スタジオジブリ
『吾輩はガイジンである。』(岩波書店、2016年)はとても興味深い本だ。著者は、徳間書店やスタジオジブリで15年間働いたスティーブン・アルパートさん。ジブリの鈴木プロデューサーのすごさ、徳間書店の社長の存在感、ジブリとディズニーの関係、地道な作業と華やかな舞台。生々しい証言が力みなく、時にはジョークを交えて続けられる。歴史的にも価値がある証言だ。だが、桜内篤子さんの翻訳はまじめというか説明的というか語尾が単調な印象で、リズム感が少し足りないようにも感じる。「~した」「~追った」「~始めた」「~見た」など、延々と「た」で終わる過去形の文が続いているかと思えば、「~いる」「~する」「~急ぐ」「~早くなくなる」「~ほぼなくなる」など、「る」などで終わる現在形の文が続いたりもする。臨場感が削がれているような気がする。また、ところどころ小さな誤訳と思われる表現が見られる。それでも内容がおもしろいので読み進めたが、最後の方にも下記のような記述があった。p335「昭和天皇崩御の後、その葬儀のために来日した外国の元首を現在の天皇が迎えたとき、(略)日本の天皇がリヒテンシュタインの大統領を見て認識し、その夫人の名を知っていることまでは期待されていない。」ここで「あれ?」と感じる人も少なくないだろう。リヒテンシュタイン公国は「公国」を名乗っているだけあり、元首はリヒテンシュタイン公だ。大統領制ではない。絶対君主制に近いミニ国家だが、議会はある。首相はいるが大統領は存在しない。原文では president だったのか何だったのかわからないが、大統領と訳すのは適切ではないだろう。著者や翻訳者が恥をかかないように、一般的には校閲者や編集者がファクトチェックを行う。ただ、自費出版や雑誌出版においては、正確さよりもコストやスピード感が重要なので、スルーされることも多い。(自費出版を試みる人は、誤った表現をいくつか故意に原稿に入れておいてもいいと思う。きちんとした編集者であれば、5個のうち3~4個は発見してくれる。0~1個しか指摘されなかった場合は、ろくに読んでもらえていないということだ)ただ、この本の出版元は岩波書店だ。硬派でしっかりとした本づくりをしている印象。そういった会社が、「リヒテンシュタインの大統領」などといった文をチェックすることなく記載するだろうか。どのような人が編集をしたのか気になる。また、本文の最後の文章と俳句の意味がわからなかった。自分の作った句をジョークで「芭蕉の句」と紹介したのだろうか。いまいちよくわからない。p353(本文最終ページ)「私は傑作の完成祝いに加えてもらえたことに(素直な)喜びと感謝の念を表現できたと思う。その反面、そのときの心境と日本におけるガイジンとしての自分の立場をうまく表していると思う有名な松尾芭蕉の句を思い出さないわけにいかなかった。 初仕事 外人も仲間を ほしげ也。 No fins, no flippers The gefilte fish doesn’t swim Like the other fish. 」「有名な松尾芭蕉の句を思い出す」と書けば、その後には芭蕉の句を掲載するのが通常ではないだろうか。しかし、明らかに俳句の基礎を把握していない俳句らしきものが書かれている。著者の自作の日本語の句かもしれないけど、この表記は不適切。> 初仕事 外人も仲間を ほしげ也。すくなくとも、語尾の「。」は取るべき。また、575ではなく595になっているのはバランスがよくない。さらに、故意でもない限り、通常は中七の前後に全角空きを入れない。「ガイジンも仲間ほしげに初仕事」「ガイジンも仕事始めの仲間かな」「よそ者も仲間に数え初仕事」などと調整するのも一案ではないだろうか。日本語の俳句の次に英語の俳句があるが、翻訳というわけではなさそうだ。英語の句を訳すと、下記のような感じだろうか。「尾ひれなく魚団子の友追えず」あるいは「尾ひれなくはんぺんもはや海行けず」。しかし、そのような意味の句が松尾芭蕉の句にあっただろうか。残ながら知識が少ないのでよくわからない。英語の俳句にある「ゲフィルテ・フィッシュ」は、「ユダヤ教徒の伝統的な魚料理のひとつで、魚肉のミートボールやつみれのような形に調理されることが多い」とか。どうしてこのような俳句を最後に置いたのかが気になる。日本語版ではあまり意味が伝わってこなかった。岩波書店のサイトを見ると、書籍の正式名称『吾輩はガイジンである。』ではなく、『吾輩はガイジンである.』と記載してあった。「。」と「.」の違いは区別しておきたい。芸名でも「Melody.」とか「モーニング娘。」とか、「KABA.ちゃん」はそれぞれ「。」と「.」とはっきり区別している。岩波書店は「モーニング娘。」のことも「モーニング娘.」と表記するのだろうか。https://www.iwanami.co.jp/book/b266310.html> 吾輩はガイジンである.> ジブリを世界に売った男>> 『千と千尋の神隠し』アカデミー賞受賞の陰に,この男の活躍あり.ジブリの海外ビジネスを切り拓いた人物の,ユーモア溢れる回想記.<参考>吾輩はガイジンである。――ジブリを世界に売った男 (日本語) 単行本 – 2016/9/16スティーブン・アルパート (著), 桜内 篤子 (翻訳)https://www.amazon.co.jp/%E5%90%BE%E8%BC%A9%E3%81%AF%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82%E2%80%95%E2%80%95%E3%82%B8%E3%83%96%E3%83%AA%E3%82%92%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AB%E5%A3%B2%E3%81%A3%E3%81%9F%E7%94%B7-%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%88/dp/400061150X