無人の家で発見されなかった手記 -15ページ目

無人の家で発見されなかった手記

──ある素人小説家の陳述

 僕の昆虫ミステリ執筆は終了しました──と前回書きましたが、一応、これだけは追記しておいたほうがよさそうなやつを。

 当時読んでいた書籍で、『新・本格推理』という文庫のシリーズがありました。
 これは、鮎川哲也さんが編者として長く続いていた『本格推理』シリーズの続篇に当たるもので、二階堂黎人さんが編者をされてました。
 アマチュアの一般公募の中から、優れた作品を毎回8作ほど掲載するという企画です。アマチュアならではの破天荒なアイデアもあれば、堅実で巧緻なロジックもあり、たくさんの個性が揃ったユニークな本で、新刊が出るたびに即購入していました。

 そしてあるとき、これに応募してみたらどうなるんだろ? と思い立つわけです。
 いや、あんた才能ないだろ、時間の無駄だよ──と囁く自分がいたのですが、新たに作品を書くのではなく、過去作から評判がいいやつを引っ張ってきたら、どの程度の評価を得られるものであろうか、と試してみたくなったんですね。たぶん。

 選んだ作品は、5作目の昆虫ミステリ短篇「幽霊屋敷の渦巻」でした。
 当時WEB公開していた中では特に外連味が強く、ウケもよかった一品なので、もしかしたらいい線行くかも──と、またもや勘違いしたわけです。

 問題としては、枚数が133枚と、規定オーバーだったこと(応募条件は枚数100枚以内)。それと、内容がシリーズ探偵ものの一環であるということ。初見だと判らない、レギュラーキャラクターのネタが散りばめられているわけですね。
 ですが、このふたつの問題点については、同時に解決できそうです。シリーズネタを削れば、自然と枚数も減りますからね。あとは初見でもキャラクターの関係性が理解できるように加筆すればノー問題。
 そうして100枚に仕上げた、“ノンシリーズ版”の「幽霊屋敷の渦巻」。これを、光文社さんへ応募してみました。

 その結果は次回に──。

 

 

 

 

 本格ミステリの第2長篇『十二月のマンティス』が玉砕し、次に書いたのは、ノコギリクワガタをテーマにした長篇『ソー』でした。原稿用紙385枚と、前作より11枚だけ増えています。

 これは夏の山の避暑地が舞台で、足の不自由な車椅子の少年がいて、彼には仲のよい幼馴染がふたりいるのですが、うちひとりが殺されてしまい、いつもの探偵役(昆虫写真家)が巻きこまれる、的なやつだったと思います。確か連続殺人に発展して、もうひとりの少年も死んじゃう気がします。で、どうやら三人の過去に関わっている、ひとりの少女の死が、今回の事件に影響しているっぽいんじゃね? という感じ。鋸で切断された死体とか、鋸で密室の閂をこじ開ける場面とか、何かと鋸づくしな話でした。もちろんクワガタも深く関わってきますよ。

 今だから言えますが、このストーリーとかテーマとかって、Coccoの名曲「もくまおう」の影響を非常に大きく受けていました。小説というよりは映画を作る感覚で執筆し、ラストシーンとエンドロールではこの歌が流れることを想像して書いた記憶があります。

 この作品は、自分では結構気に入った出来栄えで、結構自信を持っていたのですが、知人の何名かに読んでいただいたところ、GoodとBadに評価が分かれました。で、僕はマイナスの意見に凄く弱いたちなので、Badの理由を聞かされて、確かにそうだよなあ、言うとおりだよなあ、この話は駄目だよなあ、駄作だよなあ、と塞ぎこんでしまいました。知人が悪いわけではありません。過去2作が『メフィスト』誌上で酷評されたこともあり、自分にはミステリの才能がないんだな、と、ここで見切りをつけることにしました。

 結局この作品は、応募しませんでした。

 その後は、頭の中にあった短篇のアイデアをふたつだけ形にして、僕の昆虫ミステリ執筆は終了しました。

 たぶん、ここでさらにやる気を出したり、あるいは平然と送ったり書き続けたりできるような人が、プロになったりするんでしょう。

 

 

 

もくまおう もくまおう
250円
Amazon

 

 続き。
 2作目の本格ミステリ長篇『12月のマンティス』〈メフィスト賞〉へ送ってみたの巻ですね。
 はい、結果はこんな感じです。



 なんか散々ですね。

 後味を悪くしたのは、わざとです。だって、悲劇なんですもの。この話の重要なテーマなんですもの。

 ちなみに「またか」というのは、前に紹介された関係ない作品のことです。
 そして相変わらず文章だけは褒められているという(笑)。他に褒める部分がないんでしょうなあ。

 さて、この評価を受けて、またすぐに、次の長篇を書きました。
 今度は後味まあまあですよ(笑)。
 タイトルは『ソー』
 SAWですね。何せ、テーマ昆虫はノコギリクワガタですから。
 もちろん当時は、映画『SAW』など存在していませんよ。存在してたら別の題名にするわ。

 ちなみに『SAW』一作目は大傑作なので、観ておくといいことありそうですよ。

 どんな内容なのか、そして顛末はどうなったのか。
 それは次回。

 

 

 

ソウ (字幕版) ソウ (字幕版)
199円
Amazon

 

 本格ミステリの長篇を書いてみた話、2作目は、カマキリをテーマにした連続殺人ものでした。
 その名も『十二月のマンティス』
 超かっこよくない? 中二っぽくない?
 実は元ネタがありまして、それは、北野武さんが映画『3-4x10月』につけようとしていたらしいタイトル『八月の毛沢東』なのです。のちに、この題名の歌も作られてましたね。いや、作品の内容には、まったく関係ないですよ。

 今回は足跡密室、それも雪密室に挑戦してみようと思いました。ミステリでよくある、足跡の状況的に見て「密室」だよね、というやつです。なぜか犯人の足跡が残っていないとか、被害者の足跡が残ってないとか、そういうの。
 しかし、昆虫ミステリで雪の足跡密室をする場合、ひとつ難点がありました。

 ──真冬に虫いないじゃん!

 そうです、冬は虫がお休みする季節。昆虫ミステリとは相性がよくないんですよね。
 ですが、実はこの前に短篇「雪よ解けるか」で、真冬の雪山を舞台にした昆虫ミステリをすでに書いていたりはしてたので、長篇でもなんとかなるだろうと考えて考えて、考え抜いて出てきたのが、カマキリでした。
 もちろん、カマキリも冬には活動しません。冬までしぶとく生き残る個体もいるみたいですが。冬のカマキリといえば、そう、卵嚢ですね。卵です。
 自然現象が作る足跡密室(雨のぬかるみとか、積雪とか)へのアプローチとしては、結構、画期的だったんじゃないかなーというアイデアを盛りこみ、さらに、連続殺人の関連性が謎になっているというミッシング・リンクの要素も取り入れました。
 それと、若干の余裕というか遊び心が出てきまして、作中にラヴクラフトだとか特撮といった趣味についても書き加えてみたりして(少し後悔している)。

 原稿用紙換算で374枚と、前作より80枚ほど減りましたが、まあ、そのぶん密度が濃くなったと思えばいいんじゃないでしょうか。
 そしてこれも、〈メフィスト賞〉へ応募してみたわけですが……。

 

 

3-4x10月 [Blu-ray] 3-4x10月 [Blu-ray]
3,163円
Amazon

 

 続き。
 始めて書いた本格ミステリ長篇『百足御殿の密室』を、〈メフィスト賞〉に送ってみたところでしたね。
 それでは、結果をどうぞ。


 

 ダメだ、こりゃ。

 

 とはいえ、座談会で取り上げていただいてますよ。欄外じゃないですよ。
 ということは、やはり、それなりの筆力はあるということなのでしょう。以前に書いた数々の習作短篇や、300枚や840枚の長篇は、文章修業としては無駄じゃなかった、ということなのでしょう(今回のミステリ長篇も、結局は修行の続きだったわけですが)。

 まあ、結構厳しいことも書かれてありますが、というか、同じトリックって何で使われてるやつだ? こういうところでも、古典を読みこんでいないと不利ですね(というか致命的)。
 この数年後に刊行された某有名ミステリ作家の作品で、類似のトリックが使われているのは見つけたんですが、もちろんそれではないですしねえ……。

 ともあれ、座談会で取り上げられ、文章を褒められたことで、さらに勘違い、あるいは増長してきた僕は、第2長篇ミステリを書いちゃうわけですよ、これが。