第35歌: アストルフォ、福音者ヨハネ翁とともに、様々な運命の糸を見てまわる。光り輝くもの(フェッラーラとイッポリト・デステ)もある。忘却の川レテに流される無名の名札が多々ある中、二羽の白鳥が神殿へと運び、不滅となる。史上に名を残す人たちは、詩人によって忘却を免れる。思慮ある君主は物書きを友となすべし、と翁は語る。

ギュスターヴ・ドレ画

 話はブラダマンテに変わる。出会ったフィオルディリージに請われ、彼女の恋人を救い出すべくロドモンテの所へ向かう。ロドモンテを破るものの、捕虜らはアフリカに送ったとのことで、イスラム陣の軍港のあるアルルへと向かう。ロドモンテは恥辱のために立ち去り、洞窟暮らしに身を落とす。

 アルルに着いたブラダマンテ、名乗り出ることなく、ロドモンテから奪い返したルッジェーロの名馬フロンティーノを本人に戻し、乙女を介して、不実の騎士に対する槍試合を挑む。ルッジェーロは思い巡らすが心当たりがない。名乗りをあげた他の騎士、ブラダマンテによって次々に地べたに倒され、彼女がルッジェーロとの手合わせを所望していることを彼に告げる。

第36歌: ルッジェーロ、自分と手合わせしたがっている騎士は、リッチャルデットに瓜二つの妹ではないかという噂を耳にして戸惑ううちに、マルフィーザが出場する。だが彼女も地べたに倒され、悔しさで怒る。そこへルッジェーロがやってきて、ふたりを引き離そうとするが、マルフィーザは癇癪を起こす。3人はひとけのない谷間の木立で三つ巴!! と、森の中の墓から大音声(養父アトランテの霊のもの)が響きわたり、ルッジェーロとマルフィーザは双子の兄妹、ヘクトルの血筋だと告げる。さらに、アグラマンテの父や祖父らが彼らの父を罠にかけて落命させたことを聞き、親の敵の血筋に仕えるのは汚点だと言い放つ。ルッジェーロはひとたび臣下の礼をとったアグラマンテを討つのは道に外れた所業と悩む。

第37歌: アリオスト、女人とて文芸の道を究めて名を残すことはできると語り、ヴィットリア・コロンナらの名を挙げるが、話を本筋に戻す。ラダマンテとマルフィーザの軍功とて、男の物書きの妬みのためにさほど後世に知られることがなかったのは残念だと言う。さて、その場を去ろうとした3人は女性の悲鳴を耳にして近寄ると、アイスランド女王の使者とその侍女が下半身丸出しでしゃがんでいた。聞けば、マルガノールの領主による辱めだという。その城主にはふたりの息子がいたが、他人の奥方に欲情を燃やしたために落命したことで、それ以降、女を憎み、殺したり、いたぶったり、衣服を短く切ったり、嫌がらせをするようになったのだという。

 ルッジェーロ、ブラダマンテ、マルフィーザ、このマルガノールの城主を誅し、悪党の身柄を村人のなぶりものとし、城内の分捕り品をウラニアたちに分け与えた。そして3人は道の二股のところで、何度も抱き合って別れを惜しみつつ、ブラダマンテとマルフィーザはシャルルのもとへ、ルッジェーロはアグラマンテのもとへと向かう。

第38歌: ふたりの乙女はシャルルの陣中に歓び迎えられ、マルフィーザは翌日、にぎにぎしく洗礼を受ける。

 一方、アストルフォは月から戻り、聖ヨハネ直伝の薬草にてヌビア王の視力を取り戻させ、王よりビゼルタ[テュニス西方、アグラマンテの本拠地]攻めの援軍を得ると、その10万あるいは8万の歩兵をまじないにより騎兵に変じた。アグラマンテのもとにこの進軍の知らせが届けられ、王は諸侯を召集して評定を開き、この状況下では、お互いの騎士どうしの一騎打ちで決着をつけるよう申し入れることとなる。選ばれたのは、イスラム側からはルッジェーロ、シャルル側からはリナルド!! ああ、ルッジェーロ、愛しいブラダマンテの兄が相手と知り苦悩する。

第39歌: 悩むルッジェーロの戦いぶりにアフリカ王はため息をつく。そのとき、ブラダマンテに忠実な魔女メリッサ、アルジェ王ロドモンテに変身し、一騎打ちを攪乱させ、大乱戦をひきおこし、姿を消す。

 ここで舞台はアフリカの戦場へ。アグラマンテの留守を守る軍勢は脆弱である。人質交換により、パラディンの騎士ドゥドーネが釈放される。アストルフォ、神業により撒き散らした木の葉を船に変える。そこへロドモンテの捕虜となっていた騎士らを乗せた船が着く。それに乗っていたブランディマルテ、アフリカ入りしていたフィオルディリージと再会♡ そこに、狂ったように棍棒を振り回す裸の男が登場!! オルランドである。暴れるオルランドに縄をかけて引きずり倒し、皆でようやく取り押さえ、浜で汚れを洗うと、あの壜の「正気」を吸い込ませた!! ついに正気を取り戻す。そしてビゼルタを攻囲する。

 話はフランスへ。形勢が不利となったイスラム勢、アルルへ退却、大船に怨嗟を載せてアフリカに戻ろうとする。この船団、先だってアストルフォが葉っぱでつくり、ドゥドゥーネに託した船団とでくわし、海戦となる。

第40歌: その船戦の様はフェッラーラの人々には先ごろ体験済みのことなので思い浮かべることができよう、とアリオスト。アグラマンテは小船で逃走する。

 一方、アフリカのビゼルタでは、アストルフォたち、濠を埋め、海陸より攻める。逃げ戻ったアグラマンテとソブリン、その様を目にして涙を流しつつ、避難した最寄りの島で戦さ仲間のグラダッソ[名剣ドウリンダーナを佩いている]と再会し、ランペドゥーサ島にて3対3の騎士による決闘を敵に申し入れる。こうして、アグラマンテ、グラダッソ、ソブリンに対し、オルランド、ブランディマルテ、オリヴィエーロが受けて立つこととなる。

 一方、リナルドと戦っていたルッジェーロへと話を戻すと、1対1の取り決めを破ったアグラマンテにつき従うべきか、愛するブラダマンテのもとに留まるべきか逡巡したあげく、アルルに戻るも、サラセン軍はもぬけの殻。海沿いにマルセーユへと至ると、凱旋してきたドゥドーネと捕虜となっている仲間を目にし、隊列に斬り込んでいく。かくしてルッジェーロ、ドゥドーネと対峙するも、彼がブラダマンテの従兄弟と知るため、手加減する。

第41歌:  ドゥドーネは降参し、捕虜となっていた7人の王を解放する。彼らを乗せた船はアフリカを目指すが、ひどい嵐にあって遭難する。ほとんどが死に絶えるものの、名馬フロンティーノとルッジェーロの[ヘクトル由来の]甲冑と名剣バリサルダのみを載せて南下し、ランペドゥーサに向かうオルランドらに見つかる。バリサルダはもともとオルランドのものであったが、盗人騎士ブルネッロによって奪われ、ルッジェーロに贈られていたのであった。お互い翌日の決闘に備え、天幕で眠る。

 さて、荒波に揉まれたルッジェーロ、ようやく岩礁に這い上がり、隠者によって受洗し、未来のこと、ルッジェーロの子孫たるエステ家のことなどを聞かされる。

 ここで話はランペドゥーサ島での決闘に戻る。名馬バイアルドに跨がるグラダッソ、オルランドから馬を奪う。名馬フロンティーノに跨るブランディマルテ、ソブリンを落馬させるとグラダッソに立ち向かう。ソブリンは、オルランドの振るう名剣バリサルダの一撃を脳天にくらい地べたに倒れる。アグラマンテとオリヴィエーロは互角の立ち合い。オルランド、グラダッソに対してバリサルダを振るい、流血させる。立ち上がったソブリン、オリヴィエーロの馬の後脚に斬りつけ、彼をその下敷きにさせる。グラダッソが切り掛かっても、オルランドのからだは魔法のために一滴も血を流さない!! アグラマンテの窮地を目にしたグラダッソ、ブランディマルテを打ち倒す。

第42歌: オルランドの憤怒は、友パトロクロスを殺されたアキレウスの如し。アグラマンテの首を芦のごとくに斬り落とし、顔蒼ざめたグラダッソを刺殺すると、ブランディマルテに駆け寄り、友の最期に号泣する。馬の下敷きになっていた義兄オリヴィエーロを救い出し、敵将ソブリンを介抱する。

 話はフランスへ。ブラダマンテは去って行ったルッジェーロに対する嘆きと涙を繰り返す。その兄リナルドはアンジェリカを慕い、マラジージにその在処を尋ねると、彼は魔性の者たちを呼び集めて事の次第を探る。アンジェリカが身分卑しいサラセンの若者に身を委ねたことを告げると、嫉妬に駆り立てられ、東をめざして旅に出る。途中の森にて、洞より千の目と蛇の頭髪をもつ鬼女に襲われ、ある騎士に救われる。名を明かさぬその騎士と歩を進め、冷たき泉から水を飲み、渇きと愛を追い出した。その騎士は、リナルドから愛の苦悩を取り払うべく現れた「忿」なのであった。夕闇迫った頃、ひとりの騎士が現れ、妻があるかと尋ね、妻帯している[だったらアンジェリカに惚れたのはまずいでしょ!!]と答えると、宿を貸すという。連れて行かれた豪華な館の噴水は8体の女人像をめぐらせたあずまやで覆われており、エステ家ゆかりの各像[ルクレツィア、イザベッラなど]には名前と賛辞が添えられている。夕餉の後、館の主はみごとな酒杯を持ち出し、奥方が貞節ならば飲み干せるが、不貞ならばこぼれてしまう、お験しなされという。

第43歌: リナルド、必要以上のことは知りたくもなし、とその試みを拒む。主、妻を試して怒らせ、失ったことを語る。主、寝床も用意したが、小舟に乗って川を下るもよしと勧める。フェッラーラに着いた頃、向かいにいた船子が、妻の貞操を試した男が深く傷つき、恥辱にまみれ、試された妻[素敵な犬が欲しくて操を売った]は魔女の力を借りて夫に仕返し[豪華な館が欲しくてムーア人の道に外れた欲望: 男色?に屈したところで姿を現し、責める]をし、差し引きおあいことし、お互いもとの鞘に収まったという話を語る。リナルドはウルビーノからアペニンを越え、ローマを経てオスティアからシチリアをめざす。トラーパニで船を乗り換え、ランペドゥーサへ。だがあとの祭り。ビゼルタに戻り、イスラム王たちの亡骸を手渡す。フィオルディリージが悲嘆にくれる。一行はアグリジェントに上陸してブランディマルテを弔う。フィオルディリージ、墓所にとどまり、勤行に身をすり減らし、ほどなく落命する。オリヴィエーロは、ルッジェーロに洗礼を授けた隠者によって快復する。それを目にしたソブリンも改宗する。そこにとどまっていたルッジェーロも姿を現す。

第44歌: リナルドは、弟リッチャルデットが25歌でルッジェーロに命を救ってもらったことも聞いていたし、隠者は彼とブラダマンテの縁組をリナルドに説く。だが彼らの親、アモーネ公はギリシアの皇帝コスタンティーノの嫡子レオに娘を嫁がせようと考えていた。太っ腹なるオルランド、かつては自分のものであった名剣バリサルダ、名馬フロンティーノをルッジェーロに引き渡す。一行はマルセイユの港に入る。

 一方、アストルフォは、奇跡を起こして素早くヌビア王とその軍勢を故国へ返すと、天馬を駆ってプロヴァンスへと戻る。オルランドらと同じ日であった。

 パラディンの騎士らはルッジェーロをシャルルに引き合わせる。そして華やかな凱旋式!! リナルドは親にブラダマンテとルッジェーロの結婚を切り出すが、娘を皇妃にしたい両親は猛反対する。ブラダマンテ、シャルルに請願する: 自分と試合して勝った者と結婚する沙汰を出してほしい、と。ルッジェーロはというと、レオを殺めるべく陸路ギリシアをめざす。途中のベオグラードにてブルガリ軍とギリシア軍が乱戦中なのを見ると、一角獣の騎士に扮してたったひとりでギリシア軍を敗走させる。小高い丘からそれを目にしたレオ、感服する。

第45歌: ルッジェーロは運命に弄ばれる。その夜、ルッジェーロ、宿で寝ているところを、皇帝コスタンティーノの寵臣ウンジャルドが捕縛する。戦さで息子を亡くした帝妹テオドラはルッジェーロを憎み、いかにして殺すか手ぐすねを引く。ところが一角獣の騎士の武勇に敬服したレオは彼を脱獄させる。そうこうするうちに、ブラダマンテの婿選びの決闘のお布令が伝わり、レオは一角獣の騎士を自分の替え玉に仕立て、ブラダマンテと決闘させようと考える。愛と恩義の間で苦悩するルッジェーロ、レオに連れられてパリに入る。名馬フロンティーノを見せぬよう槍ではなく剣で、それも切れ味の悪い別の剣で立ち会うこととした。ブラダマンテは猛然と攻撃してくるが、ルッジェーロはヘクトルの鎧で防ぎ、自らは攻めず。日没後、シャルルは試合を引き分けた。絶望したルッジェーロ、泣きながら森の中へと彷徨い入る。ブラダマンテも絶望するが、シャルルの裁定に従う気はさらさらない。

 朝になるとマルフィーザ、シャルルの御前に参上し、ふたりが結婚の誓いを立てていることを明らかにしてほしいと求める。アモーネ公は、ルッジェーロの洗礼前のことであれば意味がないと言う。マルフィーザ、兄とレオとの決闘を提案し、シャルルはそれを受け入れる。レオは家来に一角獣の騎士を探させる。

第46歌: アリオスト、この詩が終わりに近いことを航海になぞらえ、港で船を出迎える宮廷人たちを列挙する。

 ふたりの結婚を常に望んできた魔女メリッサ、レオを導き、瀕死のルッジェーロと引き合わせる。レオの優しさにルッジェーロは事情を明かし、レオは驚愕するも、身を引くこととする。ブルガリ人の使者、ルッジェーロが王に選ばれたことを告げる。レオ、ルッジェーロをシャルルの前に連れて行き、ブラダマンテの婿にと推挙する。異を唱えるマルフィーザの前で騎士の兜を取って正体が明らかになると祝福の嵐!! そして豪華な結婚式!! 魔女メリッサ、ヘクトルの妹にして予言者カッサンドラの刺繍した天幕をパリへと宙を運ばせ、挙式後、もとに戻す。その天幕には「イッポリト」の出産が描かれていた。連日、槍試合の興業が行なわれ、その最終日、宴席に乱入する巨漢の騎士あり。35話でブラダマンテに負けて1年1ヶ月と1日の間蟄居していたアルジェの王ロドモンテである。不忠の裏切り者との罵りを受けて、ルッジェーロは挑戦を受けて立つ。激戦となるが、ロドモンテの鎧兜と剣は完璧ではなく、ルッジェーロの剣により、不遜でありし者の魂、怒りを含んで呪いつつ黄泉の国へ。

 

 愛と友情に満ちたこの長大な叙事詩、とても人間くさいところもあり、まるでCG劇画を見ているかのように楽しめた。こんなに値段が高いのは残念なので、ぜひとも岩波文庫化をお願いしたい。そしたら寝たきり老人になっても楽しめる。