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ミツゴ評価 ☆☆☆☆
【書評】近代化の風に乗り、吹かれた戦前日本
昭和初期の大ジャーナリスト 石橋堪山は日本の大陸政策について「満州や中国との貿易額は9億円、一方英米(含英領インド)は21億円、どちらを重視すべきかバカでもわかる」といい 日本の大陸政策を批判した
そう、実は日本にとり 経済的社会的な繋がりはアジア<欧米、特にアメリカだった
特に日本の農村は(高額な小作料を捻出するためもあり)生糸を生産したが そのお客様こそアメリカであった
日本経済はアメリカとはきってもきれない関係だった訳やね
アメリカとの経済交流は必然的に日本社会のアメリカ化(と言う名の近代化)をもたらした
本書のテーマは近代化の波にさらわせた日本人の生活の営みである
大正~昭和初の近代化、産業化は貧富の格差を生み出した
波にのる者 のれない者が生まれ、波にのれた者は都市部を中心にホワイトカラー、テクノクラートとしての中産階級層を作り出した、結果 都市に彼等のための文化が生まれる事になる
デパートが立ち並び 電化製品が生まれ、カフェ 映画 ラジオ ジャズ等が持て囃された
高等教育も普及し、女性の社会進出も進んだ
いわゆる大正デモクラシーである
が、コレはあくまで1部の中産階級相手
地方や都市スラム等莫大な貧困層が存在した事も忘れてはならない(後で触れる)
そんな折、27年の金融危機、29年の歴史的な世界恐慌がやってくる
当然彼等中産階級も打撃を受ける
例えば新卒の就職率が50%を割り込む
面白いのが当時の就職率の高い学科
医学や化学系はわかりやすいが 英文学が持て囃されていた
当時からして 英語が出来ることが重要だった訳やね
だが 上手くいかない学生がいたのも事実
彼等は まぁ当時流行の共産主義に流れる
が、共産主義も中産階級達の心を捕らえられなかった
トップは腐敗し搾取され 警察からは目を付けられ人生真っ暗
そんな中産階級達の心は享楽へ、エログロナンセンスへと流れる
当時はなにかと猟奇的な時代だった
カフェ、が出て来た
カフェの女給になるには特別な資格や教育はいらない 事もあり多くの貧困層や地方出身者が参入した
当然、過当競争となるんだが 固定客からのチップが生活の糧である以上、サービス合戦となる
サービス、が何を指すかは見当がつくだろう
あるいは寺の関係者が葬式で美人の死体を盗んだとか 有名な説教強盗や坂田山心中事件が起きたのもこの頃
近代の波に乗り遅れたモノ 不況により波から脱落したモノが多数出た
またエログロナンセンスな都市に愛想が尽きた人間も大勢いた
彼等のうち いくばくかは、農村に目を向けた
都市をすて 農村共同体へと向かう訳やね
背景には不景気による現金収入の減少がある、地方だとある程度自給自足が出来るのでカネがなくてもやっていける
なおコレが後に軍国主義の下地となる と言われている
個人的に面白かったのが「家の光」という雑誌、ここで 当時 農村の在り方としてデンマークがあげられていた事だ
デンマークという国 先進国の中でも米仏と違い土壌や気候に恵まれているわけでもないのに、デンマーク産農産物は世界的に強い競争力を有している事で有名な国だ
現在でもやはり 土地の少ない日本の農業の見本として注目されている
では何故デンマークが注目されたか
デンマークの強味は単なる農作物の生産ではなく 加工、輸出の一貫性にある
また女性達は質素でありながら 自主性と高い教育を有していた
ぶっちゃけた話 人民公社のイメージと被るな
まぁ結論
現在の日本が"豊かな停滞"とすれば当時は"貧しい停滞"といえるだろう
そんな中、人々は大陸への進出に夢をかけた
日中戦争は確かに日本を豊かにした
読んでいて思ったのだが、日本は「アメリカ」と「中国」に挟まれているんだな、と感じた
戦前の戦略は「中国を獲得するためアメリカと決別する」というモノ
コレはしばしば誤りであったとされる、先に上げた石橋湛山なんかがそう
だが対米権益とは金持ちの権益、都市の権益であったのも事実
アメリカとのビジネスで儲かったのは都市のエリート層のみで 地方にはゼニは廻ってこなかった(とされる)
皮肉な話だが日中戦争は格差を縮小した
戦争に伴うモノ不足は農作物の高騰させ 農村の所得を増やし、労働力不足は賃金を高め また女性の社会進出を進めた
結果 地方と都市、中産階級と労働者、男女の格差を是正した
勿論問題はある、はっきりいえば戦争の名を借りたバラマキにすぎないからだ
だが、そのバラマキを国民が支持した事は事実なんだ
原田泰「日本国の原則」という本がある、石橋湛山賞を取っただけありその歴史観は自由主義基調に基づいている
が 彼が戦前の政策を否定するときの論調はややネガティブである
例えば「酷い格差があったかもしれないが、戦争と違い格差は人を殺さない」「同じバラまくなら国内にバラまいた方がまし」と
だが ソレは、自由主義的な経済政策では格差や貧困に対応できなかった事の裏返しでもある
そういう意味では考えさせられる1冊
当時の経済政策に興味がある方は 野口悠紀雄「1940年体制」「日本戦後経済史」あたりを進める
<追伸>戦時中の象徴である"もんぺ" コレを藤田ツグ治が支持していたのは意外だった
モンペ、といえばモノ不足の象徴と思っていたが、着物に対して動きやすい、女性の社会進出の象徴という一面もあった
パンツルックみたいなモノかな