先日読んだ『アルケミスト』の著者の処女作とのことで読んでみることにした。

 冒頭に肉筆で「旅は神と同じほど大切なものだということをいつも忘れないでください」とある。まさしく同感。

 

 まえがき: 著者はサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路を歩いた。1986年の初夏。1日平均20km。

 

 プロローグ: 著者はスペインのキリスト教神秘主義の秘密結社「RAM教団」[1492年創設、Rigore、Adorazione、Misericordia? ]の友愛会「トラディション」の一員となり、師から秘儀を伝授されて魔法使い(Mago)になれるのだが、落第すると、ガイドに伴われてサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路を歩かねばならないのだ。著者はこの試験に落第し、剣を受け損ねた。

 

 第1章 到着: 作家の妻はその剣をどこかに預け、作家は巡礼しながら見つけねばならない。スタート地点は、サン・ジャン・ピエ・ド・ボー。12世紀、その巡礼路について記したエムリー・ピコーについて。レコンキスタ運動と聖ヤコブ伝説について。

 

 第2章 サン・ジャン・ピエ・ド・ポー: 巡礼のシンボル、ほたて貝として、貝に立つ聖母像を持つ。マダム・ルルドに会い、トラディション結社の合言葉を言う。巡礼のための帽子とケープを受け、祝福される。ガイドは2km離れた城壁外で待機しているとのことであった。最初に会った男をガイドと間違え、気を許してしまった。合言葉は「山が高いか低いか知るためには、必ずしもその山に登る必要はない」。ガイドの名はペトラス。あのジプシーのような男は悪魔であり、それは前兆であった。ペトラスは言った: 知恵への真の道は、それがアガペの愛をもち、人生に応用できるものであり、誰もが辿ることのできるものである、と。

 RAMの第一実習、種子の実習を行なう。種子が芽吹くイメージの瞑想である。

 

 第3章 創造する者、創造されし者: 著者のガイドのペトルスは工業デザイナーであった。カルロス・カスタネダの『未知の次元 呪術師ドン・ファンとの対話』という本について[私も読んでみたくなった]。ペトラスはその呪術師を彷彿とさせた。17kmのピレネー越えを6日かけた。スピードの実習(普段の1/2の速さで歩く)を行なう。ロンセスバイエスへゆっくりと向かう。修道院の教会堂へ入る。ジョルディ神父に紹介され、四つの巡礼路について聞かされる。「あなたの宝のある場所には、あなたの心がある」と言われた。巡礼路を示す黄色い矢印。

 

 第4章 自分に対する愛と寛容: ある老人が小さな教会を指して、ここで愛が殺された、と語った。14世紀、アキテーヌ[フランス南西部]の王女がサンティアゴ・デ・コンポステーラに巡礼に行き、帰途、そこに住み着いて教会を奉献した。彼女の弟が連れ戻そうとしたが、拒まれたので教会で彼女を殺した。弟はローマ教皇に赦しを乞うと、サンティアゴへの巡礼を命じられ、その帰途、彼もやはりそこに住み着き、貧民のために尽くす隠者となり生涯をそこ[プエンテ・ラ・レイナの手前のオバノス Obanos という村]で終えたのだという。

 冷酷さを知る実習: 嫉妬、憎しみ、妬みの念が起きた時、人差し指の爪を同じ手の親指の甘皮に食い込ませ、精神的苦痛を肉体的苦痛に変える。

 

 第5章 メッセンジャー: プエンテ・ラ・レイナ[11世紀の王妃が建設した橋]に着いた。記念碑。ここで、サンティアゴへの道は一つになる。修道院に泊まる。子供たちの遊ぶボールを欲しがったのは筆者の個人的悪魔であったとペトルスは言う。良き戦いを戦うためには、自分のまわりにあるすべてのものの助けが必要なのだ、さらに二つの霊的な力が我々に加勢している、天使と悪魔だ、悪魔は自由奔放で反抗的な力であり、ペトラスはメッセンジャーと呼ぶのが好きだ、(古代にはヘルメスやメルクリウスに代表された)、君の天使はよろいであり、君のメッセンジャーは剣だ、このメッセンジャーとの会話を重ねるうちに、役立つこととわなの区別ができるようになる、と。メッセンジャーの儀式: リラックスし、右側に火を感じ、左側にも火の海を想像する。メッセンジャーの名(アストレイン?)を呼び、話し合う。

 

 第6章 愛: メッセンジャーは、物質的世界について君を助けてくれる、とペトラスは言う。50年前に広場でジプシーが、魔術を使い、神を冒涜したかどで磔になって焼き殺された。店屋の主人と神父が二人のところに現われ、そのジプシーの呪いはなおもかかっており、呪われ者は隔離されている、と話した。ペトラスはその人のところに行くと言う。高齢の女性であり、大きな黒い犬がそばにいた。その犬は筆者を陶酔状態におき、筆者が奇妙な言葉を口にすると犬は唸り始め、筆者に飛びかかり、お互いに見つめ合った後、犬は家から飛び出していき、筆者は幸福感にひたった。ペトラスは、それは君の行動がアガペ(博愛?)に満ちていたからだ、それはローマへの道で行われるRAMの実習の一つだと言った。

 直感力を養う水の実習: 水たまりをつくり、それで遊ぶ。10分以上1週間続ける。

 

 第7章 結婚: 大都会ログローニョ。二人はここで老夫婦の家に泊まる。広場で、M大佐の娘の結婚式の大パーティがあるという。ポプコーン売りは、フランコの独裁時代の方が生活が良かったと言った。ペトラスはイタリア共産党だと言った。ペトラスはエロスとフィロス(友愛)について、エロスの愛の炎が燃え尽きた後、二人を結びつけておくものはフィロスだと言った。ペトラスは泥酔した。

 

 第8章 法悦: 聖パウロの言葉の引用: 山を動かすほどの強い信仰があっても、もし愛がなければ、それは無に等しい(コリント人への第一の手紙第13章)。二人は釣りをする。巡礼のための病院が見捨てられ、誰かがそのファサードを使って墓地をつくった。世の中のことは長続きはしないのだ、とも言った。いかんともしがたいものは、神の閃光、運とよぶもの。筆者は頻繁にアストレイン(メッセンジャー)と話した。

 著者はペトラスとともに小さな庵を訪れる。そこにはアルフォンソという僧が済んでおり、ペトラスはかつて彼のガイドと三人で「青い天空の実習」を行なった。

 アガペを「法悦」という形で体験する[いくら読んでもこの法悦をうまく理解できない]。心の底から愛し、信じること。取るに足らない世俗的なことをしている時は、法悦は我々を見捨ててしまい、アガペが失われ、死に始める。

 青い天空の実習: 生きていることがいかに素晴らしいものか感じ、想像する。

 

 第9章 死: アゾフラという小さな村(サント・ドミンゴ・デラ・カルサダの半日手前)にて。筆者が、呪われた女の家から追い出した黒い犬との決着をつける。そのために力を与えてくれた人がおり、それは二十歳代の尼僧であった。

 脅迫は、相手に受け入れられなかったら何も引き起こすことはできない。攻撃も逃げるのも戦いの一部である。

 ペトラスは、君を破滅させるか、最良の友人となるかもしれない非現実的な敵、つまり死と対決しなければならない、と言った。そして「生きたまま葬られる実習」を筆者に教えた。生きたまま棺桶に閉じ込められ、蛆虫に蝕まれ、む脱出を試みる。

 

 第10章 祈り: 人間的弱点、一方の手は常に君の敵になる可能性があるのだから、そうならないよう祈りを捧げよう、とペトラスは言った[ひじょうに宗教的な祈り]。

 

 第11章 征服: テンプル騎士団の古い城跡に着く。滝登りをしろとペトラスは言う。筆者は墜落して障害者になりたくないからと拒むが、ペトラスがやってみせたので、やらざるを得なくなる。成功し、RAMの呼吸法[腹式呼吸の一種]を教えられる。

 

 第12章 狂気: 13世紀に架けられた「名誉の橋」について。1434年にレオン貴族ドン・スエロ・デ・キニョーネスが一人の女性への思慕の証として、この橋を誰も渡らせぬように戦ったという話。三十日の間戦い続け、巡礼を襲う盗賊との戦いに戻った。その日の午後、廃墟となった大きな村フォンセバドンに着く。ペトラスは著者に「影の実習」[影を観察しながら問題解決を考える]を教える。

 自分が追い出した獰猛な犬との格闘。自分を犬に変えて対決する。レジョンについて[まったく不可解: 著者にとりついた力? 大地へと下っていく? それはいつかフォンセバトンを立ち上がらせる?]

 

 第13章 命令と服従: 鉄の十字架にたどり着く[ローマ時代に、街道の安全を祈願する祭祀の場であり、今も然り]。犬との格闘で著者の負った傷を癒さねばならない。高熱が出たので、軍医の診察を受け、狂犬病のワクチンを飲ませられる。二日後に快復。敵は悪を代表しているのではなく、日常的な存在なのだ。死んだ者の幽霊を怖がってはいけない。「音を聞く実習[個々の音を聞き分ける]」を教えられる。手を使って十字架をまっすぐに立て直すよう命じられる。傷ついて包帯の巻かれた手で。

 

 第14章 トラディションの儀式: ポンフェラーダにて。RAMの呼吸法により、鉄の機関車と油の臭いと一体化せよと言われる。ペトラスはトラディションのグループイニシエーションの儀式に参加するので、筆者と別れる。人生は一瞬一瞬に我々にレッスンを教え、秘密をとく鍵は日々の生活の中にのみ示される。

 ペトラスは筆者に「ダンスの実習」(子供の頃聞いた歌を歌い、体の一部で踊る)を教える。あとは筆者の一人旅である。

 ポンフェラーダのテンプル騎士団の城について: 巡礼たちの保護のために建てられた。テンプル騎士団などの宗教騎士団は、イスラム教徒に誘拐されたキリスト教徒の救出も行なったが、1307年、フィリップ四世とバティカンはテンプル騎士団を壊滅させ、その財産を没収した。スペインはこの騎士たちを受け入れ、巡礼を守る任務を与えた。

 テンプル騎士団の城におけるトラディションの会合。筆者は、剣を取り戻したオーストラリア人を羨んだ。

 

 第15章 エル・セブレロ: ホテルに戻ると、ペトラスの巡礼ガイドがキイ・ボックスに置かれていた。ヴィラ・フランカ・デル・ピエルソの泉のところで、「許しの門」に連れて行ってあげると少女に言われる。少女はその鍵を持っており、開ける。だがそこに筆者の剣はなかった。通りでエンジェルという男が聖ヨセフの教会を見たいかと声をかけてくる。その男は小銭を拒んだ。

 小さな村で宿を借り、アストレインを呼び出す。ガリシア地方に入り、トリカステーラという田舎の村に泊まる。そしてセブレロ山に登る。魔法のように霧が晴れ渡り、山頂に十字架が立っていた。道が筆者のガイドであった。白い子羊に導かれる。筆者の中で神が目覚め、自分の近くに師を感じた。教会へと向かう。その教会の祭壇の前には筆者の師がにっこりとして立っており、その手には筆者の剣があった。彼は、聖なる詩を唱えた。雨が降り始め、筆者は差し出された剣を握った。

 

 エピローグ: サンチャゴ・デ・コンポステーラ: 筆者はペドラフィータからバスでこの聖地に着いた(150kmを4時間で)。

 

 あとがき: ヴィラフランカ・デル・ピエルソにヘスス・ハトが二度建てた巡礼者のための避難所アベ・フェニックスについて。ケルトの儀式で飲まれるケイマーダというリキュールについて。

 使徒聖ヤコブについて: ローマ領で福音を広め、イェルサレムで斬首され、弟子のアタナシウスとテオドールが亡骸をガリシアに持ち帰って埋葬した。羊飼いペラジョが星に導かれてその三つの墓に至り、アルフォンソ二世がそこに聖堂を奉献した。ガリシアの浜に船と馬が打ち上げられた時、帆立貝が馬を覆っていた。

 聖地に着いた巡礼は、聖堂の正面扉で「栄光の門」を支える柱の上に手を置かねばならない。

 筆者は20年後に再訪したサンティアゴでサイン会を行なった。

 イグナチウスとフランシスコがイエズス会 Societas Iesu を創設したことについて。彼らの生地はナヴァッラの村、ロヨラとザビエルであった。

 

 画像Wikipediaより

 

 『アルケミスト』ほど面白くはなかったが、まあ、読んでみて損はなかった。旅することは最高の学び。旅は冒険である。これらの言葉はとても気に入っている。