ポワロはシリアで仕事を終わらせ、列車に乗ってイスタンブールへと向かうところだった。同じ電車には、20代後半と思われる女性と、40代の男性の2人が乗っていた。イスタンブールへ着くと、数日滞在する予定のトカトリアン・ホテルに向かった。エントランスカウンターで手紙を受け取ると、そこにはロンドンより早急に戻る指示があったため、ホテルの滞在を諦め、すぐに寝台列車のチケットを手配してもらった。しかしオリエント急行の寝台車は満室で、部屋が取れない様子だった。一緒に居合わせた鉄道会社の重役ブック氏の計らいで、なんとか2等に部屋をとることが出来たため、ポワロはオリエント急行へと乗り込んだ。
寝台列車に乗った翌日の昼、食事をしていると列車に乗り合わせたラチェットというアメリカの老人から仕事の依頼をされる。命を狙われているため、守ってもらいたいと言う話だった。しかしこれをポワロは「顔が気に入れない」と断る。この日はブック氏がアテネから合流した普通客車に移るため、ポワロは1等の部屋に移る事になった。そこは奇しくもラチェットの隣の部屋だった。
その日の夜、物音がして目が覚める。隣の部屋からベルが鳴り、少し戸をあけると車掌が部屋に向かっていた。隣のラチェットの部屋からは、車掌にフランス語で「何でもない、間違いだった」と言っているのが聞こえた。その後はなかなか眠ることが出来なかった。汽車の振動が止まった事と、車掌を呼びハッバード夫人が話す声が聞こえたからだ。ポワロは車掌を呼び炭酸水を一杯もらってからもう一度眠った。
翌日起きると、汽車はやはり雪で動けなくなっていた。昨晩からユーゴスラヴィアのヴィングコヴツィーとブロドの間で止まっているとのことだ。とりあえずポワロは食堂車に向かい食事をとる事にした。すると食事をとっていたポワロの所に車掌がやってきて、ブック氏の所に来るよう言われる。ブック氏の所に行くと、ラチェットが死んでいる事がわかった。窓は開いていたが雪に足跡は残っておらず、ドアは鍵がかかっていたため密室殺人が起きた様であった。ブック氏から事件の解明を依頼されたポワロは、まず事件現場を見る事にした。
ブック氏の知り合いで乗り合わせていた医師のコンスタンチン博士によると、殺害時刻は昨晩12時~2時頃、遺体にはナイフで12の大小の傷を付けられていた。傷口は筋肉を断裂している物やかすり傷の様なもの、右利きの人が刺した傷に1つだけ左利きの人が刺した傷があり、またいくつかの傷口は死んでから付けられた様であった。犯人は2人いるかもしれないと言うことだった。また現場のごみ箱には、ラチェットはパイプを吸わないにも関わらずパイプクリーナーがあり、床には女性物の上等なハンカチがイニシャルの”H”入りで落ちていた。ラチェットのポケットには壊れた時計が入っており、1時15分で止まっていた。
さらにポワロはラチェットの部屋のごみ箱から燃えた紙を見つける。アルコールランプとはさみごてでこれを復元しようとすると、「幼いデイジー・アームストロングを忘―」と一部であるが文字を読み取れた。これを見たポワロはアームストロング幼児誘拐事件の事を思い出し、ラチェットが誘拐犯カセティであり、今回の殺人事件がこの誘拐事件と関係していると推測する。
事件現場を一通り見終わったポワロ達は、他の乗客と車掌の聞き取り調査を始める。
相関図
主従関係① |
ラチェット、マッキーン、マスターマン |
主従関係② |
ドラゴミロフ侯爵夫人、ヒルドガード・シュミット |
昔からの知り合い? |
アーバスノット大佐、メアリー・デベナム |
夫妻 |
アンドレニイ夫妻 |
知り合いなし |
ハッバード夫人、ハードマン、アントニオ・フォスカレリ、ピエール・ミシェル |
②へ続く