知念実希人による推理小説で、2022年本屋大賞にノミネートされたと話題になっていた。結局8位であったが。

 舞台は蝶ヶ岳という長野県の北アルプスの山中である。そこにガラスの円錐形の建物を建てて住む科学者で大富豪が多少なりともミステリに関心のある人々を集める。そこで次々に事件が起きていく。その大富豪は綾辻行人にあこがれるミステリ[推理小説]マニアであった。なぜか読みながら、私は映画『シャイニング』の雪山を思い描いた。あれは凄まじい作品で、雪を見るたびに思い出す。怨念は恐ろしい。

 この作家の筆致は文学的とは言い難いが、後半の展開には惹き込むものがあった。いつか綾辻行人の館シリーズを読んでみようと思った。ほかにも古今東西多くの傑作ミステリへのオマージュに満ちている。

 ネタバレになるので、詳細は書かないが、自分の備忘録として簡単にメモる。

 

 プロローグでは、館の主人の専属医がガラスの塔の展望室で凍えている。物語はもう終わった、というところから始まる構成である。

 

 一日目: 硝子館の主人に招かれた人たち、そこで働く人執事やメイドが登場する。硝子館の構造や主人のコレクションについての説明。専属医が主人を訪ねる。ALSの治療薬が開発されたが、この館の主人が自分の研究を侵害しているとして提訴し、薬剤の承認を妨害している。専属医の妹はその薬に望みをかけていた・・・フグの毒入りカプセルを主人に飲ませる専属医。瀕死の主人が執事に電話し、客たちも皆その現場に集まる。招待客の一人である警官が、雪崩で警察は来られないと告げ、一同は山中に孤立する。

 

 二日目: 自称「名探偵」について。ダイニングで火事が発生するもスプリンクラーで消火。その密室内では執事が殺されており、テーブルクロスには「蝶ヶ岳神隠し事件」という血文字が書かれていた。それは十三年前に起きた登山女性の連続殺人事件であり、被害者たちの白骨死体が見つかったペンションの跡地にこの硝子館は建てられていた。電話線が切られ、WIFIも不可。車もすべてパンクさせられている。

 館の主人の専属医は、名探偵の相棒に立候補する。犯人がどのように密室をつくり、発火させたかを推理する。蝶ヶ岳神隠し事件について、招待客の一人である刑事から説明を聞く。現在も捜査中の事件であることが明かされる。

 

 三日目: メイドが殺され、彼女の自室にて密室殺人。ウェディングドレスを着せられ、腿に拷問の跡あり。上着の下のコルセットに「中村青司を殺せ」のメッセージがある。綾辻行人のミステリに出てくる建築家のことである。名探偵は、シアター(映写室)へ行き、スクリーンを燃やす。そこに秘密の地下室への階段が現われ、そこには、白骨化した遺体の横たわる牢屋がある。失踪した登山者らのもののようだ。館の主人はここで人体実験を行なっていたのだろうか? 

 名探偵は専属医に自分のことを話す。高校生の時に両親が殺されたが犯人が見つからなかったこと、それから自ら名探偵になろうと訓練したこと、など。専属医、階段で何ものかに背中を押され、落下し、怪我を負う。名探偵、聴診器を用いて金庫からマスターキーを取り出す。毒殺された館の主人の遺体を見にいくと、「踊る人形」の暗号が書かれた紙とともに遺体にはナイフが突き刺さっている。

 

 最終日: 関係者全員を集め、名探偵の謎解き披露。先ずは、館の主人が毒殺された時の密室解明。次は、執事が殺された状況と密室のトリックについて。そして、メイドが殺された密室について。一連の殺人事件の犯人を言い当て、その犯人は館の主人を殺したのは自分ではないと言い張り、専属医が彼のポケットに密かに入れた毒をのんで死ぬ[犯人が誰か、その動機などについてはネタバレになるので言わない]。

 名探偵、館の主人を毒殺した犯人を暴き、その犯人は塔の最上階にある展望室に閉じ込められる。ここから先のどんでん返しもネタバレになるので書かない。[ヒントは、DNAのような二重の螺旋階段、「踊る人形」の暗号解読、マジックミラー、フィクションと現実の境目があいまいなメタミステリ、『硝子館の殺人』、虐待、名犯人、ラインバッハの滝。]

 

 

 △このインタヴュー内に硝子の塔の見取り図もある。