最近、天海についての小説を読んでいたので、明智光秀のことが気になった。これは軽くて面白そうなので、電車の中などで読んでみることにした。この作家は大衆時代劇作家のイメージがあったが、『僑人の檻』という小説で直木賞を受賞している。読みながら、知らない言葉が多々でてきて勉強になったし、早乙女貢という作家自身に興味がわいた。そしてwikiを見て、これはずいぶん昔、『明智光秀』東方社 1961年、改題『死ぬな光秀』桃源社 1970年、のちの文春文庫であると知った。

 読みながらNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』(2020年)で主役を演じた長谷川博己のイメージがまぶたに浮かんだ。文武両道でカッコよいがややカリスマに欠ける。片や、織田信長は気狂い扱いであり、明智光秀のインテリっぽいところが織田信長の癪にさわったように書かれている。後半の天海僧正部分はあまり詳しく書かれていないので、やや物足りない。前半と中盤は娯楽小説としてとても楽しめた。

 

 明智城陥つ: 美濃の明智城が陥落し、若殿の光秀は落武者となる。[刀の鞘の先端を鐺(こじり)と言うのは知らなかった。]孤児の次郎太と知り合う。

 

 比叡の雪: 十兵衛光秀は延暦寺に入り、学んでいた。そこでは僧兵が暴威をふるっていた。次郎太と再会する。女衒に売られた姉の行方を探していたのである。

 

 堺の鉄砲: 光秀は、堺の鉄砲師、国友又五郎の家にいた。堺の様子。松永弾正が光秀を召し抱えたいと思っていた? 石山本願寺にて、光秀は顕如と会っていた。[乱世の宗教が、法灯一穂のもとに晏如たりえなかった、って私には難しい言い回し⁉︎]顕如は、光秀に修羅の相がひそんでいる、と言う。

 

 越前一乗谷: 光秀、越前の朝倉義景に仕官する。[宿痾とは持病のことなのね。恬然という言葉も珍しい。有為の人物、も。]ここで、足利義輝の弟、一乗院覚慶長岡藤孝と知り合う。光秀、義景のもとを去り、信長に仕官する。

 

 驕児信長: [一揖の意味は私は知らなかった。]光秀、比叡山延暦寺との和平交渉にあたる。坂本に築城する。

 

 叡山焼き討ち: 光秀の奔走により叡山との和議は成立したが、その返事を待たずに焼き討ちが始まる。信長は光秀の分別面が気に食わぬながらも、その知嚢と手腕を認めざるを得なかった。1575年、光秀は日向守に任官。丹波の波多野一族に対し、老母(父の後妻)を人質に差し出し、帰順を促す。信長はしかし、波多野らを磔刑に誅し、光秀の老母は虐殺された。この頃から信長の光秀に対する憎悪、嫉妬、猜疑の念を増大させ、凶暴で加虐的な態度を昂じさせてくる。そして、日向守には出雲、石見(毛利領にある)を与え、丹波、近江は召し上げる、と告げる。かくして、四国攻めを命じられ、丹波の亀山城にあった光秀、13000の兵を率いて本能寺へと向かう。

 

 

 本能寺炎上: 本能寺を襲ったのは光秀の従兄弟、明智左馬助光春の軍勢であった。この時代においては、逆臣や謀反という言葉はおかしい。日常茶飯事だったのだから。二日後、妙心寺に訪ねた勅使は、光秀を将軍とする勅命を伝えた。

 

 光秀の天下: [莫逆の友という言葉も知らなかった。]莫逆の友のはずの筒井順慶と細川忠興はしかし、光秀を支持しない。光秀は、信長父子を討ったので手を組んで羽柴秀吉を挟み撃ちにしようという密書を毛利に送ったが、その密使が秀吉側に捉えられたとも、織田信孝から秀吉のもとに急使が届いたとも言われるが、秀吉はこの事件を伏して、毛利と和議を結び、京へと大返し。そして山崎での敗戦。桂川を渡った時に鉄砲の玉薬が濡れたのが敗因ともしている。

 

 藪の中: 落武者狩り。小柄(こづか)で切腹した武士の顔を刻む。首なし死体。

 

 坂本籠城: 明智光春は安土城を占拠し、山崎に援軍を送ったが、それは消え失せた。光秀の家族は江州坂本城に入っていた。光春は悠々と琵琶湖に馬を泳がせ、坂本城に入ると、籠城せずに家臣たちを退散させる。

 

 光秀の星: 左馬助光春、明智の妻子とともに自害。堀隼人正[おそらく架空の人物だが小説のキーマン]の登場。光秀の家臣、天野源右衛門を見かけて追い、荒れ寺に黒衣の僧たちを見出すも、見つかり攻撃され、斜面を転がり落ちる。

 

 天眼首級: 光秀の首とおぼしきものが秀吉に届けられる。光秀の某将、斎藤利三が捕えられて処刑される。その前に本能寺にさらされている光秀の首(?)を一瞥。

 

 闇の雲母坂: 堀隼人正、無動谷の廃寺に立ち戻る。そして、斎藤利三の遺族に出会った。[吞舟の魚という大物を指す言葉も初めて見た。]さらに、雲母坂にて、光秀の遺族と思しい一行を見つけ、美弥という少女を捕えるも、奪い返され、連れの家族をも取り逃がす。

 

 光秀は生きている: 堀隼人正は、明智光秀を見つけるという執念に取り憑かれ、十年が過ぎる。関ヶ原の戦いでは西軍に加わった。その前夜、美弥に再会し、夫婦の約束をするも、戦さの後で死に別れる。

 

 変身:[閲した、という言いまわしも初めて見た。]隼人正、稲葉正成と会う。妻の福と離縁したという。(福は徳川の竹千代君の乳母に抜擢されたのだ。)お福は老僧天海と会う。

 

 大奥化粧: 隼人正、京で大道芸で稼いでいた時、駕籠の乗ったお福を見かける。(陰謀にて)翌日白昼、そのお福は暴漢に襲われ、隼人正の鉄砲がその窮地を救った。

 

 顕密兼学: 隼人正はお福の家来に取り立てられる[なんだか筋立てがイージーすぎる]。お福、比叡山の横川へ。

 

 天海和尚: お福は東下し、駿府に寄る。その狩場にて、徳川家康は天海と初対面(もっと前では?)。隼人正は、天海は明智光秀だと叫ぶも、倒され、意識を失う。

 

 白髪鬼: 隼人正は江戸に送られ、二年間土牢に幽閉されていた。天海和尚にすがろうと血書をしたためるが、返事はなく、ある嵐の夜、脱獄を図る。

 天海は日光を見て、それを関東の本拠としようとした。脱獄囚の血書を読んだ天海は、彼が娘、美弥の婿であったと知る。

 

 戦雲: 大坂冬の陣が始まろうとしている。方広寺の梵鐘の銘について。

 

 燃えろ大坂城: 大坂の陣にて、隼人正は秀頼側に与していた。天守への砲撃の後、和議が成立し、大坂城の堀が埋め立てられる。

 

 白雲悠々: そして夏の陣。家康の本営は茶臼山へ。そこを真田幸村が突き、家康は逃げ惑う。あじさい寺として知られる鎌倉の東慶寺には、秀頼の養子となった天秀尼が入れられたとのこと。その兄の国松は京の六条河原にて斬首された。

 武家諸法度などは天海の草稿とあるが、果たして? 金地院崇伝はお手伝い?

 最後は天海と婿の隼人正がまみえる。

 

 あとがき: 信長はヒットラーに比肩する異常者だ。一方、明智光秀は教養人だ。

 

 この小説を読んで、明智光秀の見方が変わった。忍者的な活躍をする天野源右衛門、堀隼人正など、虚構の登場人物がなかなか味わい深かった。