先日セブンペイの不正アクセス事件が起きた。よそでも、パスワードを忘れた場合、電話番号とか生年月日を確認されるだけで再発行してもらえる場合がほとんどだから、セブンペイだけの問題ではないな、と考えた。キャッシュレスがどんどん普及する矢先、NHKBS1が「欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論」という番組を放送した。マルクス、ケインズ、アダム・スミス・・・アリストテレスまでも・・・そして今日の世界中の経済学者が貨幣論を展開する。我々凡人はふだん考えもしないことをこの人たちは分析し、論理建てて言葉にする。いくつか銘記したいこともあったのでここにメモる。メイン進行を担うのは経済学者の岩井克人氏である。

 貨幣=それ自体なんの価値もないもの=無が世にいるすべての商品と交換可能な価値をもつことになる→仮想通貨の誕生→貨幣の自由放任しすぎは資本主義を破壊する。

 暗号資産=仮想通貨が市場のグローバル化を促進する。

 ビットコインは二重支払いという問題をもつ→それを解決するには、仮想通貨による取引を一定量まとめたブロックがコンピュータに蓄積され、それは永久に改竄できなくなる→この計算を「採掘」といい、取引の証拠は市場において公のものとなる、つまり国家が介入しないグローバル通貨となる。

 仮想通貨は社会の役に立たない、金融政策を起動させないから成功しないという説がある。

 ビットコインが投機の対象になると、使われなくなり、消滅する。

 貨幣は交換の手段としてうまれたが、やがて人間は貨幣そのものを「商品」として欲するようになった→一方、金属としては価値(実体)がないが純粋な投機手段としての貨幣がうまれた→しかし信用が失われたら貨幣は意味を失う。

 ビットコインに発行量の上限が定められた(2100万BTC)→経済成長に対応できない。

 取引は、価格と価値のせめぎあいであり、その指標(共通の尺度)となるのが通貨である。

 貨幣の本質に根拠はなく、そこに価値がある→デジタル化は必然。

 お金は不安な未来への備え→しかし人々が貯蓄に奔ると不況、デフレ、恐慌に陥る。

 つまり、お金がまわらない=貨幣への欲望→世界的不況へ。

 

 アリストテレスの「政治学」によれば、貨幣の獲得からうまれる富とそれを得たいという欲望には際限がない。無限の欲望にとりつかれると貨幣の蓄積そのものが目的化する。→岩井氏: 貨幣は近代にとっての脅威となりうる。

 

 国家関係とは経済関係である。

 2008年世界金融危機以前、自由放任経済は万能で社会全体の幸福を導くと思われていたが、自己利益の強欲な追求の前にそんなものは存在しない。

 株式投資で設けようとするには、自分が好きな会社への投資ではなく、多くの人が好きであろう会社に投資することになる。つまり大衆の評価が凡庸な偶像を祭り上げる。

=勝ち馬に乗るのが勝ちであり、結果に根拠はない。つまりマネーゲームだ。

 資本主義の原理は「利潤−経費」であるから、技術革新により他との差異をうむことであり、それによる成功は常に続けねばならなくなる。

 ニューヨーク大学院教授スコット・ギャロウェイは言う。ネット空間は資本主義のショウであり、それを演出するIT企業、GAFA4社(Google、Apple、Facebook、Amazon)の合計時価総額はドイツのGDPを超えてしまった。テクノロジーの億万長者たちはしかし、我々の老後といった福利厚生や宇宙開発などの社会事業に関心はなく、自分たちの営利にしか目がいっていない、これが問題である。これらBIGTECの売上と中産階級、一般市民の賃金は正反対を示している。今のアメリカは、300万人の地主に3.5億の奴隷が仕えているようなものだ、と。(トランプさん、中国とけんかするよりしなければいけないことがあるのでは?) 

 今日、資本主義が本来的にもつ不安定性と破壊性が全面的に出てきてしまった。貨幣が無限に蓄積され、それが格差をうみ、環境破壊をうみ、民主主義国家が弱体化により、制御できなくなってしまった。

 人間の欲望には際限がなく、それは所有する量が満足度に比例しないからであり、これは資本主義の問題ではなく、人間性の者代である。そのような人間性により社会は進歩したが、人類は精神的に満足したわけではない。

 資本主義は人間の欲望追求に基づくが、お金に関心のない人の存在がそれを支えている。温暖化に反対したり、金持ちが社会福祉に貢献するよう運動をしたり。

 イスラエルの歴史学者は言う。今後は通貨ではなく、データが取引に関わってくるだろう、と。

 岩井氏: 今日、我々の内面、自由の領域にもGAFAが浸透してきており、その尊厳すら操作されつつある。ネット社会の最もおそろしいことの1つがこれである。「評価」に基づく情報資本主義は最も恐ろしいディストピア(非理想郷)である。つまり、自分たちの行動がSNSで評価される監視社会は、厭うべき全体主義社会の悪夢である。

→どうやって人間の尊厳を守るかが欲望の資本主義の時代における最大の問題だ。同情、共感、連帯、愛情に依存しない普遍的な原理が必要。カントの言う「人間の尊厳」がそれである。それは内的な価値であり、価格のように見積もることができない。

 

 ああ、脳みそが疲れた。今の我々にできることは、今後はなるべくGAFAに儲けさせないようにすることだ。微細な抵抗だが「いいね!」などの評価もやめなければ。