





まだ薄暗い。日の出前の時間だった。何かトラブルでも起きたのか?、それとも買ったばかりの新車を動かしたいのか?
そのどちらでもなかった。
昨日突如、目の前の田んぼに出現した竹や笹の円錐状の物体。それはどんと焼きと呼ばれるイベントのためのモノらしいのだが、いつそれが実施されるか知らなかった。
母親に起こされた私がベランダに出ると、眼下に人の群れがあった。100人くらいはいただろうか。
円錐は白い煙を出していた。
どうやら火が入れらたばかりのようだ。
パンパンとパンクのような破裂音が響いた。それも花火のように何発も連続して。
それを合図に、大きくなった煙から、炎の柱があがった。
灰の雨の中、炎のダンスを眺めていた。
それにしても、こんな早朝に、家から数十メートルしか離れてなくて、大丈夫なんだろうか?
火事でもないが、あらかじめ消防車が何台も来ていたが、燃えちゃったら後の祭りだろうに。
火柱の隣の家に飼われている、いつも吠えてばかりいる犬は、あまりの迫力に、声を上げることもなくたたずんで炎を見ていた。
その炎の芸術は、一瞬で終わった。
炎の柱が崩れて、火が小さくなると、観客は消えていった。
後には関係者と、消防隊だけが残った。
長年この街に住んでいるが、今年始めてみる光景だった。
この街も宅地化が進み、恐らくうちの前だけがどんと焼きができる場所になったのだろうと思った。
それにしても、どんと焼きって、何なんでしょうね?
調べてみると、どうもこれは出雲地方の風習で、平安時代の宮中行事であったらしい。
竹を組んで、そこに正月飾りや門松などを焼く。
その火で焼いた餅を食べることで、その歳の病を予防できるという言い伝えがある。
東京では廃れたらしいが、まだあったんだね。