昼という・・・方向性に・・・。
仕方ないので次回、そのお昼編で元の軌道に戻そうかと思っております。
まあある意味いつものことかな・・・実はプロットちゃんと書かないで頭の中でぼんやりと話の方向性を決めて書き進めているので、しばしばラストが最初に思い描いていたのと変わります。ダメだね!うん!

ではでは、いつもありがとうございます(*^ー^)ノ
※BL・腐の意味がわからない方、これらの言葉に嫌悪感を抱く方は閲覧をご遠慮ください。
また太妹が嫌いな方もです。

更新が約一ヶ月ぶり・・・すみません。
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空は深い闇に染まり、月が白い光を纏いながら顔を出していた。
住宅街であるここは、昼間も人通りが少ないが暗闇の持つ力で余計に閑散とし、家々からはカーテンを通してぼんやりとした柔らかい灯りが漏れている。
天を仰いでも、街の中心部の強い灯りの影響を受けて普段はあまり星は見えないのだが、この日は何故か空がよく澄み渡っていた。

「本当に遅い時間にきましたね。」

閉店後数時間を経て来た目の前の男に対して、妹子は感心したように目を瞠りながら思わず本音を漏らす。
相手は不服そうに少し眉を寄せた。

「いいって言ったのそっちじゃん・・・。」
「いや、確かに、別にいいんですけど。お仕事終わるの、いつもこのくらいの時間なんですか?」
「まあね。今日はちょっと早いほうかも。」

この時間でも早いのか、と妹子は更に驚いたが、表には出さなかった。
最近では定時で帰らせてくれないところも多いと聞くし、きっとこの人も大変なのだろう。疲れきっているとこ、仕事のことを思い出させるのは酷だ。
話の流れを切り替えようと、妹子は一番下の引き出しに用意してあった例の彼専用の弁当箱をショーケースの上に出す。
すると太子も鞄から袋を取り出し、同じく卓上に置いた。

「ごちそうさま。美味しかったよ。」
「本当ですか?」
「うん、量もちょうどよかったし、いつもと違って栄養バランスをちゃんと考えてもらっているのがわかったなあ。慣れていないものを食べるというのは、本当はあまり気が進まなかったんだけど、やっぱ君のお弁当なら何でも美味しいね。」

言葉と共にこぼした笑みを見ると、本当に心からそう思ってくれているのだということがわかる。
妹子の胸には何かがじんわりと広がっていく感じがした。

「あ、ありがとうございます。じゃあ、はい、これ。」

照れ隠しのごとく、早くやりとりを終わらせようと妹子は渡す弁当を彼に向けて少し押して差し出す。
そちらに一瞥をくれると太子は鞄から財布を取り出し、代金をレジ付近に置いた。
値段ぴったりに渡されたそれをレジに閉まっている間に、彼も夕飯と朝食用、二つ分の弁当箱を鞄にいれる。

「さっき、今日はちょっと早いほうかも、って言っただろ?」

ふと思い出したように、太子は鞄のファスナーを閉めながら、あまり触れないほうがいいかも、と妹子が気を遣って逸らした話題を掘り返した。
脈絡もない話にドキリと心臓が反応する。

「今日一日なんだか気分がよくてね。・・・なんか気持ち悪いかもしれないけど、ずっと妹子のこと考えてた。あ、あの、大丈夫、お弁当のほうね。すごーく、楽しみで。早く会いたいなーって思ってたんだよね。
そしたら、仕事もはかどったのかな。いつもより早く終わって、自分でもびっくりしちゃった。」

鞄に隔たれて見えないはずの弁当をまるでみつめているように視線を落とし、昼間の感情を思い出しているのか興奮気味に頬を少し赤らめながら吐露する彼を見て、妹子は純粋に嬉しいと思った。
実は本格的に自分で考え、自分一人で作る弁当は彼が初めてだったのだ。
親の手伝いをしていたとはいえ、内心は不安だった。

「ありがとうございます。嬉しいです。・・・本当。」

気づけば自身も口許をほころばせていた。
手間をかけたかいがあったと、嬉しそうに微笑む妹子を見て太子は更に頬を緩める。

その時、雰囲気を翻すかのように横から強めの風が細い音を立てて吹き去っていった。
春先の夜、まだ冷たさの残るそれにより、彼らは現実に引き戻された感覚を覚える。

「じゃあ、明日もお願いね。」
「はい、待ってます。」

太子が手を振るのと呼応して、妹子も微笑を浮かべたまま軽く振り返し見送ったのち、胸が暖かい感情で広がっているのを心地よく感じながら店頭の灯りを消し、家の中へと入っていった。

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*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆あとがき*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
気づけば約一ヶ月ぶり・・・申し訳ありませんでした。といっても誰か読んでいてくれているのかは不明だが・・・。
相変わらず微妙な調子。うーん・・・。でも書くしかない!書きたいし。
実は考えていたところまでの展開が2話で実現しちゃったので悩んでいました。そしてその夜の話へと続いたのだった・・・。
本当にこの長編続くか心配・・・。続いたためしがほとんどないからなあ。頑張って続けねば!

ではでは、いつもありがとうございます(*^ー^)ノ