第165回直木賞を受けたこの本は500頁以上もあるが、スリリングで飽きずに読めた。テスカトリポカとは何かしらと思ったら、アステカ神話の神なのですね。超ダークな世界を覗くことのできる小説であった。あまりにも暴力的で吐き気を催したくなるほどであった。子供の虐待は、最近のテレビドラマ、ミステリと言う勿れでもテーマにされていたし、ドクターホワイトではクローン人間からの臓器移植を主題としていたが、小説の世界とはいえ、とんでもない闇を見てしまった。川崎には恐ろしくて近寄れないわ。ましてやメキシコには絶対にむり。

 

 1〜7. メキシコの無法地帯を脱出する少女は、アメリカへは向かわず、南へ向かい、アカプルコで働いた後、日本へ向かう。日本で不法労働をした後、川崎のヤクザと結婚し、コシモという子供を産む。コシモは不登校となり、いつしか親よりも大きくなり、正当防衛であったが、両親を殺して少年院へ送られる。

 8〜14. メキシコにおける麻薬戦争。北東部を支配するロス・カサソラスはドゴ・カルテルに侵略される。前者を仕切る四兄弟はドローンによる襲撃を受け、三男のバルミロ以外は死亡する。

 カサソラ家の四兄弟のルーツについて。彼らの祖母リベルタがアステカの神テスカトリポカを信奉していたことなど。親がカルテルに殺された後、兄弟は祖母に育てられる。[リベルタの夫も彼らの末弟も狂犬病の犬に噛まれて狂い死ぬ。]親の仇をとるべく、四兄弟は麻薬輸送業を始める。

 バルミロはコンテナに潜んでオーストラリア経由インドネシアのジャカルタへと逃亡し、コブラサテというコブラの串焼きの屋台を営む。

 15〜21. バルミロは、コブラ調理の屋台を営みつつ、クラックを売る。顧客となった日本人は臓器売買をする人物であり、本人は心臓外科医であった。その心臓外科医が臓器売買人になった経緯。この二人が組むことになる経緯。バルミロの凶暴さ。

 22〜24. 東京の保育士が、闇医師と出会い、子供の虐待を利用している臓器売買の組織に組み込まれていく経緯。

 25〜26. 少年院に入れられたコシモのその後。バルミロは偽造パスポートにより空路羽田から入国することになる。心臓外科医は韓国経由で船に乗り北九州から。

 27〜29. バルミロ、日本に入国。川崎へ。闇医師と接触する。仲間うちでは偽名を使うことになる。多摩川沿いでドラッグの過剰摂取により死亡したカップルの死体を闇医師は解体する。家庭内暴力の被害にあった無国籍児童は崔岩寺の地下で養育されており、そこには手術室がある。豪華客船でやって来る客はここで受け入れられる予定。川崎でアクセサリー工房を営み、ナイフをつくるパブロという男について。その男にバルミロが接触する。

 30〜33. 自動車解体場で働く腕力の異常に強い男について。コシモ、少年院を出て件のアクセサリー工房で働くこととなる。豪華客船が入港する。自動車解体工場での殺し屋養成の訓練について: 闘犬ドゴ・アルヘンティーノを飼育させて銃殺させたり、消音ショットガン「バラクーダ」の射撃練習をさせたり、ナイフのみで闘牛を殺させたりする。コシモがすばらしいナイフをつくる様子。

 34〜39. 神奈川県警の捜査が行なわれるが、その警部補は裏世界に話の通じる男であった。コシモ、自転車に乗り、自動車解体場に犬の餌となる骨を届ける。殺し屋の養成を受けさせてもらえない従業員がコシモに闘犬をけしかけるが自分がその餌食となる。パブロにバルミロからコシモを連れて来いという電話がある。コシモは闘犬を殺していた。コシモ、バルミロの家族とされる。アームレスリングのこと。裏切り者の処刑、人身供犠。寺の地下で養育されている子供たちの日記。

 40〜44. 寺の地下で子供の心臓が摘出され、豪華客船に運ばれ、移植手術が行なわれる。コシモ、殺し屋の特訓を受けつつ、バルミロから「坊や」と呼ばれて特別扱いされ、アステカの資料を見せられ、神々の話を、テスカトリポカの話を聞かされる。コシモ、黒曜石のマクアウィトルを制作する。

 45〜46. 臓器売買に関わるNPO法人の暴力団と中国黒社会が分配交渉に入る。譲歩しない暴力団のために、バルミロらは彼らの競争相手RKGを一掃することになり、訓練された四人の殺し屋が放たれる。マクアウィトルを振うコシモ!! その様子を録画したDVDが、RKGの首領の耳たぶとともに、暴力団に送られる。暴力団は、取り分25%が7%に引き下げる提案を呑まされる。

 47〜50. 2021年、例の豪華客船が入港するも、COVID-19の蔓延のため批判を受ける。寺の地下で養育されている順太という子供が日記に「みんな ころされる」と書く。

 コシモはアステカ神話の神々の夢を見る。バブロは自分のやっていることに恐怖を感じ、敬虔なカトリック信者であった苦労人の父を思う。

 心臓外科医は、自分の手がけた患者が、ドナーのことをまざまざと言い当てたということを経験していた。[私はソン・スンホンの韓国ドラマ『夏の香り』を思い出した。]順太の日記をコシモに代筆させることになる。そのためコシモは子供に会いにいく。子供は、血の臭いがすると言った。

 パブロはコシモをカヌーに乗せて多摩川を下り、マタイによる福音書九章13節を告げた: 「私が求めるのは憐れみであって、いけにえではない」とはどういう意味か、行って学びなさい、と。

 51. 心臓外科医が、加工した子供の髑髏と心臓を摘出された画像をオーストラリアの小児死体愛好者に売り、代金をベトナムに送金していたことが発覚する。

 コシモは順太に、煙を吐く黒い石の鏡の話をすると、少年はその絵を描き、それを知っていると言う。日蝕であった。驚いたコシモは少年をアステカの神官のようだと思った。コシモは悪夢を見る。目覚めると心臓外科医殺害を命じる電話が入る。

 52. バルミロの目的は、資金と戦力を得てメキシコに戻り、ドゴ・カルテルを殲滅することであった。心臓外科医はバルミロに殺されるという情報を得ていたので、殺し屋たちを毒ガスで殺そうとする。コシモ以外の殺し屋と闇医者は絶命し、コシモは心臓外科医の首をマクアウィトルで切断した。コシモは麻酔で眠る順太を、何も知らない保育士に運転させて工房に連れ帰る。保育士と順太は川崎署へ向かうが事故を起こす。工房に来たバルミロはパブロを殺す。六郷橋でコシモ、追いかけてきたバルミロにマクアウィトルを振り下ろし、二人は川に落下する。

 メキシコの刑務所。逮捕されて二年目のドゴ・カルテルのリーダーがいる。彼は、宿敵バルミロの死を知らされる。息子に殺された、と。

 コシモ、沖縄のパブロの娘に、形見のペンダントと金を届ける。[コシモ、生きていたのね!!  順太はどうなったのだろう?]

 バルミロの祖母リベルタが孫たちに語るアステカの神々のこと。