以前にやはり大江健三郎の『広島ノート』を読み、とても勉強になったので、これも読んでみた。文章は、これがノーベル賞受賞作家のものかとびっくりするくらい、ものすごく読みにくかったが、この作家の憤りと無念さがひしひしと感じられた。そして、沖縄が1972年、日本に返還(?)される前に書かれたということを考えても、この本はやはりいつまでも読まれるべきもののような気がした。復帰前の異常な状況は想像を絶する。今でも状況はさほど改善されていないし。

 そもそも沖縄は本当に日本なのだろうか? という疑問すらわいた。かつては薩摩の冊封国だったけれど、今は日本、くらいにしか考えていない日本人は少なくないだろう。だが那覇で買い物をしていると、しばしば聞こえるジェット機のエンジン音。第二次大戦の敗戦後、アメリカが沖縄を基地として、朝鮮戦争やベトナム戦争を戦い、この美しい島を原子力潜水艦の汚染水で汚し、化学兵器と核の脅威にさらしたこと、本土の人はどのくらいわかっているのだろうか、普天間だけの問題ではないのだ、ものすごく全体的な問題なのだ。郷里がこんなことになったことに絶望して発狂した人がたくさんいたのだ。辺野古の埋め立て問題を考えるにはこの本を読まねばならない、と考えさせられた。いくつかメモる。

 

 プロローグ 死者の怒りを共有することによわって悼む古堅宗憲 (ふるげん・そうけん 1930年生まれ、~1969年没)という、伊江島出身の沖縄返還運動活動家の死(一酸化炭素中毒死)について、大江健三郎は支離滅裂な感じで書き始めている。ちょっと引けてしまうほど。[伊江島の大半はなおも米軍基地のままだ。]

 

 Ⅰ 日本が沖縄に属する: 大江健三郎は、沖縄に拒否されているように感じている。琉球処分以来、日本人は沖縄に対しては恥知らずな歪曲と錯誤があるから。「日本人らしく醜い」と卑下してもいる。さらに、第二次大戦後、沖縄が朝鮮戦争とヴェトナム戦争のアメリカ軍基地となり、核の脅威に晒され、原子力空母の冷却水によって汚染されたことにも言及している。広島で被爆した沖縄の人は何も保障されなかったし。

 

 Ⅱ 『八重山民謡誌』'69: 到来する異国船監視のために、西表島に強制移住させられたが、マラリヤによって滅び去った人々について。沖縄がアメリカの爆撃機の発進基地であり続けている[今でも爆音はなくならない]ことについて。那覇港の泥からコバルト60が発見されたこと。1968年、具志川の臨海学校で237人の小学生が、何らかの毒ガスによって集団皮膚炎になったが、海底の泥の調査が米軍によって阻止されたことについて。その原因とおぼしき米軍のCBR部隊が駐留している件について。GBガスが撤去されていないことについて。

 

 Ⅲ 多様性にむかって: 沖縄の人たちにとって天皇とはなにか、と考えている。[もともと沖縄は別の君主を戴いていたのだから複雑である。]米軍基地が置かれているということは、アメリカにとって沖縄は報復核攻撃によって殲滅されるべき対象、とはものすごい言い方だ!!  沖縄には、こんなことになったために精神異常者が多数(100人以上)いるのに精神病棟がない[今はあるようだ]。

 栃木県の医師の『琉球新報』への投稿について: 沖縄は独立国であった。今こそ、独立すべきだ、と。日本は沖縄人にとって祖国ではないのだ、と訴えている。

 『沖縄人の沖縄 --- 日本は祖国に非ず』という辞世を書いた山里永吉という人について。祖国琉球の独立を願って自刃した林世功という人について。今から80年前の琉球人は自分たちは日本人だとは思っていなかった[なんだかイタリアとシチリアの関係に似ている・・・]。

 

 Ⅳ 内なる琉球処分: 琉球処分について考える。林世功のような清国側に立ち、絶望して自刃した人もいたし、廃藩置県受諾を阻止しようという島民が街路にあふれていたというのだ。逆に琉球処分は一種の奴隷解放だという人もいた。

 謝花昇について: 奈良原県知事と対立し、日本人の「中華思想」的感覚を告発し、狂気に至り、死亡した。

 

 Ⅴ 苦が世: 日本の外相[三木武夫かしら?]の沖縄返還に際しての言葉の無神経さにびっくり。日本が敗戦国だという事実に鑑みても、沖縄の犠牲は多大である。「本土の沖縄化」という考えがあること。沖縄の本土復帰は、沖縄人と日本人の乖離を決定づけることになるのではと大江健三郎は懸念していた。安保体制そのものを再考すべきである[日本は今でもアメリカの核の傘下にある]。

 伊波普猷という人について: 沖縄は日本ではない、自然の国境だ、というマッカーサーの沖縄論[たぶん戦勝国の米軍全体の考え方]に反駁した。

 

 Ⅵ 異議申し立てを受けつつ普天間の基地労働者のピケについて: 伊江島もほとんどが基地に占められている。

 

 Ⅶ 戦後世代の持続: 慶良間列島の渡嘉敷島の集団自殺について。「創造」という演劇活動について。佐藤ニクソン共同声明について。

 「こすっからく冷酷な日本人」という大江健三郎の自虐的表現!!

 日本人の事大主義について。アメリカに敗れたのだから、そうするしかない?

 

 Ⅷ 日本の民衆意識大田昌秀の「醜い日本人」について。ひめゆりの塔について。

 

 Ⅸ 「本土」は実在しない: 沖縄住民に集団自決を強制し、投降勧告にきた住民をスパイ容疑で処刑した守備隊長の自己欺瞞について。この記述は後に裁判沙汰になった[下にサイトを貼る]。慶良間の貧民が税金を払えなかったところ、子供を売らせて払わせた話。母親も女郎に身を落とさねばならなかったという悲惨な話。

 

 

 ▼私はこのことも知らなかった。