覆う。

泣き出す。

ごめんね、

言わないけど。


零さないで

溢れるよ

とてもじゃないけど

抱えきれない

今より幼い僕が

つっかえて

言えなかった言葉も

一緒に流れてしまう


見えない様に

目元を覆う

暗いけど

何も知らないまま

今まで来たんだよ

聞こえない様に

耳も塞ぎたかったけど

手は二つしかないから

聞こえてしまったけど。


漏れ出したよ

感情も言葉も全部

覆ってしまえば

何も失わなくていいかと

そう思っていたけど

やっぱダメだね。

分かってたけど、


厚い殻に膝を抱えて

閊えたのは

きっと届かない声

言えば良かったね

もう、無駄だけど。


ねぇ、見えてるよ

もう覆ってないから

掌を離して

見えてるんだよ

耳も塞いでないよ

なのになんでさ、

君はいないんだろうね

そもそも僕は

君の姿を知らないけどさ。

それでも君がいないことは

分かってしまうんだよ


ねぇ。

言えば良かったね。


ごめん、ね。


座り込んだ石の上

冷たさが布越しに伝わる

此処だけは変わってない

同じ様な景色と

あの日と同じような風


それでも変わっていく

移りゆく時代の波は

懐疑の嘘の隠した

呟いた言葉も

今だけは見ないふりして


組んだ足は

土を少しだけ抉って

湿っている地面を

意味も無く見つめた


空は青い。

雲は白い。

同じだね。

違うけどさ。


太股の上で組んだ

両の手を握って

力を込めれば、ほら

君は顔を歪めてる


「分かってる」


同じものなんてない

同じ時間なんてない

同じ人なんて、いない。


いない、んだよ。


分かってるよ

知ってたよ

無くなってしまったけどさ

それでも笑うことも

泣くことも許されないなんて

そんなことはないだろう?

だから今だけはさ、

縋らせてくれよ

君の胸に、

声に、

姿に、


思い出に。


伝えない言葉は

意味を失った

君の背中を見守る

それしか出来ないよ

分かってたけど

言わないだけの

意味と理由だけが

深く心に沈んでいく


「好きだよ」


水を与えた根っこが

芽吹き始めた

それだけの事だけど

一大事だと笑った

君の事だけが

僕にとっては大事で

でも言えないよ

当たり前だと

理由も言わないで

閉ざした箱の中で

泣いていたんだよ


「好きだよ」


辛くて、なのに愛しいよ

とても、とても

抱え込んだ心と

感情の重さは

片手じゃ足りない

両手でも、両腕でも

足りない。

それだけ、君を。


もしも。

僕が。

伝えていたなら。


変わってたかな。

いや、変わらないかも。

でもさ、言えば良かったね。

伝えればよかったね。


もしも、もしも。

言えない言葉が

堕ちていくよ。

君がいないから

宛先のない手紙は

紙飛行機になって

飛ばそうか。

君への言葉と一緒に。


ねぇ、もしも。

もしも、さ。

君へ届いたら。

言わせてくれよ、

もう一度だけ。



好きだよ


って。



君を愛してる


って。


力のはいらない手で

君を抱き締める

失った訳じゃない希望と

薄らと感じる真実は

儚いだけの現実に

花を添えた気がした


僕が一人ぼっちで

君を眺める世界は

どこか悲しくて

それでも柔らかな声で

優しい言葉を吐いて

僕の頭ん中で

芽生える感情を

摘んで笑うんだろう


愛しい、と

言えば浮かんだ

泡と呼気は

白く溶けていくんだ

嘘だと嫌なものだけ

見ないで生きれば

きっと君を知らない

君と歩めない

それでも幸せな人は

僕の背を押す

届かない理想に

掠めた指先が寂しいよ


「もしも、僕が。」

この先の言葉は

言えないよ。もう。

分かってた、けどさ


君はいなくて、

僕もいない。

そんな世界は、

穏やかだったよ

憎いくらいに。

今日の空は青かった

今日も、晴れていた


今日も、生きていた。


カチリ、と嵌る

銀時計の秒針

時間を描くには

まだ遠いようで

気付かないふりして

何度も歯車を回した


笑えればいいね

そう言ったのは

何の罪悪感からか

理解できなかったけど

笑えない冗談と

そう笑い飛ばした君も

大概酷いと思った


いっそ怒ってくれれば

叱ってくれれば良かったのに

何にも言わないことで

何にも起きなかったとは

到底言えたものじゃなかった

それでもそれなりに幸せで

それなりに充実してた

だけどそれは

ただ知らんふりしてただけ

現実を見てなかっただけ

頭ん中じゃ分かってたよ

今でも言えないけど、さ


時間が置いていった

君の時間も一緒に

連れていってくれれば

苦しまなくて済んだのかな

もう、分からないけど

銀時計に重ねた

言葉に歪んだんだよ


目を瞑ってみれば

分かる気がしたけど

ただ暗いだけで

ただ黒いだけで

何一つ分かりやしない


笑えればいいね。

それだけは、今でも思ってる

今でもそう願ってるよ


時計は止まってしまったけど

それでも時間は

君を置いて進んでるよ

なら、それでもいいかも


それで、いいんだよね。


ね。