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スティグリッツ教授は27歳でイェール大学の正教授の座に就き、ジョン・ベイツ・クラーク賞、スウェーデン国立銀行賞を受賞、実務においては世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミストを歴任し、クリントン政権下のCEA委員長も務め、さらに研究においては経済学の理論6大分野ーマクロ経済学、ミクロ経済学、公共経済学、金融経済学、国際経済学、開発経済学ーすべてにおいて情報の非対称の観点から国際的貢献を果たし、論文の引用数世界一の記録を持つ、世界で最も影響力をもち、理論経済学を究めた大経済学者です。
スティグリッツ教授はその効果は一定程度はあると認めながらも安定化政策に金融政策を使うことに否定的な経済学者です。
スティグリッツ教授によれば、優れた安定化政策の条件は、次の7つの条件を満たさなければなりません。
Ⅰ、速やかに実行する
ジョージ・W・ブッシュ大統領の対応の遅れは、コストの増大を招きました。GDPギャップを修正しなければ失業率、あるいはインフレ率が高止まりします。経済政策が100%の効果を表すまでには、数か月の時間を要します。だから、経済への資金注入は速やかに実行しなければなりません。
Ⅱ、実効性を担保する
金を使うからには、実行性、すなわち雇用と産出量を大きく押し上げる効果がなくては意味がありません。公共投資や減税、給付金を出せば、必ず乗数効果が生じます。公共投資を例にとれば、政府が建設プロジェクトに資金を注ぎ込めば、建設作業員はもらった給料で商品を買い、買われた商品の製造元の社員も、もらった給料で別の会社の商品を買います。このようにして、効果が増幅されていくので、増加する国民所得の総計は、最初の政府支出額を大きく上回ることになります。
アメリカ経済の短期乗数は平均すると約1,5。政府が10億ドルを支出すると、その年度のGDPは15億ドル増加する計算になります。長期乗数はもう少し倍率が高くなります。政府支出の効果が1年にとどまらず、翌年や翌翌年まで続く場合があります。
また、支出の種類によって乗数は変化します。例えば、政府がイラクの請負業者に建設を発注した場合、支出に関連する消費が国外で行われるので、乗数は平均より低くなります。同様に、還付金の大部分が貯蓄にまわされてしまうので、富裕層の減税も乗数は低くなります。しかし、政府が失業手当を増額した場合、乗数は高くなります。収入が途絶えた人々は、手当のほとんどすべてを消費にまわすからです。
Ⅲ、国家の長期的問題の解決をうながす
低い貯蓄率、社会保障を含む高齢者向け施策の慢性的な財源不足、インフラの老朽化、地球温暖化などの問題は、国家の長期的展望に暗い影をなげかけます。安定化政策を案出するさいには、問題のある分野に狙いを定め、問題が解決に進むよう、少なくとも問題が悪化しないよう、配慮する必要があります。
Ⅳ、実物投資に重点を置く(以下、実物投資=投資とします)
包括的な安定化政策を打てば、財政赤字の増加は避けられません。しかし、国家のバランスシートを見るときには、負債の部だけではなく資産の部にも注目するべきでしょう。安定化政策の支出が資産投資にあてられ、この資産が継続的な生産性向上に役立つなら、長い目で見ると、安定化政策の結果として国全体の状況が良化することになります(短期的な産出量の上昇と失業率の低下も望めます)。
アメリカが海外から莫大な借金をしている現状では、バランスシートの改善はとりわけ大きな重要性を持ちます。借金による消費で経済を活性化させる国は、将来、元本もしくは利子の支払いが始まったとき、生活水準の低下に見舞われる可能性が高くなります。一方、投資で経済を活性化する国は、将来、産出量が押し上げられる可能性が高く、うまく投資をすれば、金利以上の収益を上げることも不可能ではありません。優良な投資は、現世代だけではなく次世代の生活水準も向上させてくれます。
Ⅴ、公平を旨とする
近年、中流階級のアメリカ人は、上流に比べて重い負担を押し付けられてきました。安定化政策を設計する際には、この点を留意する必要があります。2001年と2003年にジョージ・W・ブッシュが行った減税は、もっぱら富裕層が恩恵を受ける施策であり、これは公正さの観点から見ると問題外です。
Ⅵ、危機を原因とする緊急事態に対処する
経済の下降局面では、しばしば地方政府が財政不足に陥り、全国各地で人員削減を余儀なくされます。仕事を失うことは健康保険を失うことを意味します。住宅ローンの支払いに窮している人が、失業もしくは家族の病気という事態に襲われると、かなりの確率でローンは債務不履行を起こします。安定化政策は可能な限り、これらの問題を解決する方向で策定しなければなりません。
Ⅶ、雇用問題を狙い撃ちにする
雇用喪失が恒常化してしまった場合には、安定化政策の中に失業者の再訓練を組み込み、将来の仕事に必要な技能を習得させる必要があります。
以上7つの条件は、互いに相克することもあれば、互いに補完し合うこともあります。大抵の場合、緊急事態を鎮めるための支出は効果が高い(乗数効果が大きい)が、この手法では有効な資産は形成されません。自動車メーカーの救済は、一時的には雇用を守っても、資金をどぶに捨てる結果となるでしょう。また、道路建設への投資は、世界の長期的重要課題のひとつ、地球温暖化問題を悪化させかねません。最新鋭の公共交通システムに投資するのが賢明と言えます。一切の見返りも求めずに、銀行に救済資金を支出すれば、アメリカの富裕層のふところが肥えるだけであり、乗数も限りなくゼロに近くなります。
ビルト・イン・スタビライザーという財政政策は、経済が悪化すると自動的に支出が増大する仕組みであり、最も有効な安定化政策と言っていいと思います。この装置をあらかじめセットしておけば、経済が必要とする政府支出のレベルを滴定し、適切な量の増額を行ってくれます。ビルト・イン・スタビライザーの例としては、失業保険制度が挙げられます。失業率が上昇すれば、自動的に給付支出が増え、予想より早く景気が回復すれば、自動的に給付支出は減少します。
念のため、明示しておきますが筆者自身はある経済状況にコミットし、各経済主体のナッシュ均衡を「支出をする」ということにさせることに関して最も柔軟に対応できる金融政策が一番重要だと考えています。