「旅行のスケジュールは、すべて自分で決めます。段取りするのが、大好きなんです」
「このような仕事は、各方面への根回しなど、ちゃんと段取った上で進めるべきでしょ
う」
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最近、「段取り」という用語を動詞形で使う上掲のような例を耳にし、気になりました。なぜなら、「段取り」は、名詞であり、動詞ではないはずだからです。カシオの電子辞書『EX-word』を見ると、例えば、次のように載っています。
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1 『明鏡国語辞典』第二版(2011年)
だんどり【段取り】
〔名〕
事がうまく運ぶように手はずをととのえること。また、その手順や準備。
「仕事の段取りをつける」
〔下線は引用者。用例中の、見出し語を示す記号 ( ― ) は、
文字に変えさせていただきました。=引用者〕
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「段取り+する」の形の動詞がある、という説明は載っていません。また、「段取る」という動詞形も載っていません。それは、『EX-word』に収録されている他の辞典類 〔注〕 においても同様です。
〔注〕
『広辞苑』第六版(2011年)、 『プログレッシブ和英中辞典』第3版(2002年)、
『NHK日本語発音アクセント辞典』新版(1998年)、 『角川類語新辞典』(2012年)、
『知っておきたい日本語コロケーション辞典』(2006年)、
『使い方の分かる類語例解辞典』(2003年)、 『NHK漢字表記辞典』(2011年)、
『最新 経済・ビジネス英語2万語辞典』(2009年)
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だから、「段取りする」とか「段取る」という動詞形が、いっそう気になったのでした。ところが、しかし、念のためと思い他の辞典を開いてみると、「段取り」は、名詞だけのものもある一方で、動詞〔段取る、段取り+する〕が載っているものもあるのでした。
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2 『新編大言海』 (冨山房、初版は昭和7年) / 名詞、動詞
だんどり(名)|段取|
だんどる(自動、四)|段取|
3 『明解国語辞典』 (三省堂、昭和18~42年) / 名詞
だんどり【段取り】(名)
4 『角川 国語辞典』 (角川書店、昭和44~54年) / 名詞、動詞(段取り+する)
だんどり【段取り】名・自サ変
5 『国語大辞典』 (小学館、昭和56~57年) / 名詞、動詞
だんどり【段取】
用例として「段取を付ける」あり。
だんどる【段取る】〘他ラ四〙
6 『角川 用語用字辞典』 (角川書店、昭和56~61年) / 名詞
だんどり 段取り
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「段取り」は名詞だけである、と思っていた者としては、ずっと昔から動詞もあったということに、かなり驚いている次第です。そして、時代により、編者によりそれぞれであることも分かりました。それぞれの辞典に、その後の新版があるのかどうかについては未調査です。
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繰り返しになりますが、時代的に最も新しい『EX-word』に収録のそれぞれの辞典類は、出版社も編者も違うわけですが、「段取り」という名詞のみであり、動詞は載っていません。
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ちなみに、「段取り」の「段」とはそもそも何でしょう。『新編大言海』では、「段取」の語源を次のように説明しています。
階段ヲ設ケテ、次第ニ蹈(ふ)ミ上ル意。
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さらにちなみに、「段取り」の用例で、「段取りをつける」あるいは「段取りがつく」というコロケーション 〔注〕 を載せているのは、 1、 5 の辞典のほか、『広辞苑』第六版、『使い方の分かる類語例解辞典』、『最新 経済・ビジネス英語2万語辞典』 および 『知っておきたい日本語コロケーション辞典』です。『知っておきたい日本語コロケーション辞典』には、ほかに「段取りがいい」「段取りが悪い」が載っています。
〔注〕
コロケーションとは《文・句における語の慣用的なつながり方。連語法》
(『広辞苑』第六版)です。例えば、「相槌を打つ」とは言うが、「相槌を叩
(たた) く」とは言わない、というようなことです。
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もう一つちなみに、Wordにおいて、「だんどりする」は「段取りする」に漢字変換されますが、「だんどる」で「段取る」への漢字変換はできません。