東京新聞(2013/2/11)の 「くらし歳時記」 というコラムで “ツバキの天ぷら” について書いている (文・広田千悦子)。食用に適するのはヤブツバキで、七分咲きの花のがくを外して、薄めの衣で揚げる。「お塩や天つゆでいただきます。季節を楽しむ一品です」 とのこと。写真のキャプションにも 「季節感を丸ごと味わえる一品です」 とあった。
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このような場合、「一品」 は “いっぴん” だろうか、“ひとしな” だろうか。私は、ずっと “いっぴん” だと思っていたのであるが、このごろテレビで、よく “ひとしな” という言い方を耳にする。そこで、この機会にということで、辞書にあたってみた。結論としては、“いっぴん”、“ひとしな” どちらでもよい、ということのようである。
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『明鏡国語辞典』初版、第二版
いっぴん【一品】
〔名〕
1 一つの品。ひとしな。
「 ― 料理 (=客が一皿ずつ自由に注文できる料理。アラカルト)」
2 最もすぐれた品。絶品。逸品。
「天下 ― 」
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『広辞苑』第六版もほぼ同様である。ただし、“1 一つの品” の次の “ひとしな” という部分がない。そして 「ひとしな【一品】」 という見出し語は、『広辞苑』 『明鏡国語辞典』 ともに、ない。以下、上記の 「 1 」 の意味について探ってみたい。
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『広辞苑』 には、「ひん【品】」 の見出し語がある。
ひん【品】
1 しな。しなもの。「3 ― (さんぴん) 盛り合わせ」
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つまり、『広辞苑』は、“いっぴん、にひん、さんぴん、…” という用法のみであり、“ひとしな、ふたしな、みしな 、…” という用法は出ていない。
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一方、『明鏡国語辞典』 では、料理などの種類を数える語として、「ひん【品】」の見出し語で、 “五 ― の料理が並ぶ”、 「しな【品】」 の見出し語で、“八 ― のコース料理” というような用例を載せている。
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さらに、『数え方の辞典』小学館(2004) で 「料理」 の数え方を見ると、「漢語数詞+品(ひん)」、「和語数詞+品(しな)」 であるという (辞典では記号による表記)。つまり、“いっぴん、にひん、さんぴん、…”、“ひとしな、ふたしな、みしな、…” ということである。ただし、和語数詞の場合は、数詞 「 1 」 に 「品」 が付く際に 《 「 1 」 の読み方がどうなるのかを基準に表示しました》 とある。したがって、例外もあることを、次のように説明している。
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例えば 「1皿」 は 「ひとさら」 としか読めませんが、「2皿」 「3皿」 とな
ると、和語数詞に付いて 「ふたさら」 「みさら」 と読む以外に、漢語数詞
に付いて 「にさら」 「さんさら」 と読むこともあります。
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肝心のツバキの花の天ぷらのことであるが、私も、季節感を楽しむ一品を味わってみたいと思ったのであった。昔、田舎でドクダミの葉の天ぷらを食べたことがあり、香ばしかったことを覚えている。ツバキの花の天ぷらは、「しべの部分がほんのり甘くて、花のかおりが口の中にかすかに」 残るとのことである。ただ、この天ぷらは、どこかの店の料理というものではないから、食べるなら自宅で揚げるしかない。ところが、私には天ぷらを揚げるという習慣がないので、どうしたものかと思案中である。…