去年読んだ垣根涼介の『極楽征夷大将軍』が面白かったので、信長についてのこの本も読んでみようと思った。これは本当かどうかわからないが、信長は蟻の動きを観察して、兵士の働きについて考えたとある: 2割は働くが8割は存分に働かない。読みながら、織田信長のイメージと、「世界の驚異」と言われた、合理主義、実証主義の人、フェデリーコ二世のそれが重なった。
なお、第2章を読みながら、桶狭間の戦いを田楽狭間の戦いとしているところから、筆者は、江戸時代によく読まれた小瀬甫庵(1564-1640年)の『信長記』を参照にしているのかとも考えた。ともあれ、木下藤吉郎、明智光秀、松永久秀の人物描写は面白かった。
第1章 骨肉: 信長が吉法師といった幼少期から、弟を殺すところまで。父、信秀は商人を大切にしろと息子に教えた。うつけ殿と言われた異質な継嗣の信長を父は見込んでいた。馬廻りとなる兵を常備軍として雇って訓練した。弟信勝付きの佐久間信盛(大学介)という家老も信長を注視していた。母の土田御前は信長を嫌い、弟に家督を相続させることを画策していた。
有名な、父の葬儀での狂態。周囲に多くの敵が織田弾正忠(だんじょうのちゅう)家を狙っている中、三百人もの僧を集めての葬儀に腹が立ったのだとしている。舅である斎藤道三が、信長を評価し、信長も舅を信用したこと。
家督を継いだ信長は、周囲の敵のみならず、母と弟からも反旗を翻され、一度は赦すも、二度はなかった。1558年に、織田宗家である岩倉織田氏との戦いが始まり、翌年、織田信賢が降伏。宗家一族の国外追放。信長は上洛して尾張統一を将軍、足利義輝に報告し、すぐに戻ると傀儡の守護、斯波義銀を追放した。
第2章 増殖: 主に、駿河・遠江の今川義元が西へ進出し、尾張の織田と衝突したことについて。この本では桶狭間の戦いとは呼ばず、田楽狭間の戦いとしている。水野信元は、松平元康の縁戚(母、於大の方の兄)であったが、織田家に与していたが、今川は松平を通じて水野に調略を仕掛けた。さらに織田から今川へ寝返った鳴海城の山口教継が調略を行い、大高城や沓掛城が今川勢の手に落ちた。それに対して織田信長は丸根砦・鷲津砦を築いて、大高城から今川氏への連絡を遮断しようとしたが、左々隼人正と千秋四郎は不甲斐なくも勝手に撤退し(後に桶狭間で二人とも討死する)、丸根砦の佐久間大学(盛重)、鷲津砦の織田玄蕃允(織田秀俊)が討死に。その隙を突いて松平元康が大高城に兵糧を運び込む[これは大河『どうする家康』で記憶が鮮明]。
そして桶狭間(この本では田楽狭間)。熱田神宮に集合。突然のにわか雨の中、少数で進軍。毛利新介、今川義元の首級を挙げる。信長は水野の裏切りを恨む。
話は一気にその三年後にとぶ。前年、1562年には松平元康と清州同盟を結んでいた。信長は、美濃にて楽市楽座を行なう。上杉や武田の経済振興策について: 前者は青苧と廻船交易、後者は金銀。信長、清州より強引に小牧山へ本拠を移す。それは、抜本的な所領経営の変革、年貢の徴収などの織田家による中央集権化を意味していた。年貢米の支給も銭で行なうこととした。一族郎党は扶持米で雇われていることに等しくなる。
有能な指揮官の養成: ここで木下藤吉郎の話がでてくる。地頭が良い。藤吉郎が、木曽川の水運を支配する蜂須賀党と知己があることを知った信長は、美濃攻略のために藤吉郎を35貫の士分に取り立てる。→墨俣城の築城へ。
もう一人は、滝川一益である。この人も急速に頭角を現していた。
新しい地名、岐阜について: 平手政秀の菩提寺、政秀寺の住職・沢彦宗恩による。唐の岐山にちなみ、周王朝の発展を意味した。「天下布武」(武=徳を以て天下を統一する)の印形もつくる。
足利義輝が松永久秀と三好三人衆に弑逆された(1565年)。その後の後継争い: 足利義栄(よしひで)か、足利義秋(後に義昭)か。信長は松永久秀から文を受ける。
和田維政から、足利義昭を奉じて上洛してほしいとの要請があるも信長は躊躇。その頃、織田家は二百万石ほどの軍勢を動員できたとある。信長、藤吉郎の配下の者とともに蟻の動きを観察し、二対六対二、一対三対一の原理を確認する。神仏について帰蝶との対話: 神仏には意味がないからこそ尊い。
第3章 制圧: 1567年、越前から足利義昭を奉じて上洛の要請がくる。そのために派遣されたのは明智光秀であった。明智城の嫡流ながら、叔父に家督を譲ったという血筋、その他の評判を聞き、実際に会うと、器量、才幹、怜悧。信長は明智十兵衛を4,500貫(ほぼ1万石)の家禄を取らせて召し抱える(1568年頃か?)。
上洛のことはすっとばし、その2年後の話になる。1570年、信長が織田・徳川連合軍3万を率いて京から越前へと朝倉討伐に北上した時、浅井が裏切り、金ヶ崎から撤退の折、朽木谷を抜けて京を目指すとした時の話(信長の朽木越え): 松永久秀の才覚により危機を脱したエピソード。信長、松永久秀に兵1万を与え、大和平定を命ずる。