今年に夏に公開されたのだが、見そびれていた。U-NEXTで見られるので、コインを買って視聴。映画館で見るのと違って、リピートができるから、銘記したいことをメモできるのがいい。イタリア人には時として人道的なところがある。そしてイタリアはやはり美食の天国だ。自転車の世界戦でコックたちとウェイターたち、レストランまるごと連れてきたナショナルチームを思い出す。生ハムにワイン・・・、通訳たちもお相伴にあずかった。
冒頭にある言葉:
In mare, siamo tutti alla stessa distanza da Dio, a distanza di un braccio. Quello che ti salva. [parole pronunciate da] un naufrago russo salvato da una nave ucraina. (Pacifico del Sud, marzo 2023)
▲この事件に関する記事はこちら (海洋では遭難した人を救助するのが掟)
Vola, Lorenzo がよくわからなかったが、検索すると、SCIENZE DELLA SANITA' PUBBLICA E PEDIATRICHE (公衆および小児医療の衛生学)とある。
冒頭部分、主人公のサルヴァトーレ[まさに「救い主」という意味]・トダロ艦長が病室で治療を受けており、障害者、死に損ないの退役軍人とか、障害年金などとあるが、退役せずに、鉄のコルセットをはめたまま出陣するようだ。次の舞台はSPEZIA: イタリアの軍港、日本の呉みたいな港湾都市。"Non si può mai sapere"(万が一のため)というセリフがくり返される。Pesce di ferro(鉄の魚)の出航を見送る女たちのセリフは出陣を見送るすべての女のものだ。
出航したばかりの船内の様子はゆるゆる。犬もいる。だが、おいしいものを食べられない状況になった時、料理人のジジーノはすべての料理の名前を列挙しろ、と命じられる[これは映画の最後に聞ける]。
トダロ艦長はヘビースモーカーで、どこでも、潜水艦内でも吸っていた。
事件は1940年、ジブラルタル海峡で艦が故障し、マルコン副艦長の代わりに、珊瑚取りのベンチェンツォ(Vincenzo) が海中へ。ARO呼吸器で水深20mだと数分の命。からまった何かを切りに行く。切ったので艦は浮上できたけれど、Vincenzoは死んだ。
海峡を抜け、食糧も水も残り少なくなった大西洋上での実話: 1万トン級の貨物船が発砲してくる。反撃。魚雷で撃沈。中立のはずのベルギー船であった。夜の海に遭難者が浮かんでいる。トダロは引き上げることを命じる。フラマン人[フランドル=ベルギー人]たち、船の名はカヴァッロであった。ボートを曳航するが、壊れ、艦内に収容することになる。敵船はためらわずに撃沈するが、人間は救う、と。
救ってくれたイタリア人を「ファシストども」と罵る被救済者の一人が、航行中に艦の電気系統を壊したが、彼を処刑せず、トダロは自分を「海の男だ」と言い、恥辱のビンタで済ましたというのは素敵であった。だが「善行は忘れるもの」。
イギリス軍を目前にし、潜航すれば、デッキの司令塔にいる被救済者はすべて溺れる。アゾレス諸島まで送り届ける途中だから撃つな、と艦長は無線で訴える。イギリス軍はその無線を傍受し、砲撃を中止。被救済者たちにベルギー風フライドポテトをふるまい、料理人はマンドリンを弾いてカンツォーネを歌う。
多言語に通じる水夫に、艦長が紙(仕立て屋が書いてくれたギリシア語のメモで、自分を守護する海の精霊の護符と信じていた)を渡し、訳してほしいと頼む。「イリアス」の中の、アイオロスの子シシュフォスの息子、海神グラウコス、非の打ちどころなき者ベレロフォンを産んだという神話の系列。これがよくわからないが、たぶん海へ出るトダロへの餞に海神の加護をと書いたものだろう。
送り届けて別れるとき、なぜ我々を助けたのか、と聞かれ、艦長は答える: 我々はイタリア人だから、と。最初と最後に流れるのは、Pietro Mascagni の Cavalleria Rusticana intermezzo (間奏曲)。ずるいわ。イタリア海軍の潜水艦112隻のうち、戦争を生き延びたのは19隻。他はみな海の底で珊瑚の十字架のもとに・・・。
最後はイタリア料理の名前が際限なく列挙される。
意外だったのは、狭い艦内にフラマン人の遭難者を率いれ、状況を説明した時、「おのおのが義務を果たすべし」という日本の明治天皇の言葉を引用したことである。[セリフではムツヒト天皇と言っている]
朕カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ
朕カ百僚有司ハ勵精職務ヲ奉行シ
朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ
億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ逹成スルニ
遺算ナカラムコトヲ期セヨ
訳: 陸海軍将兵は全力を奮って交戦に従事し、すべての公務員は務めに励んで職務に身を捧げ、臣民はおのおのがその本分を尽くし、1億人の臣民が心を一つにして国家の総力を挙げて、この戦争の目的を達成するにあたって手違い(=遺算)がないように期待します。(日本まほろば社会科研究室のサイトより転載)
ちなみに以下も転載しておく。大東亜戦争の開戦を決定する御前会議の時に、昭和天皇が2度詠まれた明治天皇の歌である。
四方の海 みなはらからと 思ふ世に
明治天皇の御製(明治37年)
など波風の 立ちさわぐらむ
訳: 「どの国も兄弟のようなものなはずなのになぜ争いが起こってしまうのだろう」
映画について▼
この潜水艦について▼
▼ 潜水艦に乗り込む前と最後に流れる歌
▼ 料理人のジジーノがフライドポテトをつくったあとにマンドリンを弾きながら歌うカンツォーネ
農地におけるソーラーパネルの設置を禁止したメローニは偉い!!