
九段坂を上って行くと、大勢の人が列を作って
玄米のお握りを頂いていた。
僕らは、お腹も空かなかったので
お握りは頂かなくてよかった。
道の左側に建てられた品川伯の銅像は
首は前に、胴体は後ろにと 落っこちていた。
僕らは、その後ろに回って、緑色の濠(ほり)に面した芝生の上に
腰を下ろして休んだ。
その前には、一段と低い所に 坂になった電車線があって
一台の電車が留まっていた。
・
僕らは手拭いの端やズボンのポケットに入れて持ってきた
ナイフを出して、又調べてみた。
そして、気に入らないモノは その前の方に捨てた。
「あっ!これ煙草じゃないか?」
と、山本君が
足元からゴールデンバットの箱位な物を取り上げた。
「おや?なんだろう、馬鹿に重いぞ!」
と云って開いてみると
そこに出たものは、意外にもピストルの弾丸だった。
「おやおや君!こりゃピストルの弾丸だよ!」
と云われて
「何!ピストルの弾丸?どう、見せ給え!」
と、手に取って見ながら怪しげな顔をした。
その弾丸は交番へ届けることにして、又
僕らは、得意げにナイフをいじくっていた。
・
暫くしてより、交番へ行った山本君が帰って来た。
「やぁ、馬鹿見っちゃったよ」
「どうしたんだ?」
「いや、もう何処の何と云う者で どうしたんだなどと、名前迄すっかり聞かれちゃったんだぞ!」
「ほかには何んとも云わなかった?」
「うん、他には何んとも云わなかったんだよ!」
弾丸のことは、それで済んだ。
・
僕らは、又ぼつぼつと帰ることにした。
銅像の後ろを出て、靖国神社の方へ歩いた。
沢山の石燈籠は皆倒れたのに、あの高い大村益次郎の銅像や
大鳥居は、よく倒れなかった。
僕は初めて、あの社の前を通ったのだが
友達と一緒だったので参拝する暇もなかった。
電車道に面した塀も倒れていた。
僕らは、何時も 電車で行くような長い道を歩いていた。
濠を渡った頃、北の方を向くと 陸軍士官学校の玄関みたいな所が
ガクッと前へ垂れ下がっていた。
濠に沿った路面へは、大きな亀裂が いっぱい生じていた。
続く
(一部読みやすいように、加筆・文体の変更をしてあります。)
