夕食をとっていたら、庭からでかい音がした。
ぼくはすぐにその音が何なのかわかった。
それを確認するため庭に出て、音がした木まで行き、見上げると、葉と枝の隙間に黒い影あった。
懐中電灯の明かりを向けると、そこにどら猫が浮かび上がった。
近所に住み着いている野良猫で、今日は、朝から木に登ろうとしていて、
何度もそれを妨害していたのだ。
猫のお目当ては、木の上にはある鳩の巣であり、そこにいる二羽のヒナだ。
これは猫に仕組まれた野生の本能なのだろう。
鳩を見たら襲いたいのだろう。
僕としては、自然の摂理に反することはしたくなかったのだが、父親が鳩に感情移入していて、
鳩がかわいそうだというので、猫には悪いが大きな声を出して、木を揺さぶって、追い払うことにした。
猫は僕の姿を認めても、慌てることもなく、面倒くさそうに木を降りて
去っていった。
その様子から、もしかしたら、目的を達成したのかも知れないと、ぼくは思った。
ハシゴをかけて、巣を覗いてみた。
やはりヒナは見当たらなかった。
猫が木を降りるとき、口に何かを加えている様子はなかったので、もしかしたら木から落ちたかも知れない。
さっきの音は、猫に襲われたヒナが逃げて、木から落ちた音だったのかもと考えて、地面を探してみた。
ヒナの死体を始末するのも面倒なのだが。
地面に光を当てて、探してみると、ヒナが一羽じっとしていた。
地面と同じ色と迷彩で、一回見逃してしまったが、足元にいた。
よく見てみると、ヒナは首を時より動かして、あたりを警戒していた。
どうやら生きているようだ。
もう一羽をさがした。だが、見当たらなかった。
猫にやられてしまったのかも知れない。
そのヒナを見た父親が素手でヒナを持とうとしたので、制止した。
野生の動物に人間が安易に介入してはいけない。
だが、ヒナの姿に父は心底同情していた。
父親があまりにしつこかったので、ぼくが巣に戻すことにした。
ゴム手袋とマスクをして、落ちたヒナを拾う。
野生の鳩は病原の塊だという。
だから、本当は無視したかったのだが、鳩に感情移入してしまっている父親の命令だから仕方ない。
ヒナは翼を大きく広げ、威嚇した。
それを無視して捕まえようとすると、スタコラと走りだした。
だが、あっけなく捕まえられた。
ヒナの頭を撫でて、手の中で暴れるヒナを落ち着かせた。
ぬくもりが伝わってきて、ぼくまで感情移入してしまいそうになった。
翼も、足も、くちばしも、目立つ外傷はなかった。
恐らく猫に襲われた時に、先程、僕から逃げたように、木から飛び降りたのだろう。
だから、無事だった。
もう一方は残念ながら、野良猫の餌食になってしまったのだろう。
父親はヒナを保護して、自分で飼いたいと言ったが、ぼくはそれをたしなめた。
たとえ自宅敷地内であっても、鳥獣保護区内での狩猟は禁止されているからだ。
このヒナの保護を狩猟と呼べるか分からないが、野生動物には野生のルールがあり、
そのルールに人間がむやみに干渉するべきではないと、考えているので、ヒナを飼うことに反対した。
できることは、このヒナを元の巣に戻すことだけだ。
ふとアーサーCクラークの小説の一節を思い出した。
海辺で転がっていた甲虫を助けて、気持ちよくなっているみたいだけど、
その虫が誰かの家の花を折ってしまうかも知れない。その責任は誰が取る?というもの。
これはアーサーCクラークが考える自然観だ。
人間が自然に介入するという事は、それだけの覚悟が必要だという事だ。
ぼくは巣にヒナを戻した。
僕のポリシーからは逸脱した行為だったが、あのまま無視して、猫やカラスの餌食に
なっていたら、多分、寝覚めが悪くなっていたと思う。
それだけで、ヒナを巣に戻す理由になった。
いまの心配事は、また猫に襲われないかだ。